米国で増加する10代の自殺。自宅に「治療」を届け、患者を救済
―まずはLimbixを設立した目的を教えてください。
近年、メンタルヘルスサービスの需要と必要性が高まっていますが、病院などの医療プロバイダーで治療を受けることができない人々がいます。VRが特定の治療に有効だと言うことはかなり前からわかっていたので、2016年にVRの値段が下がったタイミングでLimbixを設立し、最初のVRキットを作りました。メンタルヘルスサービスを受けることできない患者の救済が当社の目的であり、使命です。それを達成するために、VRやデジタル治療アプリを提供しています。
―Limbixの製品を紹介していただけますか。
現在は、大きく分けて2種類の製品があります。一つは、エクスポージャー療法(主に恐怖症や不安障害などに用いられる行動療法のひとつ)や心理教育(精神障害などの病気を理解し適切な対応や接し方を身につけるための心理教育)などを行う、医療プロバイダー向けのツールで、VRキットです。キットには、医療用素材で作られたワイヤレスのVRヘッドセットとBluetoothでシームレスにヘッドセットとつながるタブレット、充電・収納ができるドッキングステーションの3つを1セットとして販売しています。
病院などの医療プロバイダーでは、複数の患者が使うことが前提なので、衛生面に特に配慮が必要です。当社のヘッドセットは、VRメーカーのPicoと共同開発したもので、ひと拭きで消毒できる作りになっています。また、対象にしている病気の専門家を学術パートナーに迎え素材を作成してもらっています。
もう一つは、現在開発中の自宅で使えるデジタル治療(Digital Therapeutics)アプリ「Limbix Spark」です。これは、思春期のうつ病患者を対象にしています。米国では、10代の自殺が増え、事故死に続いて第2位の死因になっています。これは大きな問題で、解決策が切実に求められている分野です。現在は、うつ病と診断されても、治療を受けるまで順番待ちしなければならず、直ぐに十分な治療を受けることができません。当社は、「Limbix Spark」でこの問題を解決し、思春期のうつ病患者を助けたいと考えています。
「Limbix Spark」は、医療プロバイダー向けに提供しているVRキットとは違い、部分的にVR要素を組み込んだ、スマートフォンベースの製品で、自分で取り組めるプログラムを提供しています。一番大切なのは、患者が治療に対してモチベーションを保てるプログラムを提供することです。VRの活用でモチベーションを保てるのであれば、VRを使いますが、そうでなければ別の方法を使います。今後も、利用者のフィードバックを基に、製品を改善し続けるつもりです。
当社のデジタル療法アプリは、FDAに承認申請をしています。承認を受ければ、医師からアプリを「処方」してもらえるようになり、他社アプリとの差別化になります。
日本進出には、長期的な視野を持った戦略的パートナーが必要
―今後の目標として海外展開も視野に入っていますか。
VRキットは、既に20カ国で使われ、8言語に翻訳されています。バルセロナに拠点があり、ヨーロッパでは導入がかなり進んでいますし、アジアからも引き合いがあります。メンタルヘルス問題は、グローバル問題です。当社は、これからも、グローバルに対応し、ローカルに適応した製品を提供していきたいと考えています。
―もし、日本で御社の製品を展開するとしたら、どのような支援が必要ですか。
そうですね。戦略的投資パートナーが必要だと思います。資金調達は米国内で十分にできてますが、戦略的投資パートナーのために資金調達のラウンドにはいつもゆとりを持たせています。日本市場参入支援など戦略的な支援が望ましいです。日本では、製薬会社がデジタル療法を模索し始めていますね。長期的な視点を持って、日本市場に当社の製品を導入できる日本のパートナーがいいですね。