インド進出の決め手はビジョン
―まず御社の概要を簡単に教えてください。
プログラミングをインターネット上で学習できるサービス「Progate」を運営しています。創業者が東京大学在学中に、ゼロから独学でプログラミングを学んで人生が大きく変わったことが起業のきっかけとなっています。プログラミングを学んだことで、自分のアイデアを形にできるようになった成功体験や、学び続けることで、どんどん上達していく学習体験の楽しさをもっと多くの人と共有していきたい、知ってほしいと思っています。
サービスを開始して5年目になるのですが、現在ユーザー数は60万人を超えました。ターゲットは、これからプログラミングを始めようとする初心者です。教材の制作は全て内製化しており、1つのレッスンを終えると、サービスが1つでき上がるように設計しています。インプットがすぐに具体的な成果として体感できるようなユーザー体験を重視しているのです。
プログラミングは一見とっつきにくいのですが、効率的に学習できる道筋さえ分かっていれば、挫折することもなく、逆にハマっていくものだと思っています。勉強と同じで、一つの言語を学んだから終わりというものではなく、新しい技術(言語)が常に出てきます。
また、使える言語が増えるほど、できることも広がってきます。RPGのように、レベルが上がるごとに使える呪文が増えていくみたいな感覚でしょうか。私たちの最終的なゴールとしては、Progateを通じてユーザーがつくる喜びを知り、自ら学習してどんどんレベルアップしていく、自走状態を多くつくることです。
―海外進出先として、インドを選んだ理由は何だったのですか。
起業した当初から日本だけでなく全世界を対象にしたサービスをつくることを目指してきました。最初の3年間は日本語のみの対応でしたが、2017年10月から英語版をリリースしました。リリース後は、世界中でユーザーが増えてきているのですが、なかでもインドからの引き合いが強かったのです。
オンラインだけでは分からないので、英語版リリースの2ヵ月後には、実際にインドを訪問し、ユーザーヒアリングをしてみました。ヒアリングしていく中で、インドは古くからカースト制度があり、自分のカーストによってどうしても職業の選択が規定されてしまうということが分かりました。
ただ、IT産業はまだ産業自体が新しく、エンジニアという職種はカーストによって規定されません。低いカーストの人でも、エンジニアになることができる。エンジニアになることによって、高い給与、もしかしたら起業することもできるかもしれないという選択肢が生まれるのです。実際、そういった成功ストーリーは無数に存在しています。
一方で、エンジニアになるための教育環境は平等ではありません。インドは優秀なエンジニアを多数輩出しているエンジニア大国のイメージがありますが、実際にプログラミングを学生時代に学習し、職にありつけているのは一握りだけです。
デリー、ムンバイといった首都圏と地域の教育環境格差はありますし、教材が古くてビジネスでは既に使われていない言語をいまだに教わっていたりします。エンジニアになるのにカーストを問わないけれども、生まれた環境による差は日本以上にありました。
Progateは「誰もがプログラミングで可能性を広げられる世界をつくる」をビジョンにしていますから、我々がインドでサービスをやる意義が腹落ちしたわけです。
高校の校長が出迎え「よく来てくれた」と熱烈歓迎
―実際に進出してみると想定外なこともあったのではないですか。
ユーザーヒアリングからある程度、インドでも受け入れられるという自信はあったものの、マーケティングという観点では本当に手探りからのスタートでした。
最初は、法人に対して、研修ツールの一環としてProgateを利用しないかと提案してみたのですが、ニーズに合いませんでした。なぜならインドは即戦力の採用のみで、日本のようにゼロから文系をエンジニアに育てる文化はなかったからです。
はじめから動きながら考えようと思っていたので、とにかく積極的にVCにコンタクトしたりスタートアップイベントにも参加して、多くの人と会うようにはしていました。そして色々な人からアドバイスをもらっているうちに、どうやら学校を通じて生徒に広げていくのが効果的かつ再現性もあるとわかり、高校、大学をまわるようにしました。
現在は高校を中心に広げており、これまで100校近くワークショップを開催しました。想定外だったことは、学校から「よく来てくれた」と熱烈な歓迎を受けることです(笑)。校長自ら出迎えてくれて、一緒にランチして、最後は花束までくれる。
―なぜ、そのような歓迎を受けるんですかね(笑)。
一番はProgateのビジョンである「誰もがプログラミングで可能性を広げられる世界をつくる」に共感してくれたことにあると思います。
私たちは、世界一分かりやすいプログラミング学習コンテンツの提供を通じて、プログラミング初心者のハードルを徹底的に下げることを目標にしています。また、アニメやキャラクターを融合して最新の言語レッスンを提供するなど、学校教育とは違ったアプローチで生徒の学習意欲を高めています。
学校の先生も常に最新の言語を知っているわけではないので、学習指導に困っていたみたいで、「Progate」導入に対して支持側に回ってくれました。価格設定も、無料コースと有料コースがありますが、有料でもその国のランチ一食分くらいの月額費用にしています。先生が自分の学校だけでなく、他の学校も紹介してくれた時は、自信が確信に変わりました。
熱烈なファン、コミュニティをつくることが一番のマーケティング
―インド立ち上げから1年、振り返ってみてどんな学びがありましたか。
日本でも海外でも、どれだけ熱烈なファンをつくれるか、コミュニティをつくれるかが改めて重要だと分かりました。これが1年目の大きな収穫です。2年目は、ファンをもっと圧倒的に増やしていきたいですね。
これは会社全体にも言えることなのですが、Progateは売上を第一指標においていません。いちばんはユーザーの学習体験を向上させていくことを重視しています。短期的な売上施策はいくらでもあると思うのですが、ユーザーのことを徹底的に考えたサービス、これを突き詰めていくことが本質的な成長につながると信じています。
ですから、ユーザー目線での教材づくりはもちろん、一人一人のユーザーがどこでつまずいているのか、どうやったら楽しみながらスキルアップできるかに多くの時間を割いています。
つくり手の思いはユーザーにも伝わると信じています。日本では、Progateのユーザーが自主的にオフ会を開催していて、お互いのレベルの進捗状況を知らせたり、教え合うコミュニティが多く存在しているんですね。私たちは、そういった温かいコミュニティやファンをどれだけつくれているかを第一にしています。
いまインドでも、そういったコミュニティが増え始めてきています。ユーザー同士が助け合って、切磋琢磨して、レベルが上がっていって、その人たちが自分の成果をクチコミで広げてくれる、そういったサイクルができることが理想です。早くこういった環境サイクルをつくっていきたいですね。
Progate進出前と進出後で、インドでどれだけ役に立ったか、その差分が私たちの存在意義です。インドでもProgateをきっかけにプログラミングを学んだ高校生が、将来、自分の会社を起業して成功したら、とても嬉しいですね。
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