「最短・最速ルート」を自動計算するSaaSソリューション
――御社が開発した配車管理システム「Loogia(ルージア)」は、どんなことが出来るのか教えてください。
私たちは物流のラストワンマイル配送と呼ばれる領域において、荷物をどのトラックに詰めて、どういう順番で配送すると最も効率的なのか、配送ルートを自動計算するソリューションを提供しています。
例えばトラックが30台、配送先が100カ所あったとして、その日のうちに届けなければならない荷物の数や、指定された配達時間帯など複数の条件を考慮しながら配送ルートを決定できます。一般的には企業のベテランの配車係が同じ作業を行っていますが、私たちのテクノロジーを使えばこうした作業の属人化を防ぐこともできます。
ビジネスモデルは拠点数、車両台数に応じて月額料金をいただくSaaS型で、最初の契約は3カ月分からですが、4カ月目以降は1カ月単位の契約も可能です。
私たちが取り組んでいるのは、配送ルートを最適化する計算アルゴリズムの開発と、画面に映すインターフェースの提供が基本です。
――サービスの利用手順はどのようになっていますか。
まず始めに車両台数や、配送先住所、配達時間、荷物の個数などの情報をLoogiaに入力していただきます。そのデータを元にAIが配送の順番や、荷物の割り当て、時間などを計算して配送ルートを決定します。
ドライバーさんは手元のスマートフォンにログインするだけで、「今日は何時に出発するのか」「どの順番で、どんなルートで配達するのか」「何時頃に到着できそうか」などの手順を確認することができます。
一方、物流センターにはドライバーさんからのリアルタイムな情報が届きますので、「今どこにいるのか、どれくらい作業が終わっているか」など進捗状況が分かるようになっています。
導入企業の事例では、例えば、佐川急便の集配業務で使用する情報端末とリアルタイムで最適な集配順序の決定を行うLoogiaをAPI連携し、これまでアナログで行っていた集配順序の決定をシステム化することで、ドライバー業務の効率化を図っています。宅配便などの輸送事業者をはじめ、宅食会社やLPガスの配送会社にも広がっています。ほかにもコンビニエンスストアや家電量販店など、エンドユーザーへ荷物を届ける仕事ならどこでもご利用いただけます。
Image:オプティマインド HP
243京通りのパターンから最適ルートを選ぶアルゴリズム
――技術的な特徴はどんなところですか。
Loogiaの強みは運行計画策定のスピードと精度です。最速・最短ルートを「ガラガラポン」という感じで計算するのは、実は簡単そうに見えてとても難しいことです。例えば1人のドライバーがA、B、Cの3カ所の配送先を回ろうと思うと、「ABC、ACB、BCA、BAC、、」という感じで3の階乗、つまり6パターンの答えがあります。これがもし20カ所となると20の階乗、つまり243京パターンになるということです。当社のアルゴリズム技術を使えば、この計算が非常に早く終わります。だから多くの方が考えるよりずっと早く運行計画を立てられるのです。
また、到着時刻をかなり高い精度で予測できるところもコア技術の1つとなっています。その理由は全地球測位システム(GPS)データを使って、車両の速度や駐停車の位置を正確に解析しているからです。ドライバーさんが実際に配送していると、その間、どんどん時間がずれていってしまうことがよく起こります。せっかく運行計画を立てても、計画倒れになっては意味がありません。ですからGPSデータを使ってより現実に近い運行計画に随時、修正しているのです。
――開発ではどんなところに苦労しましたか。
配送業などの現場からは、「ドライバー全員に等しく仕事を分配してほしい」という要望があったと聞いています。配送量は日によって変動しますが、雇用しているドライバーさんの数は変わりません。ドライバーさんに「今日は休んでほしいけど、明日は出社して下さい」とはなかなか言えません。
はじめはドライバーさんが10人だったところを、8人に減らすことができたらいいだろうと考えていた私たちにとって発見でした。それまで定量的な部分だけにフォーカスしていたからです。でも実際は「人間らしい」部分も必要だということが分かり、アルゴリズムという計算の世界に定性的な要素を付与しなければなりませんでした。それでLoogiaではドライバー全員に均等に仕事を当てられるよう、「負荷の均等計算」という技術も開発しています。
――現場の声を反映することがすごく重要なのですね。
そうです。お客様が求めていないような解像度の低いプロダクトを作っても意味がありません。ラストワンマイル配送は生活に密着したサービスですので、現場の声はとても重視しています。エンジニア達にはいつも全国どこでも顧客訪問するよう言ってきかせていますし、役員については毎月1回、お客様訪問するのが義務となっています。私もお客様のところに1週間通い、配送を手伝ったこともあります。「バーティカル(業種・業界特化型)SaaSの答えは現場にある」というのが私のポリシーです。
――使いやすさを重視しているLoogiaは、インターフェースの部分でも工夫されていることはありますか。
はい。インターフェース画面は、シンプルで分かりやすいものを徹底しました。Loogiaに入れられる条件の数は、車両台数や配送先住所など基本的な条件のほかに、高速道路の利用有無や、集荷・配送、ドライバーさんの勤務時間、休憩時間など最大で40件に上ります。このほか「どれくらい運転の習熟度が求められるか」「駐車スペースの状況はどうか」など、ドライバーさんが注意すべき条件も入れることができます。
これだけ多くの条件を組み合わせるわけですから、インターフェースの裏側では非常に複雑な計算が働いています。しかし、使いやすさを重視して、本当は非常に複雑でありながら、見える部分は「誰でも分かりやすい」ものにこだわりました。最終的な手直しは、お客様が自分で簡単に操作出来る画面も用意しています。先ほどの条件入力も簡単に出来るものとなっています。
配送にかかるCO2排出量を14%削減 カーボンニュートラルにも貢献
――Loogiaを導入すると、どれくらいの効果が出るものでしょうか。成功事例はありますか。
敷島製パン(Pasco)さんと昨年、ある実験を行いました。Pascoさんは毎日、工場で生産したパンを10,000件以上の取引先へ配送していますが、課題は各トラックの配送効率に差が生じていたことです。そこでLoogiaを使ってシミュレーションをし、配送計画の見直しを行ったところ、従来の走行距離、配送におけるCO2排出量はそれぞれ14%削減できました。
このほかローソンさんともコンビニ店舗間の配送効率を改善できないか実証実験を行っています。従来、店舗への配送ダイヤグラムは3カ月間固定されて決まっているのですが、オプティマインドのAIを使って毎日、物流量に合わせた配送ができないかという実験です。2021年に行った試験結果では、配送台数を約8%(4台)削減し、CO2排出量も約7%(年間約100トン)削減出来ることが分かりました。今後、他の配送センターでもAIによる配送ダイヤグラムを広げていく予定です。
とくに近年は、世界的にカーボンニュートラルに取り組む企業が増えている影響で、物流の効率化やコスト削減だけでなく、CO2排出削減を目的に興味を持ってくださる企業が増えています。
Image:オプティマインド
――市場環境や業績の方はいかがでしょうか。
業績は、この2〜3年、前期比2倍以上の成長をしています。新型コロナの影響で需要がすごく伸びたかというと、そうでもなくて、プラスとマイナスの影響を受けました。顕在化している需要は300億円くらいですが、医薬品や飲料水の配送まで範囲を広げれば潜在需要は5000億円くらいあると推定しています。この分野で私たちは後発プレーヤーなものの、クラウド化の波にいち早く乗れたたので、世代交代の需要を取り込むことができました。
筆頭株主はトヨタ スマートシティの物流を支えたい
――2015年に創業し、2019年10月にトヨタ自動車をリードインベスターとして、MTGVentures、KDDI設立のKDDI Open Innovation Fund 3号などから総額約10億円の資金調達をしました。起業しようと思ったきっかけや、これまでの道のりを教えてください。
起業しようと思ったきっかけは、名古屋大学在学中に受けた「組み合わせ最適化」というアルゴリズムの授業です。数学を受験勉強としか捉えていなかった私は、これが世の中の課題を解決できるものだと知って衝撃を受けました。「これを武器に社会貢献したい」という思いで大学の研究室に入ったものの、やりたかったものとはかけ離れていたため、大学院在学中に友人とオプティマインドを起業することにしました。
起業当初は物流に絞っていたわけではなく、工場とか農場とか手当たり次第に営業して回りました。プロダクトもまだ無い状態だったので、営業先に「アルゴリズムを使って最適化しませんか」と提案すると、「自分の頭の方が最適だよ」と言われてしまう始末でした。当然、売上金額もなく、次につながるような結果も得られません。
それでも数人のメンバーとともに、2年くらい粘り強くチャレンジを続けたところ、徐々に売り上げが立つようになってきました。この時は最適化とAIを軸に面白そうだと思うことは何でもやっていたので、ある時は無理しすぎて救急車で病院に運ばれたこともあります。
転機となったのは、2018年に日本郵便が主催したオープンイノベーションプログラムでの最優秀賞受賞でした。これはサムライインキュベートと一緒に行われた日本郵便初のオープンイノベーションプログラムで、150社を超える応募の中から私たちが提案した「人工知能を活用した配送業務効率化」が選ばれました。また翌年の2019年に開催された国内最大のスタートアップピッチ、ICCサミットでも優勝したのをきっかけに、資金調達も進みました。
その頃はちょうど「物流クライシス」が叫ばれるようになってきた頃で、今のLoogiaにつながるビジネスモデルが確立しつつある時でした。トヨタ自動車さんからは、その頃にお声がけいただきました。トヨタさんもクルマのメーカーからモビリティサービスの会社へ脱却するという長期目標を掲げたところだったからです。私たちのルート最適化技術をモビリティサービス・プラットフォームの1つとして評価いただきました。
――これまでの経験を踏まえ、今後の開発目標と、目指したい将来展望を教えてください。
これからは蓄積したデータを、製品のフィードバックに活かすことや、経営改善に役立つインサイトを提供できるようなものに活用していきたいと考えています。例えば、普段は余計な経費がかかるという理由で高速道路を避けているとしても、状況によっては高速道路を使った方が安上がりになるというシミュレーションが可能となるかもしれません。
データという観点では、もっとリアルタイムな道路情報も必要としています。例えば事故の発生、災害による復旧工事、イベント開催による通行止めなど、随時、情報を反映できれば「最短」ルートだけでなく「最も安全な」ルートがタイムリーに提案できるからです。こうした情報をお持ちの企業があれば、ぜひお声がけいただいて協力してほしいですね。
そしてゆくゆくは、Loogiaがスマートシティの一翼を担うような存在になりたいです。例えば未来のラストワンマイル配送は、必ずしも自動車だけとは限りません。宅配ロボットやドローンなど画期的な配送方法も登場するでしょう。その頃には、トラック、ロボット、ドローンをどう組み合わせれば配送を最適化できるか、ということが課題になると思います。そこで、オプティマインドをあらゆるラストワンマイル配送に搭載していただいて、計算で最適化されたルートをスマートに走っていただきたいと考えています。
私たちが目標としている企業は、主要株主であるトヨタ自動車さんです。「名古屋から世界的な企業を目指す」という高い志を持ち、アルゴリズムの力で社会貢献したいという方にはぜひ、私たちの仲間として参加してほしいと願っています。