Image: Quantifind
世界中でフィンテックが成長を遂げるなか、同時に金融犯罪も拡大し、銀行や政府機関では、マネーロンダリングや詐欺取引などの調査に対し、多くの人員を割いている。2008年に米国で設立されたQuantifindは、こうしたオンライン上の金融犯罪調査のために、機械学習技術を使ったプラットフォームを提供している。非構造化データの機械学習に着目し、調査員の業務の40%を削減できるという。大学で物理学を教え、量子コンピューティングの研究をしてきたというバックボーンを持つCEOのAri Tuchman氏に聞いた。

非構造化データの機械学習に特化し、金融犯罪の調査に注力

――Quantifind設立の経緯を教えてください。

 私はスタンフォード大学で物理学を教えていて、量子コンピューティングなどの物理学の研究をしていました。同時に、石油やガスの環境モニタリングを行う会社を起業し、そこで検査のためのセンサーや信号処理を行うソフトウェアを開発していました。2009年にアメリカ復興・再投資法の一環として、全米科学財団から助成金を受けてからは、信号処理の分野に特化しました。

 また、スタンフォード大学に在籍中は、米国の諜報機関と連携したフェローシップをしており、Quantifindを起業したころから、彼らとコンタクトを取って、プロジェクトベースの仕事をしました。2009年から2010年当時、機械学習やAIがバズワードになっており、多くの企業が現れましたね。彼らは主に大規模なExcelシートやネットワークトラフィックなど、構造化されたデータを扱っていましたが、非構造化データを扱う企業は少なかったです。そこで、私たちは、非構造化データに対する予測分析と機械学習を試みることにしたのです。

 当初は、ニュースフィードを見て、どのテロリストグループが協力関係にあるか、また品取引情報を見て、特定のレアアース市場で影響力を持っているペーパーカンパニーなどの調査を行っていました。以来10年以上にわたって、ニュースフィードやEメール、通話記録のテキストなど非構造化データに対する最高クラスの機械学習に磨きをかけてきました。

Ari Tuchman
Quantifind
Co-Founder & CEO
1993年~1997年にHarvard Universityで物理学を学んだ後、2004年にYale Universityで原子物理学を学び博士号を取得。Stanford University(2004年〜2007年)で量子計測の研究員を行う傍ら、量子工学で構築された化学センサーを開発するEntanglement Technologiesを創業。2009年にQuantifindを創業し、CEOに就任。

――Quantifindの特徴や優れている点は何でしょうか。

 ここ数年はマネーロンダリング対策に力を入れています。この分野では、銀行で行われる取引の監視が必要です。捜査官や調査員は、取引を一つひとつ調べて、政府の規制に触れるものについてアラートを出し調査します。

 GoogleやLexisNexisのリサーチデータを検索し、検索結果を目視しながら判断します。1つのアラートをチェックするのに10分〜15分かかりますので、たくさんのアラートを処理するには大規模なチームを編成する必要があります。そこで、私たちのGraphyteプラットフォームがその調査を自動化します。

 こうした調査において、ほかの機械学習プラットフォームが90%の確率で間違えるのに対し、Graphyteプラットフォームの名前抽出・文脈分析技術は、90%の確率で正しい結果を出します。かなり高い精度です。これまでの実績から、Graphyteプラットフォームによって、彼らの業務の40%を自動化できることが証明されています。なお、競合には、質の高いデータベースを提供する企業もありますが、私たちのように調査の自動化を提供しているところはありません。

Photo: Virrage Images / Shutterstock

 また、コアとなる技術は同じですが、犯罪組織などの検索エンジンも販売しています。たとえば、1000社以上のベンダーと取引している場合に、悪質な業者からの購入を確認したい場合に利用できます。これまでは1社ずつ身元調査をしていましたが、業者リストをドラッグ&ドロップするだけで、自動的に選別できます。

 私たちのプラットフォームではリスクを動的に学習して早期発見することもできます。2020年は、新型コロナウイルス に関連したさまざまな不正も生じました。たとえば偽の治療薬を信者に販売する牧師を摘発することができました。

フィンテック業界の成長は、規制技術の発展によって進化

――どのような顧客がメインターゲットですか?

 主な顧客は銀行です。中堅銀行でも調査員は年々増加傾向にあり、40%の工数削減は大きな意味があります。コロナ禍では採用や勤務に安全性を担保しなければならないため、もしも多くの雇用が難しいのであれば、私たちのプラットフォームは非常に便利であると考える事業者もあるでしょう。

Photo: Anton Violin / Shutterstock

 また最近では政府機関の利用が拡大しています。2020年の間にユーザー数は3倍になり、現在は1000名以上の調査員が利用しています。なお、ビジネスモデルは、調査員の数やアラートの量に応じたライセンス料となります。価格は顧客によって異なります。

 フィンテックの世界は爆発的に成長しています。一般的には決済やデジタルバンキングの変革が目立ちますが、それと歩調を合わせるように、規制環境を整えていかなければなりません。次世代のフィンテック成長のためにも、私たちのような規制技術が重要になると考えています。

――多言語に対応していますが、日本市場へ進出は計画していますか?

 2020年の8月には英語だけ対応していましたが、9月にスペイン語、10月にフランス語、12月に中国語を加えました。ラテン文字を使わない言語であっても、新しい言語に対応できるように、汎用的で堅牢なプラットフォームとなっています。日本市場での競争力と差別化を図るためには、日本語機能を導入することが最優先事項となりますので、今はそれに取り組んでいます。

 日本は歴史的にもテクノロジーをいち早く取り入れてきた革新的な国ですが、今の所この分野での競合はいません。ですから現在日本市場への進出に力を入れており、日本語の処理を搭載することに重点を置いています。

 私たちはまだ日本市場の文化や法制度を理解していません。大麻が合法な国もあれば、暗号通貨が違法な国もあります。日本市場においてどのようなリスクがあるか私たちはその学習の初期段階にあります。どこかと独占した契約を結ぶのではなく、より多くのパートナーを見つけて密接に仕事をする絶好の機会であると思っています。

 2021年には国際的に事業を拡大していくことが大きな目標で、いくつかの外資系銀行との案件もあります。2020年は3倍成長しましたので、2021年もさらに3倍の成長を遂げたいと思っています。



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