火もガスもいらない。「電気だけ」で空気から二酸化炭素(CO2)を吸い取り、しかもきれいな水まで生み出す——。そんな一石二鳥のテクノロジーを開発しているのが、米カリフォルニア州サンフランシスコ発のNoyaだ。再生可能エネルギーと相性の良いオール電化型の装置は、従来のCO2回収技術に比べてエネルギー効率が高く、コストも低いのが特長。「直接空気回収(DAC)をソーラーパネルのように普及させる」ことを目指すNoyaの挑戦について、同社の共同創業者でCEOのJosh Santos氏に聞いた。

目次
常識をひっくり返したNoyaのDAC
プロトタイプ製造時、警察に通報された
ネット・ゼロ目指す日本企業に興味あり

常識をひっくり返したNoyaのDAC

―御社のDACシステムについて教えてください。どのように二酸化炭素を除去しているのですか。

 私たちは、大気中から水とCO2だけを取り出し、CO2を地下に送り込み、大気から除去する「直接空気回収(DAC:Direct Air Capture)システム」を展開しています。取り出した水は、製造業などの水を必要とする工業用ユーザーに販売しています。競合他社と比較した際、当社の優位性は「CO2の回収量が“見える化”されていること」「DACシステムがモジュール化されており、量産が可能なこと」にあります。

 見える化について、私たちのDACは電力のみで駆動していて、使用する電力量に比例して、回収する二酸化炭素量も増えていくという単純明快な仕組みになっています。つまり、CO2回収のエネルギー効率がとても高いという意味です。競合他社は熱源を必要とするケースが多いためエネルギー効率が悪く、使用する電力量と比較して、回収できるCO2がそれほど多くありませんから、そもそも電力量だけで回収したCO2を計測することができません。

 これが可能になっているのは、技術力に自信があるからです。DACの中に活性炭モノリスという物質を活用し、エネルギー伝達効率を向上させています。エネルギー伝達効率が良いということは、CO2回収にかかる所要時間も短いということです。

 モジュール化されている点については、ソーラーパネルの製造のように、当社のDACには特定の型があり、設計が比較的容易であることがメリットです。基本的にDACは製造コストが重く、量産に向かないことを考えると、Noyaの競争優位性ははっきりしています。

 2020年にNoyaを創業し、2023年に実施したシリーズAラウンドでは1,100万ドルを調達。累計では2,300万ドル超の資金を調達しています。シードラウンドでは、Y Combinatorからの出資も受けています。

Josh Santos
Co-Founder & CEO
米マサチューセッツ工科大学(MIT)で化学・生物工学の学士号を取得。TeslaでModel 3 Program、Harley-Davidson Motor CompanyでEVパワートレイン開発のProject Managerを務める。2020年5月にNoyaを共同創業、CEOに就任。

―そもそもNoyaはどのような課題を解決するスタートアップなのでしょうか。

 Noyaは気候変動で起きる諸問題を解決する企業です。気候変動は世界中の人々の生活を脅かす大問題で、人間の健康状態も悪化させますし、食糧や水の安全性の確保も難しくなっていきます。つまり、少しでもCO2の排出を抑え、気候変動のペースを鈍化させなければ、文明の維持すら難しくなっているのです。

 この大きな問題の解決に取り組むべく、Noyaでは「大気の中のCO2を除去(カーボン・リムーバル)する装置を開発しています。ビジネスモデルは「ネット・ゼロ」に野心的に取り組む組織、例えばShopifyやWatershedといった大手ソフトウエア会社や、アイビーリーグの大学と契約。彼らが私たちにお金を支払う代わりに、Noyaが二酸化炭素を削減する、という流れです。要は、日本でもよく知られている「カーボン・クレジット(温室効果ガスの削減量を企業間で取引する仕組み)」ですね。

image : Noya

プロトタイプ製造時、警察に通報された

―5年前に創業したきっかけについて教えてください。

 時計の針を巻き戻して、私がなぜ気候変動という問題に対して意欲的なのかを振り返りましょう。私は、テキサス州やアラバマ州、ジョージア州といったアメリカの南東部で育ちました。これらの州ではハリケーンが多く発生するなど、自然災害の脅威に常に晒されていました。

 気候変動に対する問題意識から、MITでは化学を学びます。その後、TeslaとHarley-Davidsonで、EV車の設計に取り組みました。

 Noyaを創業した当時、共同創業者のDaniel Caveroはスタートアップに在籍していて、私はHarley-Davidsonにいました。5月のある日、私たちは思い切って会社を退職し「世界が本当に必要とするものを作ろう」と志を共にしました。

 当時はコロナ禍だったこともあり、自宅の裏庭にこもって、DACのプロトタイプを製造します。近所に爆弾のようなものがあるのを怖がった住民から、警察に通報されたこともありました(笑)。私たちのプロトタイプが投資家の注目を集め、資金を調達し、Noyaを立ち上げたという経緯です。

image : Noya HP

ネット・ゼロ目指す日本企業に興味あり

―日本市場に進出する考えはありますか。

 すでにDNX Venturesを通して、日本企業と話をしています。顧客として日本企業と繋がることも、日本でDACを開発したい企業を支援することも、両方とも考えていますよ。

 日本は政府が「カーボン・ニュートラル」政策に本腰を入れていますし、5大商社をはじめ、積極的に投資している企業も存在します。日本企業と話すと、私たちの技術への強い関心があるのを肌で感じます。

―日本企業と提携する場合、どのような業種に関心がありますか?

 もちろんです。具体的には、DACをさらに磨き上げるべく、素材系の企業と話をしてみたいと考えています。例えば、化学薬品業界などは関心があります。他にも、投資会社やDAC建設を手助けしてくれる会社にも興味がありますね。金融業界や各種インフラ企業などでしょうか。

 さらに、「ネット・ゼロ」目標に本腰をいれている企業とも話がしたいです。例えば、航空・海運・セメントなどの業界です。これらの業界では、炭素排出が避けられない面もありますので、カーボン・クレジットというビジネスモデルへの関心が高いのではないでしょうか。

―これらの企業と協業する際、理想とするパートナーシップの形態はありますか。

 まずは、共同開発や共同研究でしょう。これは先ほどお話しした素材系企業との協業を考えた時、理想的です。次に、金融機関との資本提携。さらに、Noyaを通してカーボン・クレジットの商品を共に作る形の提携にも関心があります。

―最後に、Noyaの長期的な目標を教えてください。

 気候変動を食い止めるには、年間数10億トン規模のCO2を削減する必要があります。Noyaは最初の大規模商業用のDACを運営する予定ですが、この施設で削減できるのは50トン程度。気候変動の本質的な解決には、規模を拡大していく必要があります。

 Noyaは、太陽光発電や風力発電が世界中で展開されているように、DACが世界中の都市の空き地で稼動している光景を現実のものとしたいと考えています。再生可能エネルギーも、当初はネガティブなフィードバックが多かったのですが、現在では人々に受け入れられています。DACも同じように、技術とその効果を理解してくれれば、必ずみんなに受け入れられると確信しています。



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