「インサイダー」だから成功した
―化学メーカーを対象に、原料や素材を販売するマーケットプレイスという事業を始めた理由を教えてください。
化学メーカーは、デジタル技術の導入という点で、他の業界より15〜20年遅れていて、チャンスがあると感じていたからです。私も父も化学業界で長年勤務し、そのことをよく理解しています。マーケットプレイスは他業界でもたくさんあり、競合も当社の事業ドメインに参入しようとしていますが、深い専門知識が求められることから、二の足を踏んでいます。要は、化学系企業が抱えているニーズやサプライヤー同士の関係性など「インサイダー」でなければマーケットプレイスを運営することが難しいのです。ここにチャンスがあると踏んだため、Knowdeを創業しました。
―Knowdeのマーケットプレイスには、どのような特徴があるのでしょう。
Knowdeは従来のいわゆる「マーケットプレイス」とは少し趣旨が異なります。というのは、例えばAmazonのように、手数料無料やカスタマーレビューといった一般消費者向けの形式を当社は採用していないからです。
当社の強みは「化学業界に特化したサービス」である点にあります。サービスの利用者数は約8,000社に上り、売り手企業である化学メーカーのBASF、DuPont、買い手企業である日用品メーカーのUnileverやP&G、あるいは穀物メジャーのCargillなど世界的な企業が名を連ねます。買い手企業は適切な素材をすぐに購入できますし、売り手企業は新たな見込み顧客を発掘できます。化学メーカーの成長のためのプラットフォーム、という色彩が強いのです。他にも、サプライヤーと直接素材について話せたり、サンプルをオーダーしたりすることも可能で、化学メーカーの業務効率を高める様々な仕掛けを施しています。
われわれが多くの顧客を抱えていることから分かるように、化学業界はKnowdeのようなサービスの誕生を待望していました。これまで対面で面会し、見積もりを頼み、業界の中のパワーバランスを考慮して、という非効率的で因習的な商習慣とおさらばできるのですから、顧客にとってもKnowdeの存在意義は大きいのでしょう。
image: Knowde
Unileverも太鼓判を押すサービス
―化学業界は、他業界と比較すると、フロント・エンド、つまり営業やマーケティングといった側面が遅れていたということでしょうか。
そうですね。やはりBtoBのビジネスモデルですから、安定した製造計画を回すことが先決で、「攻め」の営業は弱いという面はあったのかもしれません。ただ、現在はどのメーカーも見込み顧客の獲得に躍起になっています。というのは、オーガニックな成長を望むには、それが一番適した方法だからです。プロダクトの優劣はもちろんのこと、対顧客に「見せる」部分も重要になってきています。顧客起点のDXは現在、この業界でホットなトピックだと言えます。現在、各社は自社ウェブサイトを作り直し、製品データやカタログを整備しています。そこに、Knowdeのように一覧性に優れたプラットフォームを合体させれば、より最終顧客にとってわかりやすい営業が可能になるでしょう。
―一言に化学メーカーと言っても、彼らが顧客の対象とする業界は多岐にわたります。
その点も、当社が成功を収めているポイントです。化学メーカーは、農業からパーソナルケア、消費財、自動車、製薬など実にさまざまな市場と接しています。顧客の商品を通じて、文字通り世界の隅々まで行き渡っています。ですから、顧客管理は非常に重要で、Knowdeはそのニーズに対してピンポイントにマッチさせているのだと思います。
例えば、買い手であるUnileverは「Knowdeは、当社のプロダクトの中でも、特にサステナビリティ分野の日用品で使用する素材について、小さいが新たな素材を販売する企業を紹介してくれる」とコメントしています。買い物体験のスムーズさと、新たな化学メーカーの発見の容易さは、Knowdeの強みの一つです。
―創業から6年が経過しています。現在までの成長を示す数字について教えてください。
2017年に創業した時、当社のプラットフォームに登録している会社はゼロでした。それが、現在は8,000社を超えています。主な顧客は北米と欧州の企業ですが、現在、アジア・太平洋地域でも急成長しています。日本企業では三菱ケミカルといった化学メーカー、三井物産や住友商事といった大手商社も顧客に抱えています。日本でのビジネスを本格化させたい、と考えたのも今回TECHBLITZのインタビューを受けた理由です。
世界トップクラスの化学業界市場を誇る日本
―日本市場をどのように見ていますか。
まず申し上げたいのは、日本は化学分野で世界有数の市場だということです。売上高が10億米ドルを超える企業の数が多い地域は、日本が世界でもトップクラスです。ですから、当社が化学メーカー向けマーケットプレイスを運営する上で、日本市場に進出しないという選択肢はありません。
日本の化学業界も、デジタル化という意味では欧米企業に比べると遅れているかもしれません。ただ、抱えている問題はどの地域でも同じです。要は、どの会社も見込み顧客を増やしたいと思っているし、リードを顧客に転換するより良い方法を見つけようとしているのです。Knowdeがその助けになれることを確信しています。
―日本企業とパートナーシップを締結したいという考えはありますか?あるとすれば、どのような形態のものが理想でしょうか。
パートナーシップをどのように定義するかにもよりますが、もちろん関心はあります。対顧客という関係をはじめ、当社が今後どのような事業戦略を描いていくかによって、必要となる協業の形も変わっていくでしょう。ですから、現時点でジョイントベンチャーをしたいとか、そういった明確な形はイメージしていません。ただ、日本市場でビジネスをする上で、化学系メーカーとの協業は必須だと考えていますから、ぜひお話しはしてみたいと考えています。
新たな機能を付与する1年間に
―向こう1年間のマイルストーンを教えてください。
顧客との関係をより緊密なものにしていくことです。それが喫緊で最も重要なポイントです。そのためには、業界にとってなくてはならないプラットフォームにするための、いくつかの機能を追加する必要があると考えています。
1つは、化学メーカーがDXを推進できるようなソリューションです。例えば、Knowde上の製品情報を、顧客のウェブサイトに転載したり、顧客管理情報にそのまま貼り付けたり、といったように、彼らのビジネスをより加速させる仕掛けを施していきます。これらは、「マーケットプレイス」を起点に、化学業界に深く入り込んでいる当社だからこそ届けられる価値でしょう。
―最後に、長期的なビジョンを教えてください。
Knowdeは、化学業界のマーケットプレイスで、最初に成功したプラットフォームだと自負しています。ですが、まだ当社は道半ばを歩んでいます。われわれが目指す「全ての『リアル』な製品を『デジタル』に持ってくる」という強いミッションを達成するためには、まだまだやらなければいけないことがあると感じています。今後もプラットフォームへの投資を続け、この業界でのビジネスを続けていきますよ。業界を鞍替えすることはありません。すでに築いてきたものを引き続き築いていくだけです。