大学時代の友人と約10年かけて作り上げたOptibusの仕組み
――Optibus創業の経緯を教えてください。
共同創業者で現CTOのEitan Yanovskyと共に、2014年にOptibusを設立しました。しかし、Optibusのアイデアは2004年頃から始まっています。当時、私は大学で数学とコンピューターサイエンスを勉強していましたが、そこでEitanに出会いました。
ある日、イスラエル最大の公共交通事業者でCFOを務めていた父が、公共交通計画が非効率であることから、私にコンピューターサイエンスと数学を勉強しているのなら、この課題を解決できるのではないかと尋ねました。この父の言葉をきっかけに、Eitanと共にOptibus創業までの間、暇さえあればどう公共交通機関の運行を効率化、最適化できるのか、その仕組みについて考え続げました。
大学を卒業した後、私はアメリカのプリンストンに行き、Siemens(シーメンス)でリサーチャーとして医療用X線装置での機械学習の利用など医療画像の研究をしました。その後、Microsoftで数年間働き、MicrosoftではパーソナルアシスタントのCortana(コルタナ)を作るチームに属していました。
フルタイムで仕事をする傍ら、夜も週末も休日もOptibusの仕組みを考え、コードを書きました。また、イスラエルの公共交通機関と協力して、彼らのフィードバックを得て、データを取得し、製品を改良していきました。
2014年には初期バージョンでしたが、すでに何社かのお客様に当社の製品を使ってもらいました。Optibusのような製品への強いニーズがあることが分かり、フルタイムでOptibusを始める時期だと感じました。そこから会社をスタートさせました。
――公共交通機関が抱える課題に対する御社のミッションについて教えてください。
優れた公共交通システムに投資している都市は、人々をつなげたり、医療サービスや勤務先や通学先につなげたりとさまざまな場面で多くの改善が見られる一方、公共交通機関自体はあまり変化しておらず、テクノロジーはほとんど存在していませんでした。
Optibusは、現在アジア、中南米、北米、欧州、アフリカ、オーストラリア、ニュージーランドなど、世界中の1,000以上の都市で利用されていますが、80%の顧客にとってOptibusは初めて使うデジタル製品でした。紙とペン、エクセルなどマニュアル作業が一般であり、AIがデータを見て賢い判断をするようなコンピュータープログラムは、これまで公共交通機関向けには存在しませんでした。
これがOptibusを作った理由であり、テクノロジーを使えば需要に即したルート、最適化された時刻表、予算の有効活用、空車の減少、時間通りに来るバスなど、多くの問題を解決することができます。我々のミッションは、より良い公共交通機関を作り、地域や人々をつなぎ、より持続可能な都市を作ることだと考えています。
パンデミック中に顧客が2倍増加 急激な変化にも対応する能力
――Optibusプラットフォームの特徴を教えてください。
ウェブ上で利用できるOptibusプラットフォームは、プラニング(Planning)、スケジューリング(Scheduling)、オペレーション(Operations)等を含む製品の機能が、すべて一つのプラットフォームに統合されています。
プラニングでは、バスや鉄道ネットワークの路線、頻度、時刻表などを設計することができます。また、住んでいる人たちの平均所得、マイノリティグループといった人口統計等も統合しており、ネットワークと需要を一致させます。主に政府、交通局、バス事業者などに使用されています。
スケジューリングでは、運転手が何人必要なのか、車両が何台必要なのか、車種、運転手の休憩時間を含む運営の仕方、費用、燃料、メンテナンス等を管理します。
オペレーションでは、車両の故障や、渋滞に巻き込まれたときなど、リアルタイムでスマートな判断を下し、運営を支援します。プラットフォームは、年間サブスク型で、どの製品を購入するかによって価格は異なります。
――主な顧客層を教えて下さい。
バスの運行会社、交通機関、交通局、都市あるいは政府に加え、大学のキャンパスバス、空港のシャトルバス、大規模な音楽フェスティバルやスポーツイベント等でのシャトルバスで利用されています。また、企業では、AppleやMeta(旧Facebook)等で利用されています。例えば、Appleは、会議のためにバスで移動する必要があるほどの広大な敷地内の移動に利用しています。
――パンデミック中は、公共交通機関の利用は減ったと思いますが、どのように対応されましたか。
パンデミック時には、公共交通機関の利用者は全世界で80%減少し、2020年の業績は悪くなるだろうと予測していました。しかし、Optibusは、ロックダウン中の路線変更など、急激な変化に対応する能力を持っていたことから、2020年時には需要が増加し、顧客数は2倍以上に増えました。公共交通業界にとって厳しい時代であっても、我々のシステムが非常に重要であり、有効であることを示したと思います。
Image: Optibus HP
公共交通機関に特化した初のユニコーン企業として製品の拡張、グローバル展開を加速
――御社は2022年5月にシリーズDラウンドにて、1億ドルをBessemer Venture Partners(BVP)、Insight Partners、Verizon Ventures、Tencentなどから調達しました。評価額は13億ドルとなり、公共交通機関に特化した初のユニコーン企業になったと発表しています。この資金はどのように活用されますか。
主に2つのことに使っています。まず、製品の拡大です。リアルタイム・マネジメント・スマート化、電動化といった分野の製品開発へ投資しています。
次に、グローバルな展開です。最近、日本で事業を開始したところです。インドでは、最初の従業員を採用しました。他の国への拡大には投資が必要で、製品のローカライズ、翻訳、さまざまな製品との統合、人材、マーケティングなど、あらゆる面で投資する必要があります。現在、約20カ国に370人の従業員がいます。
――日本での事業展開はどのような段階ですか。
現在、日本では多くの試験運用を実施しています。日本では、マネージャーを採用し、現在さらに多くの人材を募集しています。商用化は、2022年の終わりに行うことを検討しています。試験運用は、2022年の初めから動いており、うまくいっていると思います。
日本では公共交通機関は非常に大きな存在で、多くの人が利用しています。特に日本では、運転手の不足と、運転手のワークライフバランスの実現といった課題があります。運転手が転職してしまい、多くの人手不足が発生していますが、世界中で同じような課題があり、Optibusが取り組んでいる課題でもあります。運転手にとって魅力的なシフトを作り、必要のないサービスを最適化することでより少ない労力でより多くのことが可能となります。
――御社の長期的ビジョンを教えてください。
現在、1,000以上の都市で、Optipusは利用されていますが、まだ市場のほんの一部です。パリ協定では、地球温暖化防止のために通勤で自家用車を使う人々を、効率的な公共交通機関に移行させることが重要だと位置付けられています。長期的には、AIを使い、より多くの製品を提供することで、素晴らしい公共交通網を作り、自家用車への依存をなくしていきたいと思っています。