Image: Powermat Technologies
スマートフォンの充電で広がったワイヤレス充電。IoTや5Gの進展とともに、自動車やロボット、家電、医療機器など、さまざまな用途への導入拡大が期待される注目の技術だ。その技術を先駆けて提供しているのが、イスラエルのPowermat Technologiesだ。非接触電力伝送ソリューション開発企業のパイオニアである同社のテクノロジーやソリューションを導入することで、メーカーはワイヤレス充電をカスタマイズしてプロダクトを製造できる可能性が広がった。同社の強みはどこにあるのか。CEOのElad Dubzinski氏に事業展開や将来的な目標を聞いた。

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ソリューション提供、BtoBへの事業転換で成長

 Powermat Technologiesは、ワイヤレス充電システムのパイオニアだ。これまで特許を累計200件以上出願し、100件以上を取得した。同社によると、既に世界中で8億台以上のスマートフォン、4000万台の組み込みアクセサリ、800万台の自動車に搭載されているという。2007年設立の同社は当初のプロダクト開発から、テクノロジーとソリューション提供のリファレンスデザインの会社に転換を図った。それを牽引したのが2016年にCEOに就任したDubzinski氏だ。これまで複数のテック企業でCEOやアドバイザー、役員などを歴任してきた同氏。社の特徴を次のように説明する。

「私たちのビジネスモデルには、2つのユニットがあります。1つ目はIPライセンスで、2つ目は、テクノロジーソリューションです。製造業ではなく、技術を提供するBtoB企業なのです。磁気技術を応用したワイヤレス充電で、バーチカルな5Gソリューションを世界で初めて提供した企業です」

Elad Dubzinski
Powermat Technologies
CEO
Tel Aviv Universityにて経済学の学士号を取得。Extreme RealityのCEOやLucidLogix TechnologiesのCOOなど、複数のテック企業の経営ポジションを歴任。2016年、Powermat Technologies(創業2007年)のCEOに就任。現在も複数のテクノロジー企業のアドバイザリーボードメンバーを務める。

 同社の技術は、Samsung、LG、GM、京セラ、シャープなど、世界中で利用されているという。回路設計やレイアウト、性能の評価、チューニングまで請け負う事業への転換が功を奏し、以来、業績は好調に伸び続けてきた。また、新型コロナウイルスの影響で、非接触型の充電システムへの需要はより一層高まったという。

自動車、ロボット、医療機器分野で日本メーカーに期待

 Dubzinski氏は、ワイヤレス充電は家電や医療機器、ドローン、ロボット、自動車など、幅広い分野への応用が広がると見据えており、大きなビジネスチャンスになると期待している。有線での充電が不要になれば、場所を気にせずパソコンやドローンを自由に使えるようになり、IoTや5Gソリューションを後押しするものとなるだろう。

 給電方式には電磁誘導方式、磁界共鳴方式、電界結合方式などさまざまあるが、Powermatの場合は電磁誘導技術がベースとなっている。誘導型ワイヤレス充電技術と共振型充電を融合した特許技術「SmartInductive™」で、高出力を可能にした。それによって、最大40cm離れた距離からの電力伝送もできるようになった。

 また、独自のソフトウェアアルゴリズムにより、受信機までの正確な距離を学習し、それに応じて動作を最適化することもできるようになった。位置や角度のずれにも強く、壁に隔たれている場合でも約30cmまでであれば充電できるという。屋外や水中など厳しい環境下でも利用できるという。

 同社がパイオニアとしての地位を築いた理由として、Dubzinski氏は「当社には非常に優秀なエンジニアがいます。彼らはこの技術を熟知しており、非常に賢い。次に、非常に強力なマーケティングチームがあり、私たちの経験と知識を市場に公開しています。そのため、誰もが私たちのことを知っています。そして3つ目は、私たちはとても古い会社だということです」と述べる。つまり、優秀なエンジニア陣と、強力なマーケティング力、会社の豊富な実績。これら3つが同社を支えているというのだ。

 マーケティングチームには、外部人材も含めて4名が業務に当たる。会社の特徴が世界中の顧客に分かりやすいように、各国語に翻訳されたランディングページを用意するなど、情報発信に力を入れている。

 世界中のパートナーづくりも積極的に進める。日本では、ジャパン・トゥエンティワン(本社:愛知県)社とマスターディストリビューターの契約を結んだ。今後、日本をはじめ、香港や韓国、ドイツ、イギリス、南アメリカ、ブラジル、メキシコ、インドなど、幅広い国々の企業との連携・導入に期待する。

 Dubzinski氏は「日本には、自動車やロボットなどたくさんの産業があります。医療機器もそうですね。だからこそ、日本は我々の顧客としてもとても重要です」と、日本での事業拡大に大きな期待を寄せている。

キッチン家電への応用に期待 日本オフィス開設にも意欲

 資金調達の面では、2021年12月、鴻海科技集団の投資持株会社であるFoxconn Interconnect Technologyなどから、シリーズBで2500万ドル(約29億円)を調達した。旺盛なワイヤレスパワー需要に応えるため、資金は海外法人の設立や従業員の採用、マーケティング、技術開発にあてる。

 売上高は昨年比で1.5倍と成長しており、これからもマーケットは伸び続けるとみている。Dubzinski氏は投資にも強気だ。6カ月以内に従業員を倍に、1年以内に4倍に増やすことが目標という。事業拡大に向けて、まずは日本、ブラジル、アメリカ、ドイツにオフィスを開設したいとビジョンを語る。

 あらゆる産業に導入され、今後も応用が期待されるワイヤレスパワー。ロボティクス分野では、太陽電池セルの洗浄用ロボットにワイヤレス充電が導入された。モビリティ分野では、空港や飛行機向けに置くだけで充電できるスマートトレイが導入された。セキュリティ分野では配線不要で設置できるカメラの開発に貢献した。さらに医療機器の分野でも開発中の案件をもつなど、新しいユースケースが次々に生まれているという。

Image: Powermat Technologies

Dubzinski氏が最も期待しているのはキッチン用品や家電の分野だ。台に置くだけでお茶が沸くポットや、配線なしで設置できるテレビのようなものを考えている。

「世界中の人々が、ワイヤレスパワーに向かっている今、市場は非常に活発です。私たちはお客様のニーズに応える必要があります。そのためにオフィスを開設したり、イスラエルと国外に従業員を増やしたり、グローバル化を進めなければなりません。またマーケティングを強化して、IPやイノベーション技術に投資したりして、次のフェーズに向けてたくさんのイノベーションを生み出していきます」

 将来的にグローバルで1兆円以上の市場規模に達するという予測もあり、さらなる成長分野として期待されるワイヤレス充電システム。今後、生活をますます便利に快適にする技術がどう広がっていくか、Powermat Technologiesの今後にぜひ注目していきたい。

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