米国美容市場のEC化率はたった10%
――データサイエンスの世界から、全く別業界である美容分野で起業した経緯を教えてもらえますか?
Mira Beautyを設立する前は、自分の立ち上げた会社やPalantirでビッグデータ分析に携わっていました。その中で、例えばコンビニ業界では顧客データの活用が非常に進んでいましたが、美容業界では顧客データの分析はほぼ行われていなかった。美容業界での意思決定は、 “芸術的方向性”と“美的直感”に基づいて行われていると気づいたんです。
また、美容製品に関する情報は、ブログやYouTubeなどで見ることはできますが、膨大な情報がバラバラに散らばっていました。消費者が本当に知りたい情報を見つけることは、かなり難しくなっていたんです。
さらに業界について深く調べたところ、米国では美容製品のオンライン販売は、市場全体のわずか10%しかないことがわかりました。これは、美容業界の大手企業や大手販売店が、eコマースでの販売に注力していなかったためでした。美容製品自体はオンライン販売に向いていますので、大きなチャンスがある。そう考え、参入を決めました。
最初は「自分の目の形に合ったアイメイクのチュートリアル動画を見つけられない」と言っていた私の友人向けに、ビデオデモを作成しました。友人はそのビデオデモを非常に気に入り、欲しい機能などのフィードバックをくれました。そして、ここからより深く消費者のニーズと売る側の問題についてリサーチを行い、現在のプラットフォームを構築しました。
3000以上のブランド、10万点を取り扱う美容製品プラットフォーム
――美容業界では、AI主導のプラットフォームは少ないと思います。それ以外にも他社との差別化となる機能があれば教えてもらえますか?
当社のプラットフォームは、美容製品に特化したAmazonのようなマーケットプレイスであり、ある意味では美容業界のNetflixでもあると考えています。ユーザーが見たいものを選んで見ることができるプラットフォームで、オンライン上にある全てのコンテンツの中から、そのユーザーが見たかった、欲しかった情報を見つけ出し提供します。
Image: Mira Beauty HP
Mira Beautyは、3000以上のブランドから10万点以上の製品を取り扱い、毎週何百万人もの購買者に提案しています。ユーザーは、自分の肌の色や肌タイプ、好きな製品のタイプなどを指定します。それに過去に閲覧した製品の情報もひもづけて、一人ひとりに合わせたプロフィールを作り、“最適化した情報”を提供しています。
“最適化した情報”とは、美容関係の動画約300万本、画像1000万枚、そして、レビュー約1500万件など、世界中の情報を対象に、AI主導で、映っている女性の肌や髪の色、製品に対する感想や他の人のレビュー内容の分析を行い、ユーザーのプロフィールに最も適した、必要があれば翻訳も行われている情報のことです。
そして、将来的には、今以上にピンポイントで、それぞれのユーザーに最適化した情報を提案できるようにしていきたいと考えています。
また、メーカーなどとパートナシップを結び、ユーザーの販売行動などをデータから読み取るサービスも提供しています。例えば、どの製品ページにアクセスが集中しているかなど、データに基づいた販売販促活動の提案や、製品サンプルを預かり、最も購買に繋がりそうな消費者に届けるなど、様々な形で企業を支援しています。
今後10年間は米国市場で事業を拡げる
――今後の目標として日本市場での展開も視野に入っていますか?
現在は米国内に限定し販売を行っています。美容分野では、米国の消費者は日本の消費者ほど関心が高くないかもしれませんが、今後10年間は米国市場だけで十分事業を拡大していけると見込んでいます。
私は、高校の交換留学プログラムで、日本に留学したことがありますし、前職で日本に赴任していたこともあり、個人的には日本を第二の故郷のように感じています。
また、日本では美容製品のオンライン購入はかなり定着していますので、日本市場で展開する機会を得たいと考えてはいます。しかし、日本を含めて海外で成功するためには、翻訳だけでなく、情報の表示方法、インタラクションのパターン、カスタマーサービスなど、それぞれの国のユーザーが持つ期待値を満たす必要があります。日本の消費者が期待している基準を満たすためには、かなりの努力が必要になることを理解していますし、私たちは、サービスや製品の質を下げたくありませんので、日本市場での展開はまだ先になるでしょう。