Nextbillion.ai(本社:シンガポール)は、自動車配車サービスを軸とした東南アジアのスーパーアプリ「Grab」の出身者3人が、交通の課題を解決するべく立ち上げたスタートアップ。輸送、サプライチェーン、フィールドサービスなどのビジネス向けに高度なルーティングAPIを提供している。共同創業者の1人でCPO(最高プロダクト責任者)のGaurav Bubna氏に、事業概要や将来展望を聞いた。

目次
Grab出身の3人が交通課題解決に立ち上がる
顧客企業は平均14〜18%の効率アップ達成
「場所」に特化したプラットフォームのデファクト目指す

Grab出身の3人が交通課題解決に立ち上がる

―これまでの経験や、Nextbillion.ai創業の経緯をお教えください。

 私はこれまで主に交通と物流の分野で製品開発に携わってきました。私と2人の共同創業者たちは、かつてGrabで働いていました。私たちはGrabにおいて地図やルーティング、配達業務やタクシー業務における問題の解決に取り組んでいました。Grabは、非常に早い段階で成功を収め、私たちも多くの経験を積むことができました。しかし、私たちが取り組んでいた問題は、もっと広範に存在していることも認識しました。そこで、私たちは自分たちの経験を活かし、世界中の交通と物流会社のためにプラットフォームを構築することにしたのです。

 3人の共同創業者は、それぞれ異なる役割を担っています。私は主にプロダクトと会社の戦略全般を担当しています。1人は技術面を担当し、もう1人はビジネス全般を担当している状況です。

Gaurav Bubna
Co-Founder & CPO
インド工科大学ボンベイ校でコンピューターサイエンスを専攻。2009年に卒業後はMorgan Stanley、ZLemma(Hiredが買収)など米国企業で勤務。2016年にはインドに戻り配車サービスOlaでプロダクトチームを率いる。2017年には同じく配車サービスのGrabに移る。2020年にGrab出身のAjay Bulusu氏(COO)とShaolin Zheng氏(CTO)とともにNextbillion.aiを創業した。

―提供されているプロダクトの概要をお教えいただけますか。

 私たちの仕事を簡単に言えば、サプライチェーンと交通のラストマイルにおけるルーティングの支援です。私たちのプロダクトは、基本的に交通やサプライチェーンの企業を対象としています。荷物の追跡やルーティングの問題解決を支援しているのです。例えば、ピザ、小包、人などを輸送または配達している場合、私たちのブロダクトが役立ちます。

 私たちは主にAPIを提供しており、これにより顧客は既存のシステムに統合して活用します。大企業は多くの場合、過去に購入した異なるソフトウェアを既に持っていることが多く、新たなソフトウェアを購入したくないことが多いです。私たちのAPIは非常に使いやすく、さまざまなシステムにも統合できます。料金体系はAPIの使用料に応じたものとなっていて、使った分だけのお支払いになります。

 主要プロダクトの1つが、ルート最適化APIです。例えば、10台のトラックと100個の配送品があり、それぞれにさまざまな制約があるなど、条件を指定すると、その情報をもとに配達計画を作成します。例えば、あるトラックには特定の重量制限があり、別のトラックの運転手は午前9時から午後3時までしか運転できない、または化学物質を輸送する場合は住宅地や公園の近くを通れないなどの規制があるとします。これらの条件をAPIに入力すると、APIは「この順序でこれらの荷物をこのトラックに載せると良い」というような配達計画を生成します。この方法で、顧客の期待やすべての制約を満たしつつ、最も低コストで運営することができます。

―競合にはどのような企業がありますか。

 この業界は大きいため、多くの異なる競合他社が存在します。例えばGoogle Mapsは、私たちの最も直接的な競合です。Google Mapsは私たちと似たようなプロダクトを提供しています。ご存知の通り、Googleは巨大な企業であり、良いプロダクトを提供しています。その一方で、ソリューションの導入やカスタマイズに柔軟性が欠けていることがあります。そのため、Google製品から私たちの製品に切り替える顧客もいます。Google Mapsは規模が非常に大きいため、個別の要件について柔軟性のある対応が難しいのです。

image: Nextbillion.ai HP

顧客企業は平均14〜18%の効率アップ達成

―プロダクトの利用状況について教えてください。

 弊社は2020年にスタートし、ほとんどのスタートアップと同じように、最初の2、3年はさまざまな試行錯誤を繰り返していました。プロダクトが完成したのは、2023年の初頭です。現在、私たちの顧客は世界中に100社以上いますが、特に重点を置いている地域は北米と、私たちの拠点であるシンガポールを含むインドや東南アジアです。割合としては北米が60%、インド・東南アジアが40%となっています。

 プロダクト開発中には新型コロナウイルスのパンデミックがあり、特に交通や物流の分野では大きな影響がありました。多くの混乱が発生したものの、その結果として大きな成長を遂げました。多くの人々がデジタル技術をより利用するようになったのです。全体的に見れば、新型コロナはプラスの影響をもたらしたとも捉えることができます。現在、交通やサプライチェーン技術への投資が増加していることからも明らかです。

 そして、私たちは2024年には前年の3倍の成長を見込んでいます。今、私たちは市場における自分たちの立ち位置を見つけたと言えます。いわゆるプロダクトマーケットフィットを達成し、顧客は私たちの提供するサービスを高く評価しています。

―ユーザーの成功事例を教えていただけますか。

 最もよく知られている事例は、米国の物流会社UPSです。彼らは私たちの顧客であり、時間に敏感な配送を担当するビジネスユニットで、配送計画を立てる際に私たちのサービスを利用しています。例えば、輸送が必要な医療用品などです。このビジネスユニットは、効率を大幅に向上させたため、今後、他の小売顧客を対象としたビジネスユニットも私たちのサービスを利用し始める予定となっています。彼らは私たちが進めるAPIアプローチを非常に気に入っており、配送の効率が向上しています。アジアではインドネシアのスーパーアプリ「Gojek」のケースがあります。彼らは私たちのサービスを利用して、到着予定時刻(ETA)と地図データの改善を図っています。

 通常、私たちの顧客は平均して14〜18%の効率アップを達成しています。これは平均的な数値であり、より大きな成果を得る顧客もいれば、やや少ない場合もあります。特に大企業の場合、数百万ドルを費やしているため、数パーセントの改善でも大きな影響となります。顧客は、私たちと協力した後、非常に満足しています。

 なお、私たちは直接販売も行っていますが、リセラーパートナーやSIパートナーと共にプロダクトを提供しています。たとえば、日本ではAccentureと協力して、コカ・コーラのボトリング部門のサプライチェーンを改善した実績があります。

「場所」に特化したプラットフォームのデファクト目指す

―日本市場でビジネスを拡大していくために、どのようなパートナーを求めていますか。

 私たちは日本語を話せませんし、現時点では製品もすべて英語対応です。しかし、日本は有望な機会があると考えており、適切なパートナーや投資家を見つければ、日本進出の本格化を検討したいと思います。今すぐか、来年、あるいはその次の年になるかは分かりませんが、日本市場は非常に興味深いものになると確信しています。求めるパートナーとしては、投資家やリセラー、システムインテグレーターなどですね。

―次のステップとして、どのような目標を設定し、どんな課題があると感じているのでしょうか。

 現在、私たちにとって大きな目標は、フォーチュン500企業の顧客をより多く獲得することです。もう1つの重要な目標は、パートナーやリセラーのネットワークを構築することです。これら2つの目標が、今後1年から1年半の間に強く注力していくことです。課題は、もっと多くの人々に私たちの存在を知ってもらうことです。

 大企業は、スタートアップのプロダクトを使うことにリスクを感じる場合もあります。そこで、適切な投資家や戦略的なパートナーを見つけることが重要だと考えています。これらの投資家やパートナーは、既存の大企業との関係から私たちを支援していただける方達です。私たちの製品が効果的であること、素晴らしい顧客がいること、適切なパートナーや投資家がいることを示すことで、大企業が私たちのプロダクトに安心感を持ってもらうことができます。

―御社のプロダクトは、労働力不足の問題解決に加え持続可能性に貢献すると考えています。長期ビジョンについて教えてください。

 多くの顧客が持続可能性に関する取り組みを行っていますが、私たちのプロダクトはその取り組みを完全にサポートします。労働力不足に対応し、利益を改善し、エネルギー消費を削減し、炭素排出を減らすことができるため、ビジネス目標とともに持続可能性に貢献することができます。

 長期的に、私たちはビジネスや日常生活でますます多くのテクノロジーを使用していくでしょう。デジタルが物理的な世界と交わる機会が増える中で、物理的な世界が関与する場合には「場所」の概念が重要になります。例えば、物をどこかに輸送する場合や、自分自身がどこかに行く場合、自動運転車両やスマートシティなどの未来の技術にも「場所」の概念が重要となります。

 私たちは、場所の技術において、AWS(Amazon Web Services)やGoogle Cloud Platformのような基盤になれると感じています。それが私たちの長期的なビジョンです。最終的には、輸送や交通だけでなく、場所に関連するあらゆるプログラムやスマートシティに対応できる存在になりたいと考えているのです。

 私たちは多くの日本企業にとって素晴らしいパートナーになれると考えています。私自身、以前にGrabで日本の投資家と協力し、いくつかの取引に携わった経験があります。実は、私が位置情報技術の世界に足を踏み入れたきっかけは、ずいぶん前に日本で参加したカンファレンスからでした。私たちは日本企業の素晴らしいパートナーになれると思いますので、ぜひ今後の機会を探っていきたいです。



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