同社のプロダクトである高度な映像分析アルゴリズムを搭載した最新のAIカメラは、17種のスポーツに対応可能で、90%以上の映像制作コストの削減を実現する。Pixellotのグローバル展開の中でも、特に日本は「最重要な市場」だという。CEOのWerber氏に開発の経緯や事業展望、日本市場について話を聞いた。
アマチュアスポーツに着目 低コストな映像制作・高度な分析ツール
――自動映像制作ソリューション開発に至った経緯を教えてください。
世界では、年間数百万件のスポーツイベントが開催されていますが、実はそのほとんどは放映されていません。放映されていないイベントは、地元の若者や女性のスポーツ、人気スポーツの下部リーグ、さらにはニッチスポーツのプロリーグに至るまで、多岐にわたります。
NBAや日本の1部リーグの試合であれば、制作チームやカメラマン、編集者などを雇えるだけの潤沢な予算があるでしょう。しかし、アマチュアや、大学、高校ですと、観客が少ない上に広告費や人件費に払うほどの予算がありません。
実はアマチュアスポーツの世界は重要な市場です。人は誰しも自分の子供たちや地元のチームの活躍を見たいと思うものです。NBAの選手でなくても、アスリートなら誰でも、自分のデータがどうなっているのかを知りたい。そこで、このアマチュアの市場に対応するためには、全てを自動化し、コストを抑える必要があると考えたのです。
――御社が開発する高度な映像分析アルゴリズムを搭載した最新のAIカメラの特長を教えてください。
コンピュータビジョンとAIを使って、全てを自動で撮影し、配信します。私たちのカメラは、ゲームの中で動く物体も追いかけ、AIは何のゲームかを理解します。例えば、サッカーであれば、コーナーキックかペナルティキックかがわかります。この理解に基づいて、システムは仮想フレームを作るので、映像を見ている人はプロのカメラマンが試合を撮影しているかのように見えるのです。
また、コーチ向けに高度な分析ツールを提供し、スポーツゲームの自動編集やアクションの事前タグ付けを行い、より効率的にパフォーマンスを向上させることができます。
全てを自動化し、撮影しますから、日曜の夜8時はバスケットボール、次の日の9時はバレーボールというように、時間やスケジュールを決めて、あとはカメラをセットするだけです。
映像そのものだけでなく、その周りのグラフィックや採点など、すべての演出が自動的にライブで行われます。そして、コメントも取り入れることができます。フルに試合を体験できるわけです。
このAIカメラにより世界中でカバーされてこなかったスポーツを配信するサービスを提供できるようになりました。私たちは毎月30万時間のライブゲームを制作しています。おそらくESPNの100倍以上の試合数でしょう。
Image:Pixellot
コロナでストリーミングの需要が拡大
――コロナ下では、スポーツの試合が無観客となり、スポーツ界は大きな影響を受けましたが、御社は新型コロナウイルス流行の影響はありましたか?
2020年の第2四半期にスポーツの動きが凍結してしまい、私たちもダメージを受けましたが、その後、回復しました。スポーツ業界はゲームが開催されない代わりに映像を取り込んで、収益化しなければなりませんでした。私たちにはOTT(Over The Top、インターネット回線を通じてコンテンツを配信するストリーミングサービス)がありますから、映像を配信し、人々は見たいゲームに課金して、家にいながらスポーツを楽しむことができます。コロナのおかげで大きな収穫がありました。すべてがデジタル化し、その価値を世の中が理解するようになったからです。
2020年第2四半期は月間放映時間が落ち込みましたが、第3四半期には回復し、その後は着実に増えています。
――すごい回復、成長ですね。アマチュアスポーツ以外でも対応されているのですか?
プロや1部リーグにも対応しています。私たちはニーズやセグメントに対して、様々なソリューションを提供しようと努めています。テレビに映したい場合もありますし、より良いカメラや高品質のテレビが必要な場合もあります。例えば、バスケットボールのリーグ戦などでは、より高いクオリティを求めるため、その場合の料金は少し高くなります。
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世界2万5千施設に導入 朝日メディアラボも出資「日本は特別な市場」
――2022月6月のシリーズDラウンドで1億6,100万ドルを調達し、過去9ラウンドでの資金調達総額は2億1,830万ドルに上ります。投資家を引き付ける魅力は何でしょうか? また、2018年のシリーズBでは、Shamrock Capital Advisors、朝日メディアラボベンチャーズから3,000万ドルを調達しています。朝日メディアラボのファンドには、ABCドリームベンチャーズ、名古屋テレビ・ベンチャーズも出資しましたが、これが「日本は特別な市場」という理由でしょうか?
私たちのカメラは世界中の25,000超の施設に導入されています。その数は競合相手の2倍にあたります。アメリカの半数の高校で当社のカメラが導入されています。アフリカ、ヨーロッパ、中国でも高校、大学をはじめ、多くのリーグで私たちのカメラが既に導入されています。私たちは、ファンだけでなく、コーチや選手が本来望んでいたニーズを見つけたのだと自負しています。スポーツ市場という大きなマーケットで成長し、重要な役割を果たしていることを投資家の方は理解してくれたのでしょう。
朝日メディアグループは私たちにとって初めての日本の投資家でした。彼らのような戦略的パートナーは、会社の一部でありたいと思っています。ですから、彼らは私たちにとって非常に意義のある存在であると同時に、日本は私たちにとって最重要な市場です。
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――調達資金の使途を教えてください。
1つ目は顧客価値を拡大することです。2つ目はOTT事業者と分析会社を買収しましたが、買収だけではなく、開発研究にも投資を続ける予定です。最近インドのクリケット市場にも参入しました。今後もさらに新たな市場を開拓し、低コストでスポーツを放映する機会を増やしたいと思います。
――日本ではNTT Sportict(NTTスポルティクト)とパートナーシップを組んでおり、御社の製品を販売している代理店も既にいらっしゃいます。
NTT Sportictは、ディストリビューターやパートナー以上の意味を持つ重要なビジネスパートナーです。彼らは、私たちの次世代AIカメラを軸に様々なスポーツを撮影し、スポーツ団体、学校、施設などに映像配信プラットフォームを提供しています。
私たちが何かを開発する時、「何が日本市場にとって重要か」という提案をしてくれます。当社はモバイルシステムに新機能を搭載し、完全なライブ配信を開始したところです。その機能は日本のパートナーが最初に使い始めました。そういう点から、日本は私たちにとって最重要な市場なのです。
パートナーとともにさらなる成長を ダイナミックに前進するのみ
――日本で新たなパートナーシップを求めていますか?
私の哲学をお話しすると、ある市場において私たちは多くのパートナーと仕事をすることはありません。なぜならば、私たちのパートナーがその領域でもっと成長して頂きたいと思っているからです。ですので、今のところ、日本市場での新たなパートナーは探していません。
日本市場における私たちの焦点は、既存のパートナーと共に成長し、スポーツ映像の世界で新たな革命を起こすことです。
――最後に御社の長期的なビジョンを教えてください。
中国は私たちにとって大きなターゲットであり、今後も更に拡大していくでしょう。シリーズAラウンドの段階で、Baiduも当社に出資をしています。
アフリカでは、スポーツ放送局SuperSportと強力なパートナーシップを結んでいます。世界には200万もの施設があり、私たちはまだ2万5千ほどの施設にしか当社のプロダクトを設置していません。まだまだ拡大の余地があるということです。より多くの学校、施設、リーグに、より良いサービスと多くの可能性を提供し続け、ダイナミックに前進するのみです。