InMobiはインド発のグローバルテック企業として評価されたユニコーン企業(時価総額1000億円超の未上場スタートアップ)である。現在では、インドには10社のユニコーン企業が存在する。ただ、ユニコーン企業の大半が、インド13億人の国内市場での成長を期待されたスタートアップで、ビジネスモデルの革新性というよりも、市場の大きさ、潜在力が評価されての評価と言える。その中で異色を放っているのが、InMobiだ。2007年にバンガロールで会社を設立し、わずか10年足らずで世界最大級のモバイルアドネットワークにまで成長。現在では、2010年に進出した日本を含め、世界165カ国以上の国と地域で広告を配信している。CEOのナビーン・テワリ氏に、事業の詳細や起業の経緯、今後の日本での展開などについて聞いた。

Naveen Tewari
InMobi
Founder & CEO
インド、カンプールで育つ。2000年にインド工科大学を卒業。大学時代に後のInMobi創業メンバー2人と会う。大学卒業後、2000年に米国マッキンゼーに入社、3年後に退社して、2005年にハーバード大学MBA取得。ハーバード大学在学中に、インドと米国で投資するVCでも勤務。2007年に創業メンバー4人でInMobiを設立しCEOに就任。

世界最大級のモバイルアドネットワーク企業

―まずInMobiの事業概要を聞かせてください。

 世界最大級のモバイルアドネットワークを持っています。世界各国の代表的なブランド(顧客)、デベロッパー(開発元)、パブリッシャー(販売)の広告を、200カ国、10億人に向けて配信しています。

 モバイルアドネットワークは、エリアカバレッジ、スケール(量)、ターゲティングの効率性が重要な要素です。私たちは世界に25拠点のオフィスを構え、プラットフォーム上では大量の広告を在庫として持ち、ビッグデータ、ユーザー行動などを分析し、広告主にとって効率的な広告配信を可能にしています。日本にも2010年から進出しています。

―起業する際、なぜモバイルアドネットワークの分野に着目したのですか?

 私は大学卒業後、2007年に起業する前まで、米国のマッキンゼーでコンサルタントとして働いていました。転機となったのは、MBA取得中にいくつかのシリコンバレーにあるスタートアップで働いたことです。そこで、初めてモバイルインターネット業界に触れ、変化の速さと成長性に魅了されました。モバイル検索エンジンやモバイル決済などの事業も試しましたが、スタートアップが最初に選ぶ事業としては今ではないと判断し、現在のアドネットワークの事業を始めることにしたのです。

Image: InMobi

―御社は創業当初からグローバル展開しています。インド発のグローバル企業の成功例として御社がよく紹介されていますが、グローバルを目指した転機は何だったのでしょうか。

 2007年に起業した時、私はすでに米国からインドに戻ってきていました。始める事業だけは、モバイル分野で広告とマーケティングクラウドプラットフォームと決めていましたが、肝心の市場がインドでは、ほぼ存在していなかったのです。3カ月後にはインドの国内市場を狙うのではなく、「インドでプラットフォームをつくり、世界に向けて売っていく」と大きな方向転換をしたのです。

なぜインド発グローバルで成功できたのか、3つの理由

―グローバル展開で成功できた要因は何だと思いますか。

 決して、全ての国で成功しているわけではなく、課題はもちろんありますが、それでも、当社からインド発企業として、グローバルに展開できた要因があるとしたら3つだと思います。

 1つ目は、優秀なエンジニアを多く揃えることができたこと。インドはソフトウエアエンジニアの宝庫です。創業当初から優秀なエンジニアが揃ってくれたのは、皆、「インド発の世界的なマーケティングクラウドプラットフォームを創る」という思いに共感してくれたことが一番だと思います。

 2つ目は、海外戦略におけるエリア選定を間違えなかったこと。海外に出る際に市場の大きさはもちろん大事です。ただ市場がすでに大きいということは、それだけ競合も多いということです。我々が最初に選んだ市場は米国ではなく、アジアでした。日本、オーストラリア、中国、米国という順番に進出していきました。もしこれが最初に米国に進出していたならば、他の競合と比較され、多くの先行投資が必要だったでしょう。でも、我々がアジアに進出したタイミングでは、ほぼ競合がいなかった。そして運良く、モバイル広告市場も急速に立ち上がり、成長していきました。我々は2011年に中国に進出し、現在では、中国でも最も大きなモバイルアド広告ネットワークの会社にまで成長しました。

 3つ目は、良いタイミングでベストな資金調達の出資者と出会えたことです。創業2期目の時に、世界的なVCであるクライナー・パーキンス・コーフィールド・アンド・バイヤーズ(KPCB)から710万USドル(約7億円強)の出資を受けることができました。彼らから出資を受けたことで、大きな信頼を得て、グローバルな顧客獲得のはずみになりました。そして、5期目には2億USドル(約200億円)の出資をソフトバンクから受けました。これは、グローバル展開を加速させることと、エンジニアの採用と技術研究に投資をして、競合を大きく引き離すのに有効でした。

Image: InMobi

Googleの買収を断ったのは「挑戦者でありたいから」

―2015年にGoogle 社から買収話が持ち上がったものの、それを拒否されました。なぜ買収話を断ったのですか。

 一番の理由は「挑戦者であり続けたい」と思っているからです。11年前に創業した時は、世界的な企業をつくると言っても誰も信用してくれませんでした。特に我々がやろうとしていたことは、グローバルでも特に先端技術でした。当時、インドでイノベーティブなスタートアップ自体が皆無でした。我々は、当時からシリコンバレーやシアトルに行って、人材採用していきました。「今の君の力なら、グーグル、フェイスブック、マイクロソフト、どこでも入れるだろう。でも、彼らを10年後に倒すような会社をインド発でつくる側にまわった方が面白くないかと口説いてまわったのです。」

 おかげさまで、InMobiはインド国内では最もイノベーティブな会社として認知され、MIT Technology Reviewでも、「世界でも最も挑戦的な会社50」にも選出されました。この10年で世界的なアドネットワークをつくれましたが、モバイルは今後、動画時代になってきます。テレビで動画を見る時代からモバイルで動画や動画広告をみる時代がすでに始まっているのです。この事業機会は、我々にとって大きなチャンスですし、過去に何度も買収の話が来ましたが断ってきて正解だと思っています。

世界展開のポイントは「ローカル化」

―グローバル展開する上で、どのように進めていくのかを具体的に教えてもらえますか。

 市場調査はしますが、「誰にその国の経営を任すのか」が一番の重要要素だと思います。その国で、モバイル広告の業界で働いたことがある人で、その国の業界の将来性を語れる人に経営をお願いします。ですので、本社から経営者を派遣するということは、まずありません。その国の事情に精通した人に任せています。ただ、売る商品は、基本的に当社の世界的にも売れている商品やサービスです。その上で、経営が軌道に乗り始めたら、その国に最適なローカル商品やサービスを開発してもらいます。ローカル商品が売れ始めてきたら、今度はそのローカル商品を販売してくれるパートナー網を構築していきます。

 私たちの経験則で言うと、グローバル基準な商品をつくっても、最後はローカルには勝てないのです。お客様のことを一番分かっているのはローカル企業なのです。お客様もそのことは知っています。ですので、会社としての規模が大きくなっても、局地戦である、ひとつひとつの国では、いかにローカル企業になれるか、ローカルにいかに支持されるかが全てです。会社規模はお客様にとっては関係ありません。お客様のことをどれだけ知っているか、役に立てられるかが勝敗を決めるのです。当社はグローバルに25拠点ありますが、25拠点なりの文化、オペレーション方法、コミュニケーションの取り方があります。非効率にも見えますが、結果的にその方法が良いと今は思っています。毎回、新しい拠点を開設する時は、ゼロイチの気持ちでやっているので大変ですよ(笑)。でも、挑戦心を維持し続けられているのも、ゼロイチの起業の場が多いからだとも言えます。

Image: InMobi

日本の顧客は要求水準が世界一高い

―ありがとうございます。最後に日本企業に向けてメッセージをもらえますか。

 日本は実は最もタフな市場です。お客様の求める要求水準が世界一高い。正直、我々も成功できていません。ただ一方で、ビジネスをする上で信頼できる人たちだと思っています。日本進出を考えている、インドの後輩起業家からアドバイスを求められることがあります。私が常々言うのは、日本で成功するのはたやすいことではない。でも、顧客の要求に応え続けること、自社の商品を磨き続けることで、日本企業の支持を得ることができたら、他の国でも成功できると伝えています。日本は戦後、製造業の分野で世界に通用する商品をつくりあげたことを私たちも知っています。我々も世界水準のサービスを目指しているので、日本はそのための試金石な位置づけだと捉えています。

Image: InMobi



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