普段の生活で何気なく使っている様々なモバイルアプリ。その裏でシステム設計からプログラム開発、動作テスト、実装など一連の作業を担当する開発者は、アプリがどのデバイスでも問題なく動作するよう常に検証する必要に迫られる。そのような負荷を減らし、なるべく高速に、そして効率的にアプリ開発を行えるようなプラットフォームを提供するのがHeadSpin。今回は、共同創業者でCTOのBrien Colwell氏に開発の背景を聞いた。

70以上もの都市のデバイスに接続してアプリを検証

―まずHeadSpinのプラットフォームについて教えてもらえますか。

 HeadSpinは、世界中のどこからでもアプリが特定の地域でどのように動作しているのかを検証可能にするプラットフォームを提供しています。動画や音声のメディアストリーミングをはじめ、アプリの設計・検証・展開・デバッギングを今までよりも効率よくすることが目標です。

Brien Colwell
Brien Colwell
HeadSpin
Co-Founder & CTO
カリフォルニア大学バークレー校で理系学士号をとり、ニューヨーク大学で双方向通信の分野で修士号を修得。ソフトウェア関連企業でモバイル向け開発とデータ管理の業務に従事し、2015年HeadSpinを共同創業、CTOを務める。

 例えば米国にいながら、日本市場向けにアプリをローンチしたい場合、日本にあるデバイスでアプリがどのように機能するのかを検証したいと考えるでしょう。開発に必要なものが増え、下支えするAPIがより一層複雑になる中で、開発者は世界中のどこでアプリをローンチしてもしっかり動作するよう確認しなくてはいけません。

 また、リモートワークが浸透していて、チームメンバーが各地に散らばっている事情もあり、それぞれのメンバーがローカルの実装を想定して検証を行わなくてはいけません。この部分のニーズは、現存のインフラではまだ満たされていないのです。

 そこで私たちはアプリ開発に必要なデバイスそのものに接続できる環境を提供することにしたのです。開発者は、70以上もの都市にあるデバイスに接続してデバッギングを行ったり、開発チームのデバイスを使って内部インフラでデバッギングを行ったりすることができます。


 既にデバイスインフラに投資をしてしまった企業では、既存のデバイスからデータを集約・検証して開発を行うのが普通ですが、私たちはデータ管理の点でもニーズがあると感じました。私たちのプラットフォームは、そのような場合でもデータを集約し、アプリの問題点を指摘できるよう柔軟に設計されています。

―創業のきっかけは何でしたか?

 私自身は以前、ビッグデータの管理や検証に携わっていて、その後モバイル向け開発の分野に進みました。世界がグローバル化する中で、開発チームは各地に広がりましたが、アプリ開発を行う際にいちいち異なる都市でチームを組み直すことはできません。現存のチームを大きくしてアクセス可能なサービスを増やした方が効率的です。

 日本の例を挙げると、楽天は米国内で人気なブランドになっており、めざましい成長を遂げていますが、実際に米国内に開発チームがいないと成功するのは困難です。そこで、私たちはそのようなギャップを埋めようと、ターゲット市場のデバイスにインフラを埋め込み、人工的にあたかもその地域でアプリをローンチしているかのようなインフラを設計しました。HeadSpinは2015年にそのようなミッションで始まりました。

HeadSpinは「コラボレーションプラットフォーム」

―競合他社との差別化はどのように図っていますか。

 たしかに、巷には様々な検証用プラットフォームが存在します。私たちはその中でも自分たちを「コラボレーションプラットフォーム」として捉えています。つまり、必要なインフラを提供し、データ管理を助けることでチームの開発を支援する包括的なプラットフォームであるということです。

 デバイスで検証したとき、様々なデータが戻ってきますが、それをもとに開発者は、特定の地域でアプリがきちんと動作しているか、リスクはないか、何が改善できるのかを見極める必要があります。数値を見ることで、パフォーマンスを追跡することができますから、私たちは開発者のためになるようなデータを提供できるよう努めています。

 またメディアに限った場合、音声認識にも力を入れています。これほどまでに機械に話しかけるようになると、誰も思いませんでした。音声入力をする環境でも検証できるようにインフラを設計しています。

―立ち上げにあたってどのような点が課題でしたか。また、創業当初と比べてどのように変化しましたか?

 会社を立ち上げる際に重要だと思うのは、優れている技術を持つこと、そして成功して変化を起こせると信じるハングリー精神です。立ち上げ当初は営業や製品開発に苦戦するものです。私たちの場合、顧客に寄り添える素晴らしいチームに恵まれ、フィードバックをもとに製品を修正していったこともあり成功したのだと思います。また異なるニーズに対応するため、柔軟なインフラを設計するモチベーションも生まれました。

 今の課題は、ここからどのように拡大していくかです。1つや2つのことをマニュアルで行うのは簡単ですが、それが100個のことを同時に、となると変わります。自動化しなくてはいけませんし、プラットフォームはシームレス、高速、そしてストレスフリーでなくてはいけません。それができれば需要に見合った成長ができます。この点を解決し、顧客が自信を持って頼れるプラットフォームを作るのが現在の課題です。

今後はメディアや音声認識、オープンソースに焦点。日本展開拡大も視野に

―今後の目標は何でしょうか。

 今まで調達した資金を、技術投資と人材投資、そして顧客満足度を上げることに充て、長期的には、次の10年間のアプリ開発の道のりで自分たちが成功できるかを定めることが目標です。

 企業としては、数字にフォーカスしたデータドリブンな企業だと思っています。顧客満足度のみならず、プラットフォームの成果も数値化しているので、そのデータを成功の判断材料としているのです。また、オープンソース関連にも投資をしているので、将来的にそのような製品やサービスを提供している企業と提携することにも興味があります。

―日本でも既にサービスが提供されているようですが、詳細を教えてください。

 実は初期の投資家のうちの1社は日系企業なので、大変幸運に感じています。プラットフォームの開発を担う会社のコアチームの1つも、実は東京出身のチームです。日本から米国に移住したエンジニアもいるくらいです。

 日本ではコウェル社が販売を行っていて、講演を行ったりしています。今後はメディア、ストリーミング、スマートテクノロジー関連の可能性が大きいと思います。日本は大変エキサイティングな市場だと思いますし、チャンスも大きいです。現在のクライアントにも大変感謝していますし、今後が非常に楽しみです。アプリの開発支援が必要な企業は、いつでも私たちがサポートしたいです。



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