アジア地域での資金調達の厳しさを経験
―創業の理由を教えていただけますか。
私がJenfiを立ち上げた動機の一つは、過去のスタートアップ経営で資金調達に苦労した経験があるからです。マーケティング活動が重要なコンシューマーテクノロジー企業を東南アジアで運営していくということは、資金調達の面で多くの課題を伴います。多額の資金を調達できる米国や欧州とは異なり、調達できる金額が少なかったり、資金調達の機会自体が限られていたりするからです。
私はJenfiを創業する前に、フィットネスクラスのサブスクサービスなどを手掛けるGuavaPass(グァバ・パス)を創業しました。顧客ベースを獲得していくために、マーケティングに多くの資金を投じていたのですが、こうしたビジネスモデルに対して伝統的な銀行からの融資はなかなか得られません。具体的なアセットや技術を保有しているわけではなく、銀行の融資対象となりにくいのです。これがこの地域のコンシューマーテクノロジー企業を取り巻く、根本的なペインポイントであると感じました。
現在でも、急成長しているeコマースやSaaSなどインターネット関連企業が同様の問題を抱えています。これらの企業は良いビジネスモデルを持ちながらも、従来の資金調達の方法では資金を得にくいのです。この問題を解決し、デジタル企業の成長を支援するためにJenfiを立ち上げました。
マーチャントアカウントや広告アカウントに接続し、投資判断を簡易化
―提供しているプロダクトの詳細について教えてください。
私たちは主に、ITやデジタル技術の利用を前提としたデジタルネイティブ企業への資金提供に注力しています。顧客の約半分はeコマース企業で、残りの半分はソフトウェア会社やオンラインサービス、教育テクノロジー、フィンテックなどのコンシューマーテクノロジー企業です。これらの企業はSNS広告によるマーケティングといった成長活動への投資が必要です。そこで私たちは、「収益還元型金融(Revenue-based finance、RBF)」というスタートアップ向けの資金調達方法を提供しています。
収益還元型金融は、将来発生が見込まれる売上を譲渡する、というスキームを利用した融資方法です。具体的には、私たちはスタートアップの継続的な総収入の一定割合を得る権利と引き換えに出資し、事業収入に応じた金額を、あらかじめ決められた金額が支払われるまで受け取ります。こうした融資の形態は欧米を中心に広がっていましたが、東南アジアでは先駆け的な取り組みです。
―融資の判断はどのようにされているのでしょうか。競合との違いを教えてください。
デジタル企業の将来の売上を事前に予測するため、多くのデータソースを活用しています。例えば、決済サービスのStripeやShopifyやLazadaなどのマーチャントアカウントなどで、顧客のデータに直接アクセスして日々の売上状況を把握しているのです。また、銀行口座も統合し、日々の現金の流れを把握しています。さらに、FacebookやGoogleの広告データも取得して、マーケティング費用の効率性を知ることができます。
これらのデータを元に、私たちは独自の信用スコアリングモデルを構築し、事業のリスクを評価します。その結果、どれだけの資金を提供し、どのような割合で返済請求するかを決めているのです。全てのデータが自動的に連携されるので、スタートアップが申し込みをしたその日にオファーを出すことができます。
フィンテックを活用した多くの貸し手は、運転資金融資のような伝統的な商品に重点を置いています。彼らのアプローチはわれわれのものとは異なり、企業を評価するために人員が多くの時間を割く必要があります。一方、私たちはテクノロジーに投資したおかげで、チームが非常にスリムになっています。
―顧客の成功事例を教えていただけますか。
これまで私たちは1,000社以上のの企業に資金を提供してきました。中でも特に印象的な事例の一つとして、清掃員をマッチングするモバイルアプリの事例があります。シンガポールでは多くの人が掃除のためにパートタイムのヘルパーを求めており、このアプリは短時間で清掃員を手配することができるものです。特にコロナ禍の際には家をしっかりと掃除したいという需要が高まったので、多くの広告費を投じてブランドの認知度を上げ、顧客を増やす必要がありました。
私たちの資金提供により、彼らのビジネスは急速に拡大し、1年間で3倍の規模に成長しました。さらに2年後には大手企業に買収されました。この事例は、私たちが提供する資金がどれだけのインパクトを持つかを示しています。
image: Jenfi
ベトナム・インドネシアなど急成長市場に焦点、将来的には日本進出も視野
―御社自身の過去数年間の成長と、この先1〜2年の目標についてお聞かせください。
初期段階ではわずか100社ほどの顧客にしか資金を提供していませんでしたが、先ほどもお伝えした通り、現在では1,000社以上にサービスを提供しています。金額の規模も大きく変わっており、数年前は年間総額500万ドル程度の資金提供だったのが、現在は3,500万ドルという規模になっています。
この成長は、私たちの資金調達の活動とも関連しています。2020年、新型コロナウイルスのパンデミックの影響を受ける中、私たちはシリコンバレーのY Combinatorを通過しました。その後、その年のうちにシードラウンドでの資金調達を実施し、2021年後半にはMonk’s Hill VenturesがリードするシリーズAの資金調達に成功しました。そして、最も新しい動きとして、2023年5月には日本のベンチャー・キャピタルであるHeadline Asiaなどから新たなラウンドの資金を調達できました。
私たちはシンガポールを最初のステップとして選びましたが、潜在的な市場を持つ東南アジアでの成長を続けることを目指しています。この市場では驚くべきことに、まだ銀行口座を開設していない企業も多く、適切な資本にアクセスすることができません。現在は特にベトナムとインドネシアに目を向けています。これらの国々は多くの新興企業やデジタル企業が存在し、経済成長が非常に急速であるため、大きな可能性を感じています。これらの市場において最適なソリューションを提供するプレーヤーとしての存在感を強めたいのです。
今後1~2年の間、私たちの最優先事項は製品の改良に注力することです。特に融資の査定にかかる時間の短縮が求められています。私たちのビジョンは、顧客が申し込みから1時間以内にお金を手に入れることができるような、超高速サービスを提供することです。ローンの商品も増やし、シンガポール、インドネシア、ベトナムといった市場でのリーダーシップを強化し、東南アジアの他の市場への展開も視野に入れています。
―御社は顧客の事業を深く理解できると思います。資金提供以外のコンサルティングなども提供できるのではないでしょうか。
良い質問ですね。実際、私たちは顧客から大量のデータを収集しています。現状では融資のための企業分析のみに使用しているのですが、顧客からはビジネス改善のアドバイスを求める声も多いです。例えば、Facebook広告などへの投資が同業他社に比べて効果的かどうかなどの分析が可能です。そのため、将来的にはこのデータを利用して、顧客に自社の状況を分析できる有益な情報を提供したいと考えています。これにより、彼らは投資やマーケティングの最適化を図ることができるでしょう。この構想は今後の製品開発のロードマップの一部として考えており、現在も継続的に取り組んでいます。
image: Jenfi HP
―日本企業とのコラボレーションにはどのような可能性があるとお考えですか
日本市場への参入も考えています。実際、日本にはたくさんの戦略的企業や金融機関が存在します。しかし、現在はまだ東南アジアでの規模拡大を最優先にしています。ビジネスの基盤を築けたら、Headline Asiaが持つ日本企業のネットワークを活用して新たなビジネスチャンスを模索する予定です。
パートナーシップの形態としては2種類あると考えていて、一つはディストリビューションに関するものです。これは、中小企業やデジタル企業などの顧客ベースを持つ保険会社や金融機関が挙げられると思います。もう一つは、資金調達に関するパートナーシップで、日本で活動資金を得るために銀行をはじめとした融資元が必要になってくると考えています。
私たちの技術は一元化されていますが、API統合など日本固有のサービスのデータへの接続に関しては、まだ課題が残っていいます。データ統合をサポートしてくれるシステムインテグレーターとのパートナーシップも考えられます。以上のようなパートナーシップが、私たちにとって非常に価値あるものになると感じています。
―長期的なビジョンと、将来のパートナー企業へのメッセージをおねがいします。
私たちはアジアでの全てのデジタル企業の成長をエンドツーエンドで支援するブランドネームになりたいと考えています。創業の初期段階からIPOに至るまで、全てのフェーズでの支援を目指しています。このアプローチには、私たちが提供する資金調達に関連した商品はもちろん、企業のビジネスを評価し深く理解するための分析ソリューションや、銀行サービス、そして企業の成長を後押しするその他の金融商品も含まれるでしょう。顧客の成功に大きく貢献することが私たちの最終的な目標です。
ビジネスにおいて、私たちは常にオープンです。パートナーシップにはお互いに学び合う過程が必要で、関係の構築は早い段階から始めることを重視しています。現時点で即座に日本進出を計画しているわけではありませんが、将来的な展開を見据えてチャンスを逃さないようにしています。戦略的な提携を求める日本企業との対話の機会があれば、積極的に関係を構築していきたいです。