フードテック先進国のシンガポールで、食肉と代替肉のエキスパートが創業
肉の代わりに植物由来のタンパク質製品を提供するフードテック企業が注目を集めている。Next Gen Foodsは、2020年にシンガポールで創業。同社の主力製品は、鶏肉の代替となる「TiNDLE」で、大豆、小麦、ヒマワリ油、オート麦繊維など植物原料をベースとして独自のブレンドを施した製品だ。
創業間もないが、すでにシンガポール、香港、マカオ、アブダビ、クアラルンプールなどのレストランでさまざまな料理として提供されている実績がある。2022年2月にはシリーズAラウンドで1億ドル(約130億円)を調達し、現在はアメリカ・シカゴにも拠点を構え、4月にイギリス、5月にドイツにも進出するなど急速にグローバル展開を進めている。
Menezes氏はブラジルで生まれ、学生時代から起業してきた経験を持つ。12歳で自動車ディーラーのウェブサイト作成を手掛け、大学では機械工学を学び、建機レンタル会社を起業。その企業は現在自身の父に経営を委ねている。大学卒業後、2013年には食肉・食品加工や輸出を手掛けるBRF(ブラジル・フーズ)に入社。ブラジルでサプライチェーン全般を担当したあと、BRFがシンガポールに展開した子会社Country Foodsに移る。
シンガポールでは食肉をスーパーマーケットや航空会社、ケータリング、レストランなど、市場流通のあらゆる顧客に販売する業務を担当した。こうして食品業界で多くの経験を積む中、植物由来食品という新たな分野の事業に着目する。
「私は、この新しいカテゴリーの食品開発に情熱を持ち、さまざまな人々とのつながりを築き始めました。2018年ごろには、少なくともシンガポールでは、第一人者として知られるようになりました。そして、同じような経験と考えを持つ、Timo Recker氏とNext Gen Foodsを起業しました」
Timo Recker氏は、植物由来肉を提供する独LikeMeat社の創業者で、2020年に同社を売却したのちにMenezes氏とNext Gen Foodsをシンガポールで創業した。
シンガポールには、植物由来の代替肉を開発・提供する企業は多く、研究や投資、工場、コミュニティなどさまざまなサポート体制が発展している。その理由についてMenezes氏は次のように説明した。
「ご存知だと思いますが、シンガポールは国土面積が非常に限られています。小さな国土に560万人が住んでおり、食料の93%を輸入しています。自立した持続可能な食の国になるために、2030年までに自給率30%にするというアグレッシブな目標を掲げています。しかし、土地がないため、牛や鶏を生産することができません。そこで、食品テクノロジーはシンガポールにとって大きなトピックとなっているのです」
Image: Next Gen Foods
競合はリアルな鶏肉―消費者と料理人のニーズを忠実に再現する
Menezes氏は、TiNDLEの競合は「本物の鶏肉」と答えた。TiNDLEは、フライドチキンやナゲット、チキンカツ、焼き鳥、唐揚げ、ケバブ、サテー、餃子など、さまざまな鶏料理に利用できる。本物の鶏肉と同様、多様な調理法が可能であり、他の代替肉と比べる必要がないという。開発の際にMenezes氏は、料理を食べる消費者とそれを作るシェフのニーズを研究したという。
そこから分かった3つの要素を満たすべく、これまでの経験と技術で製品を作りあげた。1つ目は鶏の繊維質による食感、2つ目は鶏の脂の風味、そして3つ目は、どんな料理にも使える汎用性だ。
Next Gen Foodsは創業から約2年の間に、シンガポールや香港などの東アジアから中東、欧米へとTiNDLEの提供を拡大している。急成長の理由には、自社工場を持たずにサプライチェーンを構築するビジネスモデルがあった。
「私たちは工場やトラックを持たず、身軽な状態で、各地でパートナーシップを結んで事業を展開しています。製品を作るための原材料とそのサプライヤーを開拓し、製造プロセスを開発します。そして、ブランドの情報発信で成長を促します。世界各地で商品化を可能にするため、知的財産に焦点を当てているのです。AppleがiPhoneを設計して、Foxconnが製造する関係に似ています。基本的に、世界のほぼどこにでも供給することができるのです」
Image: Next Gen Foods
鶏肉の代替でグローバルに展開を遂げたのち、複数のカテゴリーを展開
ビジネスモデルに加え、世界中が人口増加や気候変動などに伴う食品提供の持続可能性に注意を払うようになっていることも成長を後押ししている。
Menezes氏は「チキンの代わりにTiNDLEを使うことで節水できますし、温室効果ガスの排出量も8分の1に抑えられます。持続可能性の観点からも非常に優れています。私たちはこの商品を浸透させるためにビジネスモデル、製品、市場投入戦略、コミュニケーションなどについてあらゆる努力を重ねてきたのです」と付け加えた。調達した資金も製品開発とブランド浸透に利用していく計画だ。
2022年は北米、ヨーロッパを中心に事業を展開するが、将来的に日本市場も視野に入れている。現在は流通事業者やレストランとの提携を模索している段階で、日本でTiNDLEの料理を本格的に提供する店舗はまだないが、日本向けの製品のサンプルを準備している。日本への参入の際も、食品を扱う会社や外食産業、コンビニエンスストアといった流通・販売チャネルに加えて、製造会社とのパートナーシップを求めていく。
Image: Next Gen Foods
なお、Next Gen FoodsにとってTiNDLEは鶏肉の代替ブランドの一つであり、将来的にはその他の肉の代替品の開発も行っていく計画だ。TiNDLEで培った味覚や食感、製造に関する基本的な技術は、ほかにも転用でき、肉だけでなく、シーフードにも応用可能だという。現在はTiNDLEのビジネスにフォーカスしながら、いくつかのプロトタイプ開発に着手していく。
同社は2023年までにグローバルなポジションを獲得し、2024年以降に別のカテゴリの製品の展開を始める予定だ。2030年には世界の鶏肉消費のおよそ80%を占める国と地域で、複数のブランドとカテゴリーを提供し、スーパーマーケット、コンビニエンスストア、レストランにも進出していく計画を描いている。
Menezes氏は、TiNDLEは日本料理である、焼き鳥や唐揚げ、照焼きチキンなどにも利用できるとし、日本市場参入に関して次のメッセージを寄せた。
「日本は世界最大のチキン市場の1つであり、非常に意義のあるビジネスを展開するために、ぜひとも参入したい国です。ディストリビューター、メーカー、レストラン、ケータリングなど、TiNDLEの日本での展開にご協力いただける方がいらっしゃったら、ぜひご連絡ください」