Micro Connectの強みは徹底したデジタル化により、「ローリスク」で投資家・事業家双方のメリットを実現している点にある。2010年から10年間、香港証券取引所(HKEX)の最高責任者を務めた後、2021年に同社を創業したChairmanのCharles Li(李小加)氏に話を聞いた。
GDPの約60%を占める中国のスモールビジネス
――御社はどんなサービスを展開しているのですか?
Micro Connectは、中国のスモールビジネスとグローバル投資家をつなげるプラットフォームを運営しています。中国経済が目覚ましい成長を遂げてきたことは周知の事実ですが、そのなかでも、最もポテンシャルがあるのは飲食店や小売店、専門店といったフランチャイズのスモールビジネスであり、彼らが当社の投資対象でもあります。
実際に、中国経済のスモールビジネスは、GDPにして約10兆ドル規模の市場規模があり、中国全体のGDPの約60%を占めるとされています(State Administration for Market Regulation, PRC State Council, Research, 2021調べ)。
そんな巨大なマーケットである、これらの中小零細企業がなぜ投資対象として魅力的かというと、中国では決済のデジタル化が進んでいて、多くの企業において経営成績の透明化が進んでいるからです。さらに、ECが中国では他の先進国よりも一般化しているという事情もあります。つまり、投資家にとっては、投資判断がしやすいというメリットがあるのです。
Micro Connectという投資プラットフォームは、従来の「ウォールストリート型」とも呼べる、「上場企業」だけに投資できる市場とは考え方、運営手法ともに全く異なります。「ウォールストリート型」は、主に上場企業を対象にした投資ですので、参入障壁が高く、株式・負債による資金調達に関わらず、一度に多額の投資を必要とします。つまり、投資家・事業家双方にとって大変リスクが高い手法となっています。
Micro Connectが採用する投資方法は上記とは、異なります。投資家は、Micro Connectを通して中国のスモールビジネスに投資をし、事業者は「毎日」売上の数%分、投資家に返済します。投資家と当社の間で投資前に決めた金額の投資回収が実現すれば、投資家はそこで撤退する、という非常にシンプルな投資モデルになっています。事業者が投資家に返済する金額は少額なので、送金も当社のシステムを用いて自動で行っています。さらに、①投資家は50%以上の株式を所有しないこと、②事業者と投資家は投資金額と回収期間を自在に決められるなど、双方にとってリスクが低いことも特徴です。
事業者・投資家双方に「メリット」が大きいプラットフォーム
――御社が対象としている投資先の特徴を教えてください。
当社のプラットフォームが対象としているのは、約1300社の中国のスモールビジネス、それも「チェーンストア」です。飲食店や食品小売業、ジムやレストラン、カフェなどの店舗ビジネスを行う地元企業ですね。
中国ではチェーンストアビジネスが盛んで、多店舗展開や新店オープンに必須である「資本的支出(Capital Expenditure)」を喉から手が出るほど欲している事業者がたくさんいます。しかし、それには金融機関からの融資が必要で、二の足を踏んでいる事業者も多いのです。Micro Connectは彼らのキャッシュフローを精査した上で、投資の是非の判断を行います。事業者側からすれば、多店舗展開に必要な資金を借り、新店展開の設備投資を行いながら、既存店で売上を伸ばす、というビジネスの王道を歩むことができるようになります。
投資家サイドも、「毎日」返済を確認できるというキャッシュフローの良さを評価しています。毎日の返金金額を見るとことができ、送金も自動で行われるので安心なのです。中国におけるフランチャイズの店舗数は約4000万店と星の数ほどあり、ビジネスのライフサイクルも5年以下と短いのも特徴です。中国は広く、地方によってウケる味やサービスも違いますし、なにより10億人が住んでいますので、それだけ競争も激しいのです。
Micro Connectは、投資家にとってベストな「エクジット」のタイミングを投資前にお伝えしています。そのため、低リスクでありながら、着実にリターンを得ることができるのです。また、先ほどお話した通り、投資の回収期間を事前に決められるのも心強いでしょう。このように、Micro Connectは、成長を続ける中国経済にピッタリとはまった、事業者と投資家、双方にとってメリットが大きい投資プラットフォームだと確信しています。
すでに、Micro Connectは135社・1万3000のチェーン店事業者と契約を結んでいて、来年には中国国内1万7000店を網羅できる予定です。現在も約960社との交渉に入っていますので、近い将来500~800社に投資したいと考えています。
Image : Micro Connect HP
創業のいきさつは、金融市場に対する「カウンター」
――Micro Connect を創業した経緯を教えてください。
私は2010年から2020年12月まで、香港証券取引所(HKEX)で最高責任者を務めていました。それ以前にはJPモルガンやメリルリンチの中国法人のリーダーだったこともあり、伝統的な金融業をよく知っています。約30年間の金融機関での経験を通して痛感したのは、近年はマーケットそのものが「ゲーム」の対象になり、実体経済と著しく乖離してきているという事実でした。
世界の上場企業約1万5000社に投資が集中し、何兆ドルもの資金が行き交う現在の状況を見ればよく分かることかと思います。さらに、ボラティリティが異常に大きいことも問題でした。マーケットが投機の対象になっているという事実もさることながら、投資家には集団心理が働くので、株式が大きく変動するのはある意味、仕方のないことでもあります。
上場企業を対象とした株式投資市場のボラティリティが大きいのとは対照的に、中国で日々消費者・顧客にサービスを提供する飲食店や小売店は外部環境に大きく左右されることがないのと同時に、先ほどお話したように、デジタル化が進むなどお金の流れも透明化してきました。ファンドをはじめとする投資家たちも、発展する中国経済を大きなチャンスだと捉えています。そこで、急成長している中国のコンシューマー・ビジネスに対象を絞った投資プラットフォームをつくろうと考えたのです。
――御社は、Sequoia Capital Chinaなどから累計1億2000万ドルの資金調達に成功しています。資金の使い道を教えてください。
当社は他のスタートアップとは違い、キャッシュは必要としていませんでしたが、人員の拡大や、より広範な顧客基盤構築のために資金を投入しようと考えています。現在、Micro Connectに投資する投資家は東南アジアや北米、中東に存在します。
私は、Micro Connectが海外からの投資を呼び込む上で、唯一の安全なプラットフォームになると確信しています。投資先も実に多様ですし、透明性も非常に高いのです。踏み込んで言えば、ほとんどの投資家は今後、中国国内のコンシューマー・ビジネスへの投資を余儀なくされるでしょう。なぜなら、世界中のどこを見渡しても、このように急速に成長を続ける市場はないからです。
目標は10年間で中国100~200万店舗への投資
――日本市場進出は考えていますか?
少なくとも、私が見ている近い将来にはないと考えています。というのも、日本には中国のようなフランチャイズビジネスのブルーオーシャンが少ないためです。さらに、日本では多くの小売業が大手の傘下にいることや、地方においても地元金融機関と良好な関係を築いていることから、Micro Connectのような投資プラットフォームは必要とされていないと感じています。
日本の大企業とのパートナーシップに関してですが、実現可能性は現時点では極めて低いものの、デジタル化を推進できる相手でなければなりません。当社のサービスの特徴の1つでもありますし、事業家も投資家も「すべてをデジタルに」というコンセプトを前提とした使い方をしているからです。アルゴリズムを使って投資先の選定なども行っていますので、デジタルに慣れている相手でなければ難しいでしょう。
――最後に、御社の長期的な目標を教えてください。
むこう10年間で、100~200万店に対して投資できるプラットフォームに成長させていきたいです。多額の投資を呼び込むことで、中国国内に1000万人規模の雇用を創出したいとも考えています。そのためには、海外から兆ドル規模の投資を呼び込む必要があるでしょう。大きな数字に聞こえますが、この成長市場を見ていると、十分達成可能な数字だと考えています。これまでのマーケットとは異なる、投資家・事業者双方の利益創出の実現する「小さな事業者」にとって欠かせない投資プラットフォームであり続けたいですね。