4カ国6都市に拠点、1500人以上のエンジニア、クリエイター
エンジニアやUXデザイナー、ITコンサルタント、ビジネスコンサルタント、事業開発ディレクターなどの人材を抱える「デジタル・クリエイティブスタジオ」。それがSun*だ。
現在、日本とベトナム、フィリピン、カンボジアの4カ国6都市に拠点があり、1500人以上のエンジニアやクリエイターが在籍する。その豊富な人材から、顧客の課題に対して最適なチームを編成し、新規事業やDXをワンチームでサポートする「クリエイティブ & エンジニアリング」事業が同社の大きな柱だ。顧客はスタートアップからエンタープライズまで幅広い。
大企業との実績として、日産レンタカーの公式アプリや、三菱地所の新規事業となる“旅アプリ”「膝栗毛(HIZAKURIGE)」のアジャイル開発などを展開。ベンチャーでは、社会人教育サービスを手掛けるグロービス・デジタル・プラットフォームの「定額型グロービス学び放題サービス」や、「お金のプラットフォーム」を掲げるマネーフォワードの各種サービスに対するチーム提案型開発など、実績多数だ。
これらの開発を支えるのが、Sun*がベトナムなどで育成、輩出してきたテック人材だ。小林氏がベトナムでエンジニアを育てようと現地に赴いたのは2012年。大きな課題とニーズからだった。
ベトナムでの産学連携の育成で、広く人材を輩出
前職はエンジニアの小林氏。後に共同創業者となる平井誠人氏に誘われ、Sun*の前身であるFramgiaの事業立ち上げに向けて2012年7月、ベトナムに移り住んだ。平井氏は転職者向け求人サイト運営のアトラエの創業などに関わった連続起業家。これまでの「ゼロイチ」の経験から、新事業づくりの際にエンジニアをゼロからチームビルディングする大変さや、ナレッジが蓄積されない点に大きな課題を感じていたという。
Image: Sun Asterisk
ソフトウェアやアプリ開発支援をするにも、まずはエンジニアを集めないといけない。「テック人材のスケーラビリティをつくりにいこうと選んだのがベトナムでした」
人口が増え、平均年齢が若く、勉強熱心でポテンシャルが高い人材がいる。ただ、それだけでテック人材がすぐに育つわけではない。「理系の教育に力を入れていて、学生たちがエンジニアを目指せる土壌がある」のがベトナムだった。理系大学と産学連携でテック人材を育成したことで新たな道が拓けていった。
ハノイ工科大学にはJICA(独立行政法人国際協力機構)と連携して「日本語のできる高度IT人材を育成」する公式学科があり、2014年からSun*が継承した。同社のトップエンジニアを講師として派遣するほか、独自のカリキュラムを作成し、約1000時間のコースに拡充させた。提携大学はベトナム、インドネシア、マレーシアの9大学に広がり、ブラジルの3大学にもプログラムを提供している。学生数は右肩上がりで、2022年1月現在、2200人を超えるコースに成長している。
Sun*のベトナム法人には現在、1400人余りのエンジニアやデザイナーらが働いており、開発支援など顧客の新事業を支えている。「半数以上を新卒から育て、設計ができるシニアのエンジニア人材と組み合わせながら、柔軟性とスピードを持ったアジャイルができる開発チームを提案してきました」と小林氏は語る。
ASEAN諸国との産学連携プログラムをきっかけに事業展開も広がった。外務省のODAとして始まったHEDSPIプロジェクトをSun*が継承し、ベトナム、インドネシア、マレーシアの理系大学を中心に育成・輩出したテック人材と、日本企業とのマッチングを支援する採用プラットフォームも提供している。
小林氏は「プログラムを受講した学生たちの中には、日本に移住して日本の企業で働きたいという人も多く、Sun*の開発支援先の企業に紹介する形でやってみようと始まりました」と語る。国内外のIT人材の発掘・育成・紹介を手掛ける「タレントプラットフォーム」事業によって、クライアントの事業創造からサービスの成長まで包括的に支援するサイクルがより一層、強固となった。
Image: Sun Asterisk HP
「ゼロ」から人材育成に取り組んだ理由
日本のテック人材不足は深刻だが、人材育成には時間もリソースもかかる。なぜSun*はそこに取り組んだのか。
小林氏は「創業のときから、事業づくりができるエンジニアが世界的に枯渇し、すごくニーズがあることは分かっていました。ただ、いわゆるシステムインテグレーターや基幹システムを作っていたような人たちをスタートアップ的なエンジニアにシフトさせていくのは、実はとても難しい。マインドセットが全然違うからです」と語る。
「日本のIT業界は製造業に近い考え方で、高品質で安定した製品をお金と時間をかけてつくります。最初から『百点』の商品をつくって、それをコスト削減しながら運用保守していく流れが強かった。でもスタートアップは真逆です。小さくつくって大きくしていく。経験のある人にこの概念を理解してもらうより、若い人たちとやった方が吸収力もあって早いと考えました」
経験の長いエンジニアを再教育するより、若くて優秀な学生たちをゼロから育てた方が早くて、成長を続けられる。そんなSun*の取り組みは、ベトナムという国で若年者雇用を生み出し、社会にマッチした。
「以前はベトナムのIT業界は人件費が安いという理由でシステムの運用保守を請け負うことがほとんどで、スタートアップが生まれる環境ではありませんでした。運用保守的な仕事を否定しているわけではありませんが、ベトナムの学生たちは世界を見て『GAFAすごい』『エンジニアは未来をつくる仕事』と純粋に信じています。私たちはいわゆる工場的な仕事ではなく、スタートアップ支援やクリエイティブな『創る』仕事に特化していたので、学生にとっても就職先として魅力的だったのだと思います」
成長は数字にも表れている。2013年創業の同社。2022年1月現在の従業員数は約1800人で、そのうち1460人がベトナム法人に勤める。2021年12月期通期決算では、売上高が前年比49.6%増の80億3000万円、各利益は業績予想を10%以上超えて前年比約50〜70%増の成長を遂げている。
「実は創業から5年間は、社員数やプロダクトの数、売上高など全ての数字を倍にしようというKPIでした。社員の給与も最初の3年は毎年倍にしていこうと取り組み、実現しました」と、小林氏は自信をのぞかせる。
成長の要因を「誰もやりたがらなかったところを泥臭くやってきた」と語る小林氏。同社の「ヒトモノカネ」の総合的なサポートで、IPOするスタートアップのクライアントも出てきた。そういった企業のCTOらが「Sun*の開発チームがあったおかげで成長できた」という評価や口コミが広がり、次の顧客を呼ぶという営業の好循環につながった。
新規事業やプロダクトの開発支援の収益モデルにおいて、Sun*は基本的に準委任契約をし、毎月の稼働工数に応じた対価が顧客から支払われる。事業が成長していく限りは長くSun*のチームを活用してもらうということもある。新規事業が成功するかどうかで期間が決まるが、長期契約を結び、きちんと実績を積んでいくことでARPU(月額平均顧客単価)も上がるモデルだ。
Image: Sun Asterisk
大企業向け事業を強化、シリコンバレーなど海外市場開拓も視野に
現在、日本法人の機能を強化しているSun*。小林氏は「日本のスタートアップでは『ゼロイチ』の部分を終え、シンプルにエンジニアリソースの拡張が欲しいというニーズがあります。また、エンタープライズ、大企業からは新規事業開発のニーズがあり、その機能を日本チームで拡大しています」と語る。
ビジネスの人材、UX/UIを改善していくクリエイティブ人材、テクノロジーチームを率いるCTO的な人材など、日本企業向けのチームを組み、今後1、2年で大企業との代表的なサービス事例を創出したいと考えている。
「NetflixやSpotifyといった海外のサービスが広がっていますが、日本の大企業が持つアセットをもっと活用してスタートアップ的なアプローチで新規事業をどんどんつくっていければ、日本を代表するようなサービスが生まれていくと思います」
豊富なテック人材というSun*の強みを生かした海外展開も見据え、新規マーケットとして米シリコンバレーなども視野に入れる。「シリコンバレーのスタートアップは既にビジネスのコアとなる人材はいるはずですから、私たちはシンプルにベトナムを中心としたテックリソースを提供していければと思います。ASEAN諸国のスタートアップにもどんどんリーチしていきたいです」
「誰もが価値創造に夢中になれる世界」へ
Sun*のビジョンは「誰もが価値創造に夢中になれる世界」の実現だ。アイデアが生まれ、それを実現したいという人に対し、「Sun*に行けばチャレンジできる環境がある。そんなスタートアップのインフラとなることを目指しています」と小林氏は語る。
社名にはその思いが込められている。「*(Asterisk)は、多くのプログラミング言語で掛け算を表す記号です。社のロゴはそこに1本線を入れて太陽のようなマークにしました。革新的なサービスや新しいイノベーターの種を、私たちの光で照らし育む最強のインフラになりたい。いろんな人との『掛け算』で一緒に価値を生み出していきたいです」
小林氏が忘れられない社員の言葉がある。顧客との会食で「なぜSun*で長く働いているのか」と聞かれたベトナムの優秀な女性のエンジニアが「なぜかはよく分からないけど、朝起きた時に早く会社に行きたいなと思うんです」と話しているのを聞き、嬉しさが込み上げた。
「価値創造に夢中になれる世界は平和だと思います。『ああ今日も仕事か』と思ったり、日曜の夕方になると憂鬱になったりする、とかではなく、新しい朝を迎えるのが楽しみでしょうがないという状態です。価値創造はとても楽しいことです。何かを始めるにはエネルギーも必要ですが、楽しく社会的な意義があることです。新しいチャレンジをする人たちを全面的に支援していきたいです」