自らの経験から貧困問題に取り組む
―どのような経緯で起業に至ったのですか。
私は中国出身で、私が育った家庭は愛情にあふれていましたが、経済的に苦労することも多くありました。私自身は若くして米国に来ました。恵まれたことに奨学金を得てスタンフォード大学に入学することができ、Symbolic Systemsを学びました。
その後シリコンバレーでLinkedInやFacebookのような大企業で働いたのですが、やがて貧困問題を解決するための起業をしたいと考えるようになりました。テクノロジーが私のような出身家庭が抱える問題に大きなインパクトを与えることができるのではないかと感じたからです。
米国「フードスタンププログラム」の問題
―具体的にはどのように貧困問題にアプローチをしはじめたのでしょうか。
私はRobin Hood Foundationが運営する「Blue Ridge Fellowship」に参加するため、ニューヨークのブルックリンに引っ越しました。このプログラムを通して、アメリカ合衆国で低所得者向けに行われている食料費補助対策であるフードスタンププログラムの受給者と話す機会が多くありました。
フードスタンプの受給者は4000万人いるのですが、食料の補助を受けるには買い物に行った先で、毎回フードスタンプの後ろに書いてある電話番号に電話をして残高をチェックする必要があるということがわかりました。
今や銀行の口座残高やクレジットカードの状況をチェックするのは、モバイルアプリや何らかのユーザーフレンドリーなソフトウェアになっていますよね。フードスタンプでもこのようなアプリを作ることができれば、4000万人を助けることになるのではないかと思いました。
―同じようなサービスを提供するアプリはありますか?
同じサービスを提供している競合他社はいません。私たちのアプリ「Fresh EBT」では、単に残高確認のプロセスを楽にするだけではなく、家計を健全化を促すことも目指しています。つまり、残高や履歴の閲覧だけではなく、どうしたら消費を抑えられるかといったことを指南したり、求人情報を提供してより所得を増やすお手伝いもするアプリを提供しているのです。
残高確認ができるアプリはありますが、私たちはアプリストアで50,000件の5つ星評価を得ており、すでに250万人が利用しています。
グローバルに問題解決を目指したい
―御社は非営利企業ではないですよね? ビジネスモデルを教えてください。
はい、私たちは営利企業です。アプリそのものは無料でダウンロードでき、政府側にも課金はしません。求人広告のほか、地域の食料品店などからのクーポン配信など、パートナーシップを組んでいる企業だけがお金を支払っています。
実は4000万人のフードスタンプ受給者は、年間平均で170ドルも銀行に手数料を支払っています。お金のある人はほとんど手数料を支払っていないのに、米国の仕組みは困っている人から手数料を徴収するという逆転したシステムになっているのです。
―中長期的な目標はどこにありますか?
中期的にはフードスタンプに限らず、広義の意味で人々の家計状況の健全化に寄与することを目指しています。また、日本などに進出する場合はまず、人々がどのような経済的な困難に直面しているのか、当事者そして公的機関から直接ヒアリングすることから始めたいと考えています。