今回は2020年5月、6月に資金調達を果たした米国スタートアップを5社紹介する。ブレーカーのデジタル化、マシンラーニングを利用した車の情報収集、書類入力の自動化、スマートオーブン、収益構造の最適化ソリューション事業を推進する米国スタートアップ 5社のCEOに、事業詳細と今後の展望について聞いた。


ブレーカーのデジタル化で配電システムを変えるAtom Power


Image:Atom Power

 Atom Powerは、半導体の組み込まれたデジタルサーキットブレーカーを開発する。電力をシンプルにスマートにコントロールし、安全な利用を可能にする。

 Co-founder & CEOのRyan Kennedy氏は「配電産業は技術に関して大変遅れていると感じ、これを変えれば社会にとって大変有益であると確信しました。住宅・建物・公共施設問わず、配電システムの屋台骨はブレーカーです。従来型の金属製のスイッチではない、ボタンで操作できる新たな形のデジタルサーキットブレーカーを開発すれば、配電システムを抜本的に変えることができると考え、2014年に創業しました」と語る。

Ryan Kennedy
Atom Power
CEO
WB Mooreでプロジェクトマネージャーを務めたのち、2015年にAtom PowerのCEOに就任。
 
 半導体を組み込み、ユーザー・インターフェースにこだわったソフトウェアを搭載したことで、ブレーカーをデジタル化。パネルボードで操作したり、リモートで操作することも可能に。この技術は米国で特許を取得した。プロダクトを使用することで、従来型より3000倍も速く操作でき、電力にかかるコストを1日30~50%削減できるという。

 6月に1775万ドルを調達し、シリーズBに到達。当面は顧客を増やすとともに、技術投資を進めて次世代プロダクトを年内に投入したいという。

 現在は北米のみで事業展開しているが、日本企業に対しては「私たちの事業は大きなインパクトのあることです。デジタルサーキットブレーカーは基本設計概念になるでしょう」とKennedy氏は語る。



資金調達額:2349万USドル
6月の資金調達額:1776万USドル
6月の資金調達先:ABB Technology Ventures, All American Properties, Atreides Management
所在地:Charlotte, North Carolina
URL:https://www.atompower.com/

車からデータを収集し安心・安全な車の開発につなげるViaduct


Image:Viaduct

 Viaductは、機械学習で車に関するデータ収集を強化するクラウドプラットフォーム。

 Co-founder & CEOのDavid Hallac氏は「私はスタンフォード大学でAIによる機械学習でPhDを取得し、この分野に携わってきました。なかでもこの6年ほどは自動車にフォーカスしています。そこで、全ての自動車会社が自動車に関する膨大なデータを収集し、管理・分析・活用できるようになるツールやシステムの構築を思い立ち、2018年に創業しました」と語る。

David Hallac
Viaduct
Co-founder & CEO
Stanford大学卒業後、Viaductを共同設立、CEOに就任。
 
 Viaductはコネクテッドカーからデータを取得し、実用的なインサイトをAPIやダッシュボードといった形で顧客へ提供する。Hallac氏は「われわれのコアソリューションはOEMパートナーなどから依頼されて提供するユースケースです」と語る。

 これはどの車が故障しやすいのかなどを分析し、車のオーナーや保険会社へ修理等にどのくらいのコストがかかるのかのアラートの発信や、もしくは車を回収するといった行動へ結びつける。原因を分析したり欠陥に着目したりして、該当する車の良い点と問題点を明確化して、開発・製造体制の改善につなげることを目指す。また、ドライバーに合った車のパーソナライズの実現も目指している。

 顧客層は商用車向けのOEMが中心だ。6月に1100万ドルを調達し、シリーズAに到達。現在は限定的なカスタマーに狭く深くフォーカスしているところ。コロナで自動車業界も打撃を受けているが、「コロナがデジタル化を一層後押ししている。当社と協業する企業はコロナ禍においても強くなっている」とHallac氏は語る。

 Hallac氏は、米国から欧州、アジアにも事業を拡大していく考えだ。日本企業に対しては、「日本は自動車大国。日本においてもパートナーシップを模索していきたい」と語る。

資金調達額:1100万USドル
6月の資金調達額:1100万USドル
6月の資金調達先:BoxGroup, EXOR Seeds, Innovation Endeavors
所在地:Menlo Park, California
URL:https://www.viaduct.ai/

面倒な書類処理を自動化するHyperscience


Image:Hyperscience

 Hyperscienceは、マシンラーニングを利用し書類の入出力を自動化するソフトウェアを開発している。仕事を人間のマネージャーではなくソフトウェアによって管理することを目指す。

 Co-founder & CEOのPeter Brodsky氏は「私たちはマシンラーニングに携わってきたことから、マシンラーニングの運用で起業したいと考えていたところ、データ入力の自動化に着目し、2014年に創業しました」と語る。

Peter Brodsky
Hyperscience
Co-founder & CEO
コーネル大学を卒業後、複数の企業を設立。2012年からSoundCloudにてディレクターを務める。2014年にHyperscienceを共同設立、CEOに就任。
 
 マシンラーニングによって、インボイスや契約書類といった構造化文書・半構造化文書を処理し、データ入力を自動化。複雑なプロセスを自動化して生産性を高め、文書入力の96%を自動化できるという。

 導入した業種は金融、保険、ヘルスケア、政府機関、物流と幅広い。口座開設とそれにあたるデューデリジェンス、登録処理、継続的な口座管理・維持、クレーム処理、ローン処理などを自動化している。

 6月に6000万ドルを調達し、シリーズCに到達。長期的なビジョンは「モニター越しにキーボードで行う仕事は全て自動化できるようにしたい。そして創造的な仕事に力を注げるようにしていくことです」とBrodsky氏は語る。

 Brodsky氏は日本に滞在していた時期もあり、日本進出にも関心を示す。「コロナが終息したら日本に法人設立できると思います」と語る。

資金調達額:1億1920万USドル
6月の資金調達額:6000万USドル
6月の資金調達先:Battery Ventures, Bessemer Venture Partners, Felicis Ventures
所在地:New York, New York
URL:https://hyperscience.com/

バーコードを読み取るだけで、オーブンが勝手に調理。スマートオーブンのTovala


Image:Tovala

 Tovalaは、インターネット接続のスマートオーブンに材料を入れて、簡単に調理できるフードサービスだ。

 Co-founder & CEOのDavid Rabie氏は「18歳の時にベジタリアンフードに魅せられ、食の持つ力に目覚めました。その後、食とテクノロジーを組み合わせての起業を思い立ちました。なかでも私も含め多くの人は、自炊をした方がいいとわかっていても忙しくて時間がないのです。この自炊ニーズを満たす市場に穴があるのを見つけ、2015年に創業しました」と語る。

David Rabie
Tovala
Co-founder & CEO
シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネスにてMBAを取得。2012年にDraftpediaを共同設立。2014年にTovalaを共同設立、CEOに就任。
 
 Tovalaのスマートオーブンは一般的なオーブンと同じくスチーム機能や焼き菓子、トーストといった機能を持つ。特徴はScan-to-Cookという機能だ。Tovalaが提供するミールキットを購入すれば、付随するバーコードをスキャンするだけでオーブンが自動的に調理法を設定、適切な調理が可能だ。鶏の胸肉や鮭の切り身もジューシーに仕上げる。扱うメニューは、グルテンフリー、糖分控えめ、低カロリーのレシピなど種類豊富だ。

 また750以上の市販の冷凍食品のもバーコードをスキャンするだけで、普段は余熱のいるピザなどの調理も余熱なしで調理可能だ。

 スマートオーブンは年間199ドルで利用でき、毎週3~16食を届けるセレクトミールプランは、1食11.99ドルだ。

 利用客は、幼児を抱えるファミリー、子どもが巣立った親世帯など幅広い。コロナパンデミックで宅食需要が高まるなか、オーブンの利用回数はコロナ前より20%も増加。最近2000万ドルを調達し、シリーズBに到達。当面は成長を続けていく計画。究極のビジョンは、人々がより良い食を容易にできるようになること。

 現在は米国内のみでサービス提供しているが、「当社には日本からの投資もあり、機が熟したら日本でも展開したいです」とRabie氏は語る。



資金調達額:4178万USドル
6月の資金調達額:2000万USドル
6月の資金調達先:Comcast Ventures, OurCrowd , Finistere Ventures
所在地:Chicago, Illinois
URL:https://www.tovala.com/

販売手数料の管理から収益構造を最適化するソリューションCaptivateIQ


Image:CaptivateIQ

 CaptivateIQは、販売手数料に関する次世代型ソリューション。販売手数料の管理を容易にするうえ、収益構造をも最適化する

 Co-founder & CEOのMark Schopmeyer氏は、「テック業界を対象にしたプライベートエクイティ会社で販売手数料を管理した時に、それが大変厄介で入り組んだ作業でした。2週間以内に30人の担当者に販売手数料を支払うために、データをどう把握すべきなのか苦労しました。エクセルで効率的な支払いシステムを構築し、担当者にメールしたりしていました。これを自動化し、簡単な操作で支払いを実行できるソリューションを思い立ち、2017年に創業しました」と語る。

Mark Schopmeyer
CaptivateIQ
Co-founder & CEO
カリフォルニア大学バークレー校、卒業。2009年よりLehman BrothersにてInvestment Banking Analystとして勤務。その後、複数の企業で勤務後、2017年にCaptivateIQを共同設立、CEOに就任。
 
 ワークフローに沿って、多方面から収集したデータを活用し、支払額を自動計算し、インサイトベースのレポートとステートメントを作成する。

 クライアントはテック企業が75%だが、25%はコンサルティング・金融ほか幅広い業種に及ぶ。企業規模は100人規模から2000人規模まで存在する。

 長期的なビジョンは、クライアントの販売手数料の管理にとどまらず、クライアントがあるべき販売手数料計画を立てられるような提案までしていきたいという。

 日本で展開するには、「販売手数料の管理に課題を抱えており当社のソリューションを必要としている企業、リセラーとして長期的に販売代理店となってくれる企業とパートナーシップを組めたらと考えています」とSchopmeyer氏は語る。



資金調達額:4800万USドル
5月の資金調達額:1300万USドル
5月の資金調達先:Y Combinator
所在地:San Francisco, California
URL:https://www.captivateiq.com/



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