ものづくりの世界では、見えない「内部構造」にこそ製品の精度と安全性が宿る。しかし従来、その可視化には「プライベートジェット並み」に高額なCTスキャナーが必要だった。そんな常識を覆そうとしているのが、米マサチューセッツ州に本社を構えるLumafield。CT技術を「高級セダン並み」の価格に引き下げ、誰もが使える製造ツールに変えつつあり、クラウド型ソフトウエアとの組み合わせで「内部のインサイト」を現場に届けることで、製造業におけるスピードと品質の両立をサポートしている。2025年には日本市場への本格上陸を控える同社の共同創業者でCEOのEduardo Torrealba氏に、彼らの挑戦の本質と日本市場に対する特別な想いを聞いた。

目次
重要なデータは「見えない世界」にある
顧客の9割がCTスキャナー初導入
製薬会社のデバイス開発で果たした役割
日本市場を特別視する「明確な理由」とは?
最も尊敬する企業はキーエンス
今求めているのは「出資」ではなく「ユーザー」

重要なデータは「見えない世界」にある

―まず最初に、御社が取り組んでいる大きな課題について教えてください。

 私たちLumafieldは、現代の製造業が依然として「過去の延長線上」にあることに課題意識を持っています。例えば、現在の製造現場は1950年代、あるいはそれ以前の手法とあまり変わっていない面が多く残っているのです。私たちはそこに変革を起こしたいと考えています。

 半導体業界のような領域では、非常に進んだ仕組みがすでに確立されています。具体的には、設計・製造・テストの各プロセスがソフトウェアで密接につながり、目視では見えないレベルでの「クローズドループ型」のフィードバックが実現されていますよね。

 こうした仕組みは、MEMS(半導体技術と機械部品を組み合わせた微細な機械システム)やチップ設計などではもはや当たり前ですが、射出成形や鋳造、炭素繊維のレイアップ、電子部品の組み立てなど、より一般的な製造業では未だ導入されていません。

 私たちは、そうした「見えない世界」にこそ重要なデータがあると考えています。そこでCTスキャン技術を用いて、製品内部の状態を可視化し、その情報を設計や品質管理にフィードバックすることで、製品開発のスピードを格段に高める仕組みを提供しています。

image : Lumafield HP 発売直後のニンテンドースイッチ2も“丸裸”に

顧客の9割がCTスキャナー初導入

―産業用CTスキャナーというと非常に高額な装置というイメージがありますが、御社はその常識をどう変えようとしているのでしょうか?

 従来のCTスキャナーは、言ってしまえば「科学機器」でした。1台で100万ドル近くするものもあり、専門教育を受けたオペレーターが必要で、ソフトウエアも別途購入しなければならない。これは「プライベートジェット」のようなもので、結果として、企業は1つのラボにしか置けず、複数拠点への導入など夢のまた夢でした。

 私たちが取り組んだのは、それをもっと手頃で現場に近いものにすることです。価格帯としては「高級セダン」程度。CTスキャナーを「工場の品質管理室」や「R&Dセンター」など、実際に設計や試作が行われる場所に直接導入できるようにしました。

 実際、私たちの顧客の約90%は、それまでCTスキャナーを使った経験のなかった企業です。彼らが初めて導入できるほどの価格帯と使いやすさを実現できたことが、私たちの大きな特徴です。

Eduardo Torrealba
Co-founder & CEO
米ベイラー大学で機械工学の学士号、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校で機械工学の修士号を取得。土壌センサーを開発するOso Technologiesを共同創業し、CEOに就任。その後、3Dプリンター企業のFormlabsでDirector of Enginnering、フリーランスなどを経てLumafieldを共同創業、CEOに就任。

―御社はソフトウエアも提供していますよね? それについても教えてください。

 はい。私たちはハードウェアだけでなく、クラウドベースの可視化・分析ソフトウエアも開発しています。

 例えば、スキャンした製品データはすべてクラウド上で処理され、世界中どこからでも、ブラウザを通じて製品内部の構造を詳細に確認することができます。これは、製品開発や品質管理をリモートで行いたい企業にとっても大きな価値になります。

 また、クラウドを活用することで、現場で取得したスキャンデータを本社の開発部門やサプライヤーと即時に共有できるなど、「設計と現場の一体化」が可能になります。今後はさらにAIによる自動検出機能なども拡張していく予定です。

製薬会社のデバイス開発で果たした役割

―導入実績について、具体的な業界や企業の傾向を教えてください。

 私たちの顧客は非常に多岐にわたっています。最も多いのは医療機器メーカーで、全体の約15%を占めます。そのほか、自動車、航空宇宙・防衛、消費財、バッテリー、スポーツ用品など、8つの主要業種がそれぞれ約10%ずつの比率で分布しています。

 Unileverのような消費財メーカーやPUMAのようなスポーツ用品メーカー、世界有数の自動車メーカー、外科用ロボティクス企業なども私たちの顧客です。また、Tier1の自動車部品サプライヤーやOEMにも複数導入していただいています。私たちの技術はB2BでもB2Cでも、ものづくりに関わるあらゆる企業に価値を提供できます。

―印象的な成功事例があれば、ぜひ教えてください。

 つい最近、とても嬉しい知らせがありました。ある製薬会社が、約10年かけて新しい治療薬とその投与デバイスを開発していたのですが、そのデバイス設計の問題解決に私たちのCTスキャナーが大きく貢献したのです。

 製品内部の微細な不具合を可視化し、必要な修正を迅速に行うことができた結果、先週ついにFDA(米食品医薬品局)の認可が下り、販売が開始されました。

 彼らは「Lumafieldがなければ、開発は実現できなかった」と言ってくれました。医療に直接関わる方々が主役であることは間違いありませんが、その裏側で少しでも役に立てたことを、私たちは大変誇りに思っています。

image: Lumafield HP 産業用X線CTスキャナー「Neptune」

日本市場を特別視する「明確な理由」とは?

―御社は今年、日本市場への本格進出を計画しているとのことですが、その背景と狙いを教えてください。

 現在、ある日本企業と独占的販売契約の最終調整を進めており、まもなく正式にパートナーシップが発表できる見込みです。私自身、過去1年間で日本を2度訪れ、現地の企業や財務パートナーとも意見交換を行ってきました。2025年中に、日本での販売を本格的に開始する予定です。

 私たちが日本市場に特別な期待を寄せているのには、明確な理由があります。それは、日本の製造業が持つ「品質と精度への徹底したこだわり」にあります。私が視察した日本の工場では、どこも品質管理が非常に洗練されていて、そこには本物の職人技が息づいていました。

 また、日本には既に複数の産業用CTスキャナーの大手メーカーが存在しており、それ自体が、日本のエンジニアリングの成熟度を物語っています。私たちにとっては、世界最高峰の製造現場と対峙することになるわけで、これは非常にチャレンジングであると同時に、誇りを持てる挑戦でもあります。

最も尊敬する企業はキーエンス

―日本市場の特徴をどう捉えていますか? また、課題やチャンスはどこにあると見ていますか?

 私は、日本企業が「流行に流されない」という点をとても尊敬しています。

 アメリカでは、他社が導入しているからという理由で技術を取り入れるケースもありますが、日本企業は常に「それが本当に価値あるものか」「製品品質を高められるのか」といった本質を見極めたうえで導入を判断します。

 そういった市場であればこそ、私たちが真剣に開発してきた「現場に根ざした製品」が、正当に評価されるチャンスがあると考えています。

 実際、日本の工場を訪れると、私が最も尊敬し、目標とする企業であるキーエンスの機器が必ず設置されていて、日本の品質保証のレベルの高さと革新性に、毎回感銘を受けています。

 ですので、日本は将来的に当社全体の売上に占める比率が、国としてのGDPシェアを超えるような重要市場になる可能性もあると見ています。

―日本企業との提携において、どのような業種・用途での協業を考えていますか?

 まず、医療機器(特に使い捨てタイプの消耗品)との相性は非常に良いと考えています。アメリカ市場ではすでに多くの実績があり、日本でも大きな需要がある分野だと思います。

 次に、バッテリー分野。日本には電池技術に強い企業が多く、ここでも大きな可能性を感じています。さらに、自動車部品、特にTier1サプライヤーやOEM企業との連携も重視しています。

 実際、すでにある日本の大手自動車メーカーとは、米国で取引があり、その関係性を今後も広げていきたいと考えています。

image : Lumafield HP

今求めているのは「出資」ではなく「ユーザー」

―日本企業との関係で、望ましいパートナーシップの形を教えてください。

 今の段階で私たちが最も重視しているのは、出資や共同研究ではなく、「顧客として製品を使ってくれる企業」です。

 私たちは現在、資金面では非常に安定しており、これまでCVCからの出資も受けていません。もちろん、日本にはトヨタやホンダ、川崎重工など、非常に優れたCVCを持つ企業がありますので、長期的には協業を視野に入れています。

 しかし今は、「まず現場で使ってもらう」ことに集中しています。私たちの製品が、工場の設計・検査・生産性にどのように寄与できるかを、実際に現場で感じてもらう。それこそが最も重要なステップだと考えています。

―今後12カ月間でのマイルストーン、そして長期的なビジョンについて教えてください。

 まず近く、「連続フロー型製造システム(Continuous Flow Manufacturing System)」の新製品発表を予定しています。これは大量スループットを前提としたCTスキャンの自動化ソリューションで、既に複数の企業に導入されつつあります。

 加えて、より大型の対象物をスキャンできる装置、さらなる高速化、高解像度化を図る製品群の開発も進めています。

 ソフトウエア面でも、AIを活用した自動異常検知や分析機能の強化に注力しており、これにより「人が目視で確認しなくても、品質問題をリアルタイムで検知できる工場」が現実のものとなります。

 長期的には、製造業における「内部のブラックボックス」をなくし、すべてのものづくりに“透視力”を与えるインフラを築いていきたいと考えています。



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