目次
・GDPが低い一方で、物価が高いインドネシアの農村部を開拓
・関わる全員が利益を得るサプライチェーンを構築
・日用消費財や化粧品を扱う企業とのパートナーシップに意欲
GDPが低い一方で、物価が高いインドネシアの農村部を開拓
―創業の経緯を教えてください。
私はインドネシアの二次都市と農村地域にサービスを提供する家族経営の小売業を営む環境で育ちました。幼い頃から、両親と共に農村部を訪れる機会がしばしばありました。その際、二次都市や農村に来た時に自分のおこづかいが早くなくなることに気付き、その理由について大きな疑問を持っていました。反対に、首都で過ごすときはお金を節約できることに気が付き、二次都市と首都の間に経済的格差があることを実感したのです。
大学で経済学を学ぶ中で、インドネシアにおいて一人当たりのGDPが首都の3分の1から5分の1程度の低さにも関わらず、商品の価格が20%から200%も高い地域が存在することを知りました。この知見を背景に、私たちはGDPが5,000ドル以下の地域を中心に、都市と農村地域向けのソーシャルコマースプラットフォームを構築しました。現在、ジャワ島中部、ジャワ島東部、パサールバリー、南スラウェシ州を含む約40都市で主に日用品、消費財、乾物、主食、化粧品などの販売を支援しています。
―事業について詳しくお聞かせください。
インドネシアでは、eコマースには2つの形態があります。1つ目は、全てがオンラインで完結し、直接消費者に商品を届けるタイプです。もう1つは、アプリやウェブサイトを通じた取引に慣れていない地域向けのeコマースで、地域の代理店がオンラインで商品を注文し、その商品をコミュニティの消費者に対面で販売する形式です。私たちは、こうした地域のリーダーたちを、代理店として起業する過程で支援しています。ビジネスモデルはマーケットプレイスの手数料です。
これらの農村地域のリーダーはデジタル技術に精通しており、アプリやウェブサイトを通じて積極的に取引を行います。私たちは、彼らが自分の友人やコミュニティのために買い物をするよう促しており、彼らに商品を供給しています。重要なことは、私たちのプラットフォームが提携しているのは国際的に有名なブランドではなく、地元のサプライヤーです。これにより、農村部での市場シェアを強化し、既存の有名ブランドと競争しています。
―TECHBLITZは以前、類似のビジネスを展開するインドのCityMallや、インドネシアのUlaを取材しました。これらの企業との違いはどのような点でしょうか。
私たちのビジネスはラストマイル配送に注力しており、CityMallに近いと言えます。ご存知の通り、サプライチェーンにはファーストマイル、ミドルマイル、そしてラストマイルの各段階があります。私たちの主な焦点はラストマイルにあり、CityMallも似たような立場にあります。CityMallのCEOと何度か意見を交換しましたが、私たちは似たモデルを持っています。
しかし、CityMallはインドを対象にしており、私たちはインドネシアを対象にしている点や、扱う商品が異なります。CityMallは、よりファッションに重点を置いています。一方で、私たちは日用消費財や化粧品に重点を置いています。地域のニーズの違いかもしれません。Ulaは、大手のディストリビューターや食料品店などと取引していますので、サプライチェーンでは私たちよりも上流に位置しています。
image: Super
関わる全員が利益を得るサプライチェーンを構築
―御社の事業にはパートナーが不可欠ですね。ステークホルダーの成功事例や、御社自身の成長についてお教えください。
私たちは過去5年間で、相互に利益をもたらす3つの主要な成功事例を作り出してきました。私たちは地元サプライヤーのビジネスを平均で10%から30%増加させることに成功し、小規模であっても大手企業と競争できるよう支援しています。
また、フリーランスのトラックドライバーや代理店として機能する起業家たちをサポートしており、これらのパートナーも私たちとともに成長を遂げています。この結果、消費者は商品の価格を10%から30%削減する恩恵を受けています。
私たちは中間に位置しつつも利益を上げており、サプライチェーンに関わる全員が利益を得るWin-Winの状況を実現しています。農村部で活動する人々をサポートするビジネスモデルを構築し、農村地域の住民向けにデザインされたUI/UXを持つ製品開発に取り組んでいるのです。
私たち自身については、2018年の起業から最初の3年間は、投資家の関心が高く、「簡単にお金が手に入る時代」でした。ソフトバンクを含む投資家からの支援を受け、年ごとに2倍から3倍の成長を実現しました。
しかし、4年目にシリーズCの資金調達を実施した際、米国の緊縮的な財政政策の影響で状況が一変しました。これにより投資家の雰囲気も変わりましたが、これは健全なエコシステムの一環であり、業績の成長には必要なステップだと思っています。それ以降、私たちは年間の成長率を1.X倍から2倍に保つよう努めており、その中でも純利益は過去2年で5倍から6倍に増加しました。現在、約10年分を賄える運営資金の留保があり、かなり余裕がある状況です。
―新型コロナウイルスの流行はビジネスにどのような影響がありましたか。
パンデミックに関係なく私たちは成長を続けています。COVID-19は私たちに直接的な影響を与えたわけではありませんが、当時は人々の選択肢が限られていたため、市場に製品をより速く提供するきっかけとなりました。スーパーやモールへ行けなかったため、私たちは限られた接触で商品を配布する数少ない選択肢の一つとなったのです。しかし、日用消費財や化粧品はCOVID-19が終息した後も必要とされますので、私たちは成長を続けています。
image: Super
日用消費財や化粧品を扱う企業とのパートナーシップに意欲
―次のステップ、そして日本企業とのパートナーシップの可能性についてお教えください。
インドネシアを見れば分かりますが、多くの企業は首都ジャカルタやジャワ島西部からビジネスを始めます。しかし、私たちはジャワ島の東側からスタートしました。今後12カ月間の目標は、インドネシア東部に注力し、これまであまり注目されてこなかった地域にフォーカスします。次の12カ月で、約10都市に新たに進出し、年末までに純利益を3倍から5倍に増やすことを目指しています。
農村部で重要なのは、シンプルさを保つことです。私たちが提供するサービスの受け手である農村部の人々は、新しいアプリを受け入れるソフトウェアの容量が限られています。私たちは彼らにとって最も意味のある機能に焦点を当て、製品を複雑にしないようにしています。無謀な新規アイデアを追求するのではなく、シンプルさを保つことが新しい取り組みを成功させる秘訣です。
パートナーシップについては、これまでソフトバンクからは多くの支援を得てきました。私たちは商品や原材料の供給者を求めています。Superに関わるサプライヤーたちは、特に化粧品の分野で、品質の良い商品や原材料を提供することに注力していますので、そのようなパートナーが望ましいと考えています。
―長期ビジョンと、その実現に向けて直面する課題は何だとお考えですか。そして、それらをどのように克服するか、御社の強みについて教えてください。
Superは次の10年で、実店舗を持たないインドネシア版のウォルマートを目指しています。現在は40の農村部・二次都市で事業を行っており、さらに340の地域への展開を計画しています。目標は、各都市で計3,000人のユーザーを獲得し、一人当たり月7,000ドルの取引を通じて顕著なキャッシュフローを実現することです。これにより、インドネシアの農村部や二次都市に対して大きな影響を与えるでしょう。
インドネシア市場は、新しい原則や新しい地域での作業、新しいサプライチェーンパートナーとの連携が必要とされる点で非常にニッチです。さらに、地域によって方言が異なります。これらの要素がプロジェクトの進行を遅らせるわけではありませんが、新しい地域に進出する際には、そこに住む人々をより深く理解し、適応するための時間が必要です。しかし、これを進入障壁と捉え、乗り越えられれば、地元企業だけ事業を開発できるという利点になります。外国企業にとっては参入が困難な市場です。
国内の競合もインドネシアの東側には参入したがりません。従来の保守的な企業がまだ参入していないのです。以前はアプリなしで事業を展開するには、多額の設備投資が必要であり、店舗を建設するなどのコストがかかっていたからです。しかし、私たちには物理的な店舗が必要なわけではありません。アプリさえあればいいのです。
東インドネシアへの進出は非常に合理的ですが、私たちは先行しています。特にエンジニアリング部門が優れています。ビッグデータの追跡、アプリケーション、倉庫管理システムなどを構築するために投資を行ってきました。同じレベルのものをつくるのは決して簡単ではないでしょう。
―将来のパートナーに対するメッセージをおねがいします。
先ほどもお伝えしましたが、Superはインドネシアのウォルマートを目指しています。インドネシアでは下位層の都市の市場規模が非常に大きく、GDPの60%が個人消費によるもので、その中でも1,000億ドルが首都外での消費です。この市場の広がりをご理解いただけると思います。そのため、日本の企業で日用消費財や化粧品を製造していて、インドネシアやその農村地域でビジネスを展開したいと考えている方は、ぜひ私たちにご連絡ください。