ECや小売、製造業、ホームサービスなど様々な業界を対象に、物流最適化プラットフォームを提供するLocus.sh(本社:インド・バンガロール、以下Locus)。受注から配送までの配車管理プラットフォームは、高度な最適化アルゴリズムと自動化によって業務の効率化を最大化する。2017年にはリクルートホールディングスが投資子会社を通じ、同社へ出資。日本を含む30カ国以上で事業を展開し、顧客にはUnilever、Nestle、Bukalapak、The Tata Groupなどが名を連ねる。同社の最適化プラットフォームは輸送コストと二酸化炭素(CO2)排出の削減にも貢献している。創業者でCEOのNishith Rastogi氏にプロダクトや業況、将来展望について聞いた。

女性の安全のために開発したルート逸脱検知アプリを、宅配事業者が配送最適化に活用

――職歴やLocus創業の経緯について教えてください。

 私は学生時代からずっと起業したいと思っていて、オープンソースコミュニティにも加わっていました。大学では、電気・電子工学の学士号、経済学の修士号を取得し、Amazonではソフトウェアエンジニアとして、AIや機械学習に携わりました。そこでLocusの創業者であるCTO のGeet Gargに出会いました。

 私たちは2014年に、女性の安全を目的としたルート逸脱検知アプリ「RideSafe」を発表しました。これは、あらかじめ設定された乗車ルートから利用者が逸れた際に追跡する機能だけでなく、インテリジェントに経路の逸脱を可視化することができるものです。BtoC向けに提供したものでしたが、ある宅配事業者が、自社の配送管理に使っていることがわかったのです。

Nishith Rastogi
Locus.sh
Founder & CEO
2007年〜2012年、Birla Institute of Technology and Science, Pilaniで電気・電子工学学士号、経済学の修士号を取得。2012年〜2014年、AmazonでAI関連のソフトウェアエンジニアとして過ごしたのち、2015年にGeet Garg氏(現CTO)とLocus.shを創業。

 私たちは、この企業にほかのGPSトラッキングや可視化ソリューションを利用しない理由について尋ねると、私たちの逸脱検知アプリなら、1人で100人の配達員の状況を管理する代わりに、100人の配達員の「例外だけ」を管理できるからだと説明してくれました。物流のソリューションには配達状況などの可視化だけでなく、より良い意思決定のためのソリューションが必要だということがわかったのです。

 私たちはさらに、このアプリのどこがユニークで、本当に必要な機能は何なのかを検証しました。そこで、ロジスティクスにおける意思決定、ルート最適化、貨物の割り当てなどの課題を解決できることに気が付いたのです。それまで物流業界では、配送における自動化された意思決定のためのプラットフォームが存在しなかったのです。

 私は東京という街が大好きですが、例えば、夕方、渋谷のコンビニエンスストアに商品を配送する際、配達員が渋谷のスクランブル交差点を通るのは絶対に嫌だと思うはずです。だからといって、人が立ち入るのを封鎖するわけにもいきません。最適なルートで配送したいですね。

 それから、東京では不動産の賃料、コストの負担も大きく、コンビニなど店舗のスペースは限られていますので、店としては在庫を最適化したいはずです。

 ほんの10年前までは、物流業界、配送サービスにおいて、コンサルタントが作成した固定のルートを使っていればよかったでしょうが、今日では、小売店への配送だけでなく、ECの需要増による家庭への配送など、さまざまなタイプの配送が行われています。

 配送に求められる要件は刻々と変化し、複雑化しています。そこで、当社のプラットフォームがコスト削減と優れた顧客体験を同時に実現しているのです。

Image: Locus.sh

AIによって最適な配送ルートを支援し、コストと環境負荷を低減

――プロダクトの概要や収益モデルについてお教えください。在庫の管理や整理、輸送、追跡、目的地への最適なルート検索などさまざまな作業に対応しているそうですね。

 私たちのプロダクトは、大企業向けに設計されていることをまずお伝えしておきます。セキュリティや安全性、安定性に配慮しています。

 グローバルにビジネスを広げていますが、低いレイテンシーと安定した動作を約束するため、地域ごとにサーバーを置いてビジネスを展開しています。

 日本の企業向けには、プライバシー保護などの法律にも適合したサービスを提供しています。

 主な顧客は配送や宅配サービスを伴う企業です。例えば、消費者がECサイトを利用する際、その注文から配送までの体験をシームレスに管理・最適化できるプラットフォームを提供しています。

 複数の輸送業者間の配送をコーディネートし、配送ルートを最適化し、最小限の走行距離での配送を支援します。配送ルートが決まったら、その実行状況を確認して、遅延があれば適宜修正するか、顧客に通知して意思決定を求めます。

 配送結果も分析して、その後の運用改善に活用できます。顧客は、燃料費などのコストを削減できるだけでなく、環境への負荷も削減できるので、サステナビリティにも貢献できます。

 私はAmazonでAI関係の業務に取り組んでいましたが、LocusのプラットフォームもAIを活用しています。たとえば、配送先のスペルが間違っていてもAIが修正します。AIは始めは最適なルートを知りませんが、ドライバーの行動によって学習していきます。

 収益モデルはシンプルで、配送業務を最適化した部分を一定の割合で利用料としていただいています。特別な技術料はありません。最初に一定数の配達をモニタリングすることで、どの程度ルートなどを改善できるか、予測ができるようになっています。

Image: Locus.sh

――導入事例をいくつか教えていただけますか。

 8つの都市で事業を展開する食品配送業社の例を紹介しましょう。この企業では、利用者が朝食のために商品を注文するので、朝の時間帯に時間通りに届けることが重要です。Locusを使うことで、注文の99.5%を、オンタイムで配送できるようになりました。

 また、ある企業では、配送車両と返送車両を組み合わせたいと考えていました。午前9時に配達を始めて、11時になると車両には貨物を積載できるスペースの余力がありますので、返送の荷物を積めます。ほとんど追加コストをかけずに両立することができました。

 先ほどお伝えしたように、店舗の在庫スペースは限られている一方で、企業は在庫切れの問題も解決したいですよね。このようなニーズから、消費財メーカーも当社のプラットフォームを利用しています。

 他にも、輸送会社がLocusを活用しています。トラックが最高の稼働率、非常に高いレベルの充填率で走っていることを確認するために、多くの輸送会社と連携しているのです。

――ここ数年の業績や、事業を展開している地域についてお教えいただけますか?

 私たちは毎年、収益を2〜3倍にしてきました。パンデミック後に宅配便の市場が拡大したことはご存知の通りです。これが私たちの成長をさらに後押ししています。

 また、看護師が高齢者宅を訪問して、薬の調合などを行う在宅ケアも成長分野で、この場合は訪問ルートの最適化を行っています。

 パンデミックは労働力の低下も招きました。すると、十分なトレーニングを受けていない人や、地域のことを知らない人が配送を担当することもあります。Locusによって業務を効率化することで、新人ドライバーでも先輩ドライバーと同じ件数の配達が可能です。

 地域については、インド、シンガポール、インドネシア、ベトナムといったアジア太平洋地域では支配的な地位にいます。北米は成長段階にあり、今後は欧州での取り組みも強化する予定です。

Image: Locus.sh

中長距離の物流も視野に入れた、グローバルな物流の最適化・自動化に取り組む

――この先1年ほどのマイルストーンや日本市場での展開についてお聞かせください。

 ルートなどの最適化に加えて、巨大な自動化のレイヤーを追加しようとしています。これはロジスティクス専用に作った自動化のエンジンで、例えば、請求書発行システムや支払いシステムと配送ドライバーをリンクし、配送日に応じて支払額を計算するなど、注文から納品までの一貫した機能を強化します。

 また、ラストワンマイルだけでなく、中・長距離輸送のセグメントにも進出しています。完全なエンド・ツー・エンドの配車管理プラットフォームとなり、今後12カ月間は、これらの分野に重点を置いていきます。

 東京周辺でもすでに毎日数千件の配送を既に行っており、今後の日本市場拡大にも関心があります。日本には、「時間を守ること」が尊敬される文化があるからです。

 私たちは、ブランドや荷主の価値向上に劇的な変化をもたらすことができると確信しています。日本では、品質が高く評価され、その対価を支払うことを厭わない人々が多いです。当社はこのような市場で機会を見出そうと考えています。

 これまで私たちは10億件以上の配送最適化をこなし、それぞれの配送先からアジアの配達の改善に取り組んできました。今後も日本との関わりを深めることをとても楽しみにしていますし、お客様にも価値をもたらすと確信しています。

 投資家であるリクルートは初期の段階から、戦術的なアドバイスなど私たちを助けてくれています。今取り組んでいるプロジェクトのひとつが高齢化社会に焦点を当てたものです。将来的にドライバーがより一層不足すると言われていますので、これらの問題を解決したいと思っています。

――長期的なビジョンや、読者へのメッセージをお聞かせいただけますか。

 世界初となる「デジタルサプライチェーン企業」となりたいと思っています。現在、当社は短距離輸送の市場に焦点を当てていますが、先ほど申し上げたように、中距離、長距離輸送の市場にも事業を拡大する予定です。また、陸上輸送だけでなく、海上や空にも領域を広げ、国境を越えた取り組みも始めたいと考えています。

 TECHBLITZ読者の皆さんは持続可能性の重要性をご存じでしょう。配送によって、CO2が排出される現状において、責任ある配送を行うことは私たち全員の相互責任です。そして宅配が今後も伸びていくことは否定できません。

 宅配業務の最適化によって成長機会だけでなく、顧客に対する企業の価値を高めていけるでしょう。ですから、テクノロジーの力を借りて、できるだけ効率的に行うことが肝要なのです。



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