PreAct Technologies(本社:米国オレゴン州ポートランド)は、自動車衝突を回避する近距離センサーとインフラを提供する企業だ。ソフトウェア定義可能なNear-Field flash LiDAR(近距離フラッシュ・ライダー)を開発している。先進運転支援システム(ADAS)やさまざまなレベルの自動運転へのニーズが高まる中、同社は、米国防高等研究計画局 (DARPA)からの研究助成を受けて開発された軍事グレードの技術を活用。自動車事故における死傷者の大幅減をミッションとしている。共同創業者で、現在CPOを務めるKurt Brendley氏に創業の経緯や他社との差別化、日本進出の可能性など話を聞いた。

防衛企業からのスピンアウトで創業

―いままでのご経歴と会社を立ち上げた経緯を教えて下さい。

 私のこれまでのキャリアは、ほとんどが自動車関連におけるものです。ゼネラルモーターズでキャリアをスタートし、高電圧と低電圧のバッテリーシステムおよびバッテリーアルゴリズムのエンジニアなどを務めました。

 その後、インフォテインメント・システムのプログラム・マネージャーとなり、Apple製品とのワイヤレスCarPlayとAndroid Autoの立ち上げをリードした後、インテルとジャガー・ランドローバーのコラボレーションに参加し、自律走行車やスマート配送車など、多くの新しい革新的な技術に共同で取り組みました。

 2018年、米国防高等研究計画局(DARPA)からの研究助成をベースとした軍のセンシングの技術を商業用途に転用するため、私の父親の会社であるArtis Corpという防衛企業からスピンアウトして、Paul Drysch(現CEO)と共にPreAct Technologiesを立ち上げました。

Kurt Brendley
Co-Founder & CPO(Chief Product Officer)
ノースウェスタン大学で修士号取得後、ゼネラルモーターズでキャリアをスタート。その後様々な自動車関連企業にて革新的なプロジェクトに携わる。防衛企業からスピンアウトして、PreAct Technologiesを2018年に共同創業し、COOに就任。2023年2月から現職。

「近距離」に着目した衝突検知技術 低コストで信頼性の高いプロダクトを

―Near-Field flash LiDAR(近距離フラッシュ・ライダー)を開発したいきさつと、製品について教えて下さい。

 センシング会社の多くは長距離センサーの開発に取り組んでいますが、実は多くの事例において、車両の周囲で判断すべき重要なことは全て20メートル以内に存在します。例えば、市街地走行では、近距離内で迅速に判断しなければならないことがたくさんありますね。近距離センシングは、そのような意思決定に必要なデータをリアルタイムで収集するための正確な方法を提供します。

 これまでの自動車や自律走行車の開発の経験から、15メートルから20メートルの近距離でのセンシングが不足しており、センサーが脆弱であることが分かっています。現在のセンシング技術は超音波やレーダーが主流ですが、超音波では安全性や快適性を高めるための性能と信頼性が十分ではありません。ですので、私たちはそこに着目しました。私たちの技術を活用し、超音波に対抗するためのオープンエンドの市場があると考えたからです。

 当社の製品は、ソフトウェア定義可能なフラッシュLiDARで、カメラのように動作しますから、斬新かつ低コストのパフォーマンスを実現します。携帯電話やノートパソコンによくあるCCD(Charge Coupled Devices:電荷結合素子)イメージャーを使用し、写真を撮る代わりに、近赤外線で独自の光を放ちます。その光は実際に既知の周波数でパルス化されます。

 その光が戻ってくると、送った光と受け取った光との間に差が生じます。それによって距離を確認できるのです。そういう観点から、レーザーで現場を1ラインずつスキャンする従来のLiDARと異なり、フラッシュごとに現場全体を照射するフラッシュタイプのセンサーを開発しました。

 私たちのプリクラッシュ技術により、衝突に対して事前に対応することで、交通事故における負傷者や死亡者の85%以上を防ぐことができます。

―競合相手と違う点はどこでしょうか。まだどのように差別化を図っていらっしゃいますか。

 低コストで信頼性の高い、世界初のフラッシュ・ライダーを開発することが私たちのミッションですので、他社と違う点は間違いなくコストです。

 また、LiDAR企業の多くは自動車や自動運転に特化しているのに対し、私たちは多角的に事業を展開し、来年には黒字化する予定です。自動車や農業、医療に限らず、様々な業界において、近距離フラッシュ・ライダーが必要とされ、非常に効果的かつ素晴らしいクライアントを見つけています。この点が大きな差別化要因だと思います。

Image:PreAct Technologies

グローバルに展開し、日本市場への参入にも意欲を示す

―シードラウンドではSony Innovation Fundからの出資を受けていますね。2023年1月のシリーズBでは、I Squared Capitalをリード投資家に1400万ドルの資金調達に成功しています。使い道について教えて下さい。

 2023年の主な目標は、収益を上げ、製品を市場に投入することです。現在私たちは、ユニークでニッチなアプリケーション向けに、センサーの「TrueSense™」と、車両シミュレーターの「TrueSim™」という製品を市場に投入しています。2023年にはかなり大規模な展開に広げ、様々な顧客や消費者に当社の製品を提供していくつもりです。

―グローバルに展開する予定はありますか?

 最近、AIビジョンをベースとする企業で、スペインのバルセロナに拠点を置くGestoosを買収しました。当社CEOのPaul Dryschは、以前、アジア市場で大企業の営業部長を務めていたこともあり、今後はヨーロッパ市場やアジア市場などに積極的に参入し、グローバルに展開したいと考えています。

―2021年にあいおいニッセイ同和損害保険の米子会社とパートナーシップを結ばれています。今後、日本市場において新たなパートナーシップを検討していきますか?

 私たちは、利用ベース(自動車)保険に対応した高度な近距離フラッシュ・センサーを商品化するため、あいおいニッセイ同和損害保険と素晴らしい提携をしています。

 日本市場における理想的なパートナーシップは、カメラやセンサーの開発経験がある企業との連携です。当社の技術が信頼できるものであることは間違いなく証明されていますし、コスト面でも規模を拡大することができ、競争力があることは間違いありません。私たちに欠けているのは、製造能力と迅速な成長能力です。

 まだ提携はしていませんが、例えばパナソニックやソニーなど、カメラを製造している企業と提携し、生産が出来るようになれば素晴らしいと思います。

Image:PreAct Technologies

―今後のビジョンを教えて下さい。

 AIを搭載した世界初のフラッシュ型、低コスト、高信頼性のライダーを開発することです。

 私たちはパートナーシップとの提携により、素晴らしい革新的な新製品に取り組んでいます。ライダー分野では誰もやったことがないような、非常にアクセスしやすく、低コストで使いやすい製品を作り、それをベースにお客様が構築できるようにすることで、実現していくつもりです。

 当社の強みは競合他社とは違うビジネスモデルです。私たちは、アフターマーケットにも力を入れていき、お客様が今すぐ購入でき、すぐにポートフォリオに組み込めるような製品をもっと生み出していきたいと考えています。



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