シミュレーションプラットフォームで開発期間短縮
―どのような顧客の問題解決を図っているのですか。
自動運転車やロボット、ドローンがシミュレーションをするためのプラットフォームを提供しています。これらの機器は現実世界でモノを感知・認識するためのコンピュータの視点をもっているわけですが、私たちはこうしたシステムがきちんとデザインされているかを確認するためのお手伝いをしています。これまではたとえば自動車を開発するには山のように試験をしなければならなかったのですが、私たちのソリューションがあればエンジニアがプロトタイプを作る期間を短縮できます。大手のOEMと協業を始めています。
映画「マトリックス」の中にAIを入れるイメージ
―具体的にはどのようなサービスなのでしょうか。
主な顧客は自動車業界になりますが、気候や車の周りの動きなど、運転環境のデジタルツインを作ることで、実際に現実世界でテストをしなくても、はるかに速く多くの結果が得られます。現実の試運転をするには、こなすべき走行距離も考えるべきシミュレーションも膨大です。マトリックスという映画で、デジタル世界の中に人が入りますよね。私たちが作っているのは、マトリックス空間の中に人ではなくAIを入れているようなイメージです。人を置かなくても済みますし、はるかに安くも済みます。
Image: RightHook
1000回シミュレーションをしたら1000種類の結果
―強みはどのような点にありますか。
1つ目は、自動車業界の顧客が使っている高精度地図データ「HD Map」からデジタルツインを作っている点です。
2つ目は試験をしているAiに必要なコミュニケーションを提供している点です。自動運転車を私たちのシミュレーターにつないでいるときに、車は、それが現実だと認識しています。なので、現実世界で使うようなコミュニケーションインターフェイスを使います。
3つ目は、優秀なエンジニアです。もっとも進んだ渋滞シミュレーションを作ることができるエンジニアがいます。デジタルツインに出てくる1車1車、自転車の人、歩行者がそれぞれに反応をするようになっていて、1000回シミュレーションをしたら、1000種類の結果が出てきます。
「誰かが作るべきだね」
―どうしてこのビジネスを始めようと思ったのですか。
私は15年間シリコンバレーにいて、以前立ち上げた会社をセマンティックに売却した後、フォードに誘われてサイバーセキュリティを担当していました。そこで、車がハッキングされた場合の試験をする上で壁にぶつかりました。当時、自動運転業界で働いていた、現・共同創業者のJohnに「どうやってソフトウェアのテストをしている?」と聞けば「試験用のトラックを用意して、そこに実際に足を運んで、車を動かすしかないね」というわけです。
私が「月一回とか四半期に一回とかじゃなくて毎日テストをしたいんだよ。テストをし続けて、ソフトを更新し続けたいんだけど」と言うと、彼は「その方法は今はないね。おそらくシミュレーションが唯一の方法だけど、今のところそういうシミュレーション製品はないね」と。私と彼の間で、「誰かが作るべきだね」「誰かがね」「それは、我々では?」という会話をして、それがこの会社ができた経緯です。
世界をより安全に
―今後の展望や日本企業への関心を聞かせてください。
私たちのミッションは、世界をより安全にすることです。将来のことを予測するのは難しいですが、車の事故防止システムや、より安全性を高めるためのセンサーや技術、事故があったとしても壊れにくい車などがどんどん出てきています。都市のインフラそのものにも様々な仕組みが埋め込まれていくでしょう。こうしたすべてのシステムに、周囲の環境を認識するという同じニーズがあり、いずれ共通のインフラができていくのではないかとワクワクしています。こうした中で、私たちのビジネスがお手伝いできる領域も広がっていくと思います。
日本企業は自動車産業においてとても信頼できる技術を提供してくれているので、最も関心がある市場の一つです。既に話をしている日本企業もありますが、今後もっと増やしていきたいと考えています。
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