Webのレスポンス改善のため、メモリ上で高速に動作するデータベースを展開
「私たちは、非常に大きな非常に大きなウェブサイトやアプリケーションを高速化する挑戦をしていました。そこで、アプリケーションの入り口を高速化したとしても、データレイヤーにボトルネックがあることに気づき、この問題を解決しようと決心したのです」とBengal 氏は切り出した。
イスラエル出身のBengal氏は連続起業家だ。航空業界のエンジニアとしてキャリアをスタートしたBengal氏は、1980年代後半、イスラエルのハイテクシーンに触発され、1989年に通信インフラ管理企業のRiT Technologiesを創業する。同社は1997年にNASDAQに上場した。2000年にはモバイルインターネットを先取りしたMobile Economy Ltd.を創業し、2003年に売却。その後はいくつかのハイテク企業でCEOを務めたのち、Webの高速化の課題をとらえ2011年にRedis Labsを創業した。
Redis Labsのアプローチは、データベース高速化のためにキャッシュを用意するのではなく、メモリ上にデータベースを展開するものだ。Bengal 氏は「今や世界はオンライン化していて、オンラインサービスを提供する際には素早いレスポンスが求められており、そうしないと顧客を失うことになります。Redis Enterpriseは、消費者向けのWebアプリケーションだけでなく、金融取引の認証など、即座に応答が必要な場面で利用されています。以前は、クレジットカードの認証完了まで数秒待たされていましたが、瞬時に完了できるようになっています」と語る。
世界の名だたる大企業が利用。コロナ禍でさらに成長を重ねる
Redisの商用版であるRedis Enterpriseは、オンプレミス環境でも導入できるほか、AWS、Microsoft Azure、Google Cloud Platformに対応しており、各プラットフォームから利用可能だ。Bengal 氏によると、既に顧客は8500社以上あり、Fortune 500のうち、上位100社の30%が利用しているという。社名は明かせないものの、誰もが知るテクノロジー上位企業などのほか、主要なクレジットカード会社のトランザクションや、トップレベルのeコマースサイトのパーソナライズなどにも採用されている。ビジネスモデルは、使用量に応じた支払いに加え、年間の使用料を前払いする2種類がある。
同社はここ数年で毎年50%以上の成長をしているとし、2021年はさらに成長を加速する見込みだ。Redis自体が人気のオープンソースで、データベースのランキングサイト「DB-Engines」(https://db-engines.com/en/ranking)では、350以上のデータベース中6位となっている。これにさまざまな機能を加え、さらに99.999%という高い可用性を備えていることがRedis Enterpriseの成長を支えている。
さらにBengal氏は「コロナウイルスが発生したとき、私たちのビジネスがスローダウンしないかと心配しました。ところが、多くの企業がデジタル変革を促進したおかげで、弊社は多くの新規顧客を獲得するなど、恩恵をうけることができました」と、コロナ禍によってもたらされた変化を語った。
AI分野でも重要な役割を果たし、データレイヤーの主要プレイヤーを目指す
2021年4月に調達した資金は、継続的な開発や市場開拓のために使われる。現在の主な顧客は北米市場で、全体の7割を占める。残りはヨーロッパとインドだ。世界中の開発組織を2倍に拡大していく。現在の従業員550名のうち200名がアメリカ、200名がイスラエル、残りはヨーロッパやインドなど世界中に配置している。資金を得たRedis Labsは新たな分野である人工知能でのイノベーションにも挑戦している。
「私たちは人口知能の2つの分野で中心的な役割を果たしています。ひとつがFeature Storeと呼ばれるもので、私たちがAIモデルを構築し、特定の参照データと連動させAIを高速に動作させるデータレイヤーとして使われています。もうひとつはModel Influencingというもので、『RedisAI』という新たな製品を作って提供しています。これは、インフラを追加することなく、AIモデルをデータが存在するアプリケーション側で実行させるものです」(Bengal氏)
日本市場への進出についてBengal氏に聞くと、北米以外はヨーロッパを中心に事業を展開してくとするものの、中国や日本でも事業を開始していきたい意向を示した。余談だがBengal氏はその昔、日本のおもちゃメーカーに商品企画の提案もした経験もあるという。さらに、コロナ禍となる前の2018年に日本を訪れ全国各地を観光した思い出を語ってくれた。
現在のところ、現在の主な日本のユーザーは、AWSなどのクラウドベンダーを通じたフルマネージドサービスの顧客だ。日本への本格進出を効率化するには製品だけでなく、ウェブサイトやマーケティング資料などすべてのローカライズや日本のオフィス開設が必要だとし、そのためにはさらに多くの準備が必要だと考えている。そのため、時期は明言されなかったが、ある時点でのアメリカの株式市場でのIPOを計画している。最後にBengal氏は同社のビジョンについて次のようにコメントした。
「データベースのエンジンを提供する企業は300以上ありましたが、市場が成熟した現在は5〜7社程度が主なプレイヤーです。中でも私たちは、大量のデータを短時間に処理する点ではほかの誰よりも優れています。リアルタイムデータ管理のリーダーとして、この分野の標準となることを望んでいるのです」