ハイテク企業のVPが「きのこテック」に一目惚れした理由
――事業の概要についてまず教えてください。
Myco Technologyは、発酵技術を利用して新しい原材料を作る食品加工プラットフォームを開発し、B2Bで展開しています。もちろん発酵技術は昔からありますが、従来の酵母といったシンプルなものではなく、きのこの根の部分、菌糸体を使用しています。
私たちのプラットフォームを説明するため、当社のタンパク質製品を紹介しましょう。当社は、えんどう豆タンパク質と米タンパク質をブレンドして、9つの必須アミノ酸全てが正しい比率で含まれるような完全なタンパク質を作りました。ただ、実はこのタンパク質は味やにおいがひどいのです。そのため、食品会社ならば砂糖や塩、油脂といったマスキング材料を加えて、この味を隠そうとするでしょう。
私たちは、きのこの菌糸体を使ってこの問題を解決しています。きのこの菌糸体とこのタンパク質を一緒に発酵させると、不快な風味の一部が取り除かれ、結果的に消化もよくなることを発見しました。ひどい味やにおいを取り除き機能的にすることで、健康に悪いと言われる砂糖や塩、油脂の使用量を減らすことができるのです。
――創業のきっかけはを教えてください。
Myco Technologyは2013年の創業です。それ以前、私はもともとシリコンバレーのハイテク企業でキャリアを積んでいて、サイバーセキュリティや多要素認証といった分野に関わっていました。ある時、友人がコロラド州デンバーに、見に来てほしいものがあると電話をかけてきたのです。
その友人は知り合いの科学者らが開発していた技術への投資を検討していました。「ハイテクではないけど、きのこテックだよ」と教えてもらい、面白そうだと思ったので見に行きました。そこでその技術や風味に一目惚れしてしまったのです。
個人的な理由として、私はその3年ほど前に二型糖尿病の診断を受けていて、自分が食に関して知っていたことは正確ではなかったと気付き、改善に取り組んでいました。講座を受けたり、ライフスタイルを変えたり、体重を30ポンド落としたりして薬に頼らなくなりました。医者から「おいしいものは食べてはいけない、味が悪ければ食べてください」と言われました。ですが、この発酵で作られた食材を食べた時、ひどい味がするかと思ったらとてもおいしく感じられたのです。
このような経験から、私はぜひ参加するとCEOを引き受け、会社は2013年3月に設立されました。資金調達を担って9年間で約2億3000万ドルを調達できました。
Image: Myco Technology
マルチに応用可能なパウダー 苦みや酸味、渋みをブロック
――製品について詳しく教えてください。
健康でサステナブルな食品をどのように量産するかという目的の下、当社のプラットフォームは複数の製品を開発しました。
1つ目は「ClearIQ」です。世界で最も貴重なきのこの1つである冬虫夏草から作られています。私たちは冬虫夏草を育て、分泌された液体を採取します。ビールのような黄金色をしており、そこから液体の部分を除いて固体として残ったものがClearIQとなります。
食品や飲料の味を改善するため、苦みや酸味、渋み、金属っぽい味などを取り除く目的で添加されます。ClearIQを使えば、風味を変えるのに、より少ない糖分、塩分、油分で済むのです。パウダー状で、植物由来食品からチョコレートまで何にでも加えることができます。日本を含む世界100カ国以上で既に販売されています。
また、「FermentIQ」と呼ばれる製品は、先ほどのえんどう豆タンパク質と米タンパク質を混合して発酵したもので、肉や乳製品の代替食品として植物由来のプロテインとして機能します。代替肉に非常に向いていて、ひき肉のような触感を生み出すこともできます。代替乳製品市場にも大きな参入の余地があることに気付き、発酵を加えたえんどう豆タンパク質のみを使ってより喉越しがスムーズなものも作りました。それをヨーグルトやアイスクリーム、チーズなどの乳製品に応用してみました。
すると驚くことが分かりました。チーズに関して言えば、保存可能期間をテストした際、従来の3カ月から14カ月にまで保存期間が延びたのです。防腐剤などの保存料を使わずに保存可能期間を伸ばせることは食品業界にとって大きな変革になると思います。
Image: Myco Technology
日本では味の素と提携 60もの特許を持って各国市場に参入
――フードテックにおいて競合他社は多いと思いますが、御社はどのような立場をとっていますか。競合とどう差別化していますか。
競合を競合とは見ていません。統計にもよりますが、世界人口は増え続けており、2040年、2050年までには世界人口は100億人になっている可能性があります。動物由来や植物由来、培養肉などさまざまなソースからプロテインが必要になりますし、より多くの食品が必要になるということです。ですので、勝ち負けではなく、これから増加していく人口をどう食べさせていくか、私たちはその選択肢を増やしていると考えています。
――2020年の新型コロナウイルスのパンデミック中を含め、創業からこれまでの9年間を振り返っていかがですか。
9年間でいろいろありましたが、やはり特許が承認されたり、R&Dでブレイクスルーがあると嬉しいものです。これまでに60もの特許を取得していて、非常に強固な知的財産を有していると思います。開発したものが成功するのを祝うことは嬉しいですね。
コロナ禍で残念だったのは、レストラン産業や食品店の経営難でイノベーションに歯止めがかかったことです。回復まで1年半ほど試練の道がありました。
―ー2022年3月に行われたシリーズEで8500万ドル(約108億円)を調達し、これまでの資金調達総額は2億ドル(約254億円)以上に上ります。新たな資金の使い道はどのようにお考えでしょうか。
グローバル展開を広げていきます。今は主に欧州とアジアに注力していて、つい先日もプロテイン製品に関して欧州の規制承認が降りたところです。日本でも既に規制承認を受けていますよ。日本国内では、味の素と提携しています。もうすぐ他の提携についても発表する予定です。日本は私たちが力を入れているマーケットの1つです。
―ー今後の目標を教えてください。
今のところは、ClearIQとFermentIQの両製品で、なるべく多くの国での規制に対する承認を受けることが目標です。各国でどのような規制や基準があるのかに対して調査や取り組みを進めており、毎月2-3カ国で承認が降りています。それと同時に、各国での販売を担う代理店との提携を進めていきます。カスタマーエンゲージメントへの支援として当社の製品をどう食品に活用していくかなども伝えながら、より多くの国で存在感を高めるべく努力をしていきます。