世の中のインフラストラクチャーは、ピーク時に対応できるように構築されているため、それ以外の平時には、空きスペースが存在する。Mutableはインフラストラクチャーの所有者にとっては、空きスペースの有効活用となり、アプリケーション開発者とエンドカスタマーにとってはサービスの質の向上となる、クラウドサービスの提供と、エッジコンピューティングの実現を目指すスタートアップだ。今回は、Founder & CEOのAntonio Pellegrino氏に話を聞いた。

ハード、ソフト、ビジネスに精通したコーダーによる新しいサービス

―まずはCEOの経歴と、Mutable設立の経緯を教えていただけますか。

 私は、高校時代よりロボットを作り、プログラミングを使っていました。eスポーツが流行する以前に、配信型のオンラインゲーム会社を設立し、次にライブイベントのブロードキャスト会社を設立しました。新しいアイデアに力を与えるテクノロジーに夢中になりながら、NYUでコーディングの知識とそれをビジネスに活用する方法も学びました。そして、自分がライブストリーミング用に開発した技術が、多くの企業に適用できる、企業が必要としている技術だということに気づいたのです。

 Mutableを設立する前は、技術的に非常に優れた2人のコーダーと一緒に、私たちが、クラウドインフラストラクチャーのスケーリングや管理などの“重労働”を担い、専門知識がない開発者でも、次世代アプリケーションを構築できるシステムを構築していました。しかし、実際に自動車向けのワイヤレス充電器の開発に関わるようになったとき、本当に必要とされているのは、サーバの「Airbnb」サービスだと気づき、その構築に移行し、Mutableを設立しました。

 サーバの「Airbnb」サービスとは、例えば「このアプリケーションを、このCPUで、これだけのメモリを使い、これだけ低遅延で実行したい」とご依頼いただければ、実現するために必要で実際に利用可能なインフラストラクチャーを自動的に構想し、利用した分だけ料金が発生するサービスです。

Antonio Pellegrino
Mutable
Founder & CEO
2007年に、配信型のオンラインゲーム会社を設立しCEOに就任。2011年にライブイベントのブロードキャスト会社を設立しCEOに就任。2012年に、NYU Tandon School of Engineeringにて、Business & Technology Managementの学位を取得。2017年までに2社のスタートアップを設立した後、Mutableを設立しCEOに就任。

空きスペースを巨大なクラウドとして活用

―御社のサービスについて、より詳しく教えていただけますか。

 私たちは、エンドカスタマー、アプリケーションの開発者または会社、そして、インフラストラクチャーを持つ供給事業者、この3つの異なるプレーヤをカバーするクエストを作りました。今までとは異なるエコシステムです。

 エンドカスタマーは、最高品質のエクスペリエンスを常に求めています。そして、アプリケーションの開発者や会社は、お客様に対して、より良いエクスペリエンスを提供するアプリケーションの構築を担っています。ケーブルテレビや電話会社、そしてZoomなどのサービス供給事業者は、世界中に大量のインフラストラクチャー(サーバー)を持っています。彼らのインフラストラクチャーは、ピーク時に対応できるキャパシティを維持しているため、平常時は、5から20%程度しか使用されていません。余っているリソースの空きスペースを全て取り込み、包括的なクラウドを構成できれば、供給事業者にとっては、新たな収入を得ながら、エンドカスタマーに対するサービスの質を向上することにもなります。

 例えば、現在のセキュリティソリューションは、物理的なボックスをデータセンター内に設置し、後は手作業で管理します。しかし、もし、インターネットを提供しているケーブルテレビまたは電話会社の、ファイヤーウォールや、セキュリティプロトコルの中でクラウドを実行できれば、インターネットに到達しないため、セキュリティ上の懸念はなくなります。また、ケーブルテレビや電話会社は、エンドカスタマーに近い場所にインフラストラクチャーを持っているので、エッジコンピューティングにも適応できます。

 当社は、ケーブルテレビおよび電話会社や、その他企業などの供給事業者と提携し、独自のROS(Robot Operating System)とプラットフォームを用いて、供給事業者のインフラストラクチャーに優先順位を付け、クラウド環境に変えています。アプリケーションの開発者や会社は、1秒あたりのCPU使用量、メモリ使用量、GPU使用量などを指定し、実際の使用量に応じた料金を支払います。

 当社が、どこのインフラストラクチャーをどのくらい使用したかなどを全て記録し、供給事業者に対しても、使った分をお支払いしています。

最大の目的は、サーバの所有権にとらわれないユビキタスなコンピューティングの実現

―日本の読者にメッセージをお願いいたします。

 VR、ドローンや自動運転など、全ての未来的な技術に対応する環境の整備が始まっていますし、現状ではオンライン学習や遠隔医療などの必要性が高まり、これらのサービスの提供に対応する新しいインフラストラクチャーが求められています。

 当社の最大の目標は、異なるプレーヤの皆さんと団結し、人々が必要とするインフラストラクチャーをセットで、より早くご提供できるようにすることです。

 今は、カナダを含めた北米エリアでの展開に全力を注いでいますが、今後、他地域に進出する場合は、地域ごとのルールを学ぶ必要があると考えています。もし、日本市場に参入するのであれば、まずは私たちが日本独自の文化を学びたいと思います。



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