エンジニアの工数を大幅削減する画期的ツール
―まず事業内容を教えてください。
ユーザーデータのデータハブ「Segment」を提供しています。Webやアプリからユーザーデータを取り込み、適切な形に変換して、アナリティクスツールなどに送信できます。データ送信先のツールは、Google Analytics、Salesforceなど、180種類以上に対応しています。
近年、ユーザーデータを収集・分析できるツールは増える一方です。データアナリティクスツール、メールマーケテイングツール、SMS、プッシュ通知など数多くあります。エンジニアはそれら一つひとつのツールごとに、データの取り込み、データ変換のセッティングをしなくてはならず、たいへんな手間がかかっています。本来の業務とは別の場所で、エンジニアの貴重な時間を費やしているのです。「Segment」は、そんなエンジニアの手間を大幅に削減するサービスです。スイッチのオンオフを切り替えるだけで、自動で簡単にデータの取り込み・送信を行えるようになるのです。
―スイッチを切り替えるだけでいいというのは、非常に便利ですね。どういった企業が利用しているのでしょうか。
現在、顧客数は4000社です。BtoB企業、BtoC企業問わず、インターネットでビジネスを行っている会社が対象です。たとえば、メディア、銀行、Eコマース会社、ユーザー向けアプリ開発会社などです。規模もさまざまです。顧客のエリア分布で言うと、10%がアジアです。アジアではインドからの利用が多いですね。
―利用料金はどうなっていますか?
利用量に応じて料金は変わりますが、多くの顧客は月額30ドルから500ドルの範囲ですね。
MITを中退して起業、Y Combinatorへ
―学生起業だったそうですね。起業の経緯は何だったのですか?
実は、私は3つのアイデアで起業しています。1つ目のアイデアを思いついたのは、大学時代です。そのアイデアとは、大学の講義を円滑に進めるためのツールです。講義中、生徒が「よくわからないな」と思ったら、パソコンのボタンを押す。すると教授のパソコンの画面に、わからないと思っている生徒の割合が表示されます。これを続けることによって、教授の講義評価が蓄積されるという仕組みです。
私たちは、このアイデアでY Combinatorから資金調達できたんですが、結局うまくいきませんでした。なぜかというと、学生たちはパソコンを開くと、すぐFacebookのページに飛んでしまうからです。そこで、そのサービスはやめて、今度はGoogle Analyticsのようなツールを作ることにしました。
―早い段階で見切りをつけて、2つ目のアイデアに挑戦したんですね。
ええ、当時私たちは大学を中退していました。起業して成功するしかなかったんです。そして2つ目のアイデアですが、残念ながらこれも良いアイデアではありませんでした。アナリティクスツールは競争が激化していて、2000社くらいの競合が存在していました。そうなると、営業・マーケティング力がものをいうようになります。私たちは全員エンジニア出身です。1年くらい続けていたのですが、勝ち目がなくてやめることにしました。
2度のピボットで資金が尽きかける
―2度目のチャレンジも失敗してしまった。どんな気持ちだったのですか。
もちろんいい気持ちはしませんよ。私たちは、ひとつのアパートに創業者4人で2年間も住んでいました。私たちはその当時を“暗黒時代”と呼んでいます。(笑)私たちの気持ちが想像できるでしょう?最初の2つのサービスは、成功すると心から信じていました。でもうまくいかなかった。本当に苦しかったですよ。
―投資家からは何か言われましたか?
Y Combinatorのポール・グレアムは正直でした。残酷なほどに。2012年の12月、私たちの資金は底を尽きそうでした。最初の2つのサービスはうまくいかず、次にどんなサービスを出そうかと考えている時でした。私たちは現在のSegmentのアイデアで行こうと決めて、ポール・グレアムに説明に行きました。すると、彼は「どういうことだ?50万ドルも使い切った後に、また結局スタートラインに戻ったということか?」と言い放ちました。傷つきましたね。でも、それはたしかに事実でした。
顧客がほしいものをつくる
―3つ目のサービスについてはどう思っていたのですか。
実は3つ目のサービスは、内心うまくいかないんじゃないかと思っていました。私はあまり良いアイデアじゃないと思っていたんです。でも、これが成功しました。3つ目に作ったのは、Analytics.jsというJAVAスクリプトライブラリで、オープンソースでした。データを送信する機能をつけたら、ユーザーから非常に支持され、当社のサービスとして製品化することにしたのです。
―なぜ3つ目のサービスがうまくいったのだと思いますか?最初の2つのサービスと何が違ったのでしょう。
顧客がほしいものを作ったかどうかだと思います。当たり前に聞こえるかもしれません。でも最初の2つのサービスは、「世界がこうだったらいい」という私たちの想いをカタチにしたものでした。それは独りよがりのもので、顧客には気に入ってもらえなかった。でも3つ目のサービスは、顧客のほしいものを作ることができた。これが大きな違いです。
―やっと金脈を掘り当てたわけですが、どうやってサービスを成長させていったのですか。
基本的には、自然に伸びていきました。クチコミで自然に広まっていったんです。私たちの努力をあえて言うならば、コンテンツマーケティングに力を入れたことです。私たちは「アナリティクスアカデミー」と呼んでいるのですがユーザーデータの分析について記事を書き、問題の解決方法についてオンラインで議論しました。これが多くのユーザーをひきつけることに役立ちました。
2017年には日本市場へ
―大きな資金調達もして、グローバル展開も視野に入れていると思います。アジア展開のプランを聞かせてください。
まずはアメリカ市場に力を注ぎたいと思っていますが、2017、18年には日本に展開したいですね。日本展開にあたっては、マーケティングの仕方を変える必要があると考えています。日本とアメリカでは商品購買のプロセスがまるで違いますからね。米国では現場のエンジニアの推薦によって、ボトムアップでサービス導入が決まります。一方、日本はトップダウンです。技術責任者がサービス導入を決めて、現場がその決定に従うという流れです。ですから、米国とはマーケティング戦略を変える必要があると考えています。
―最後に今後のビジョンを教えてください。
データは、企業の競争においてますます重要になっていきます。私たちは、企業があらゆるユーザーデータを収集し、あらゆるツールに送信する「データハブ」となることをグローバルで目指します。