半導体の検証手法アプローチを応用
―バックグラウンドと創業の経緯を教えてください。
私のキャリアは半導体業界から始まりました。1987年から約10年間、Intelで勤務し、マイクロプロセッサの検証ソリューションなどを手掛けました。その後も、半導体の検証ソリューションに関連した業務に従事し、実用前にバグを発見する手法の開発などに携わってきました。
Foretellixを創業したきっかけは、毎年130万人以上の人が交通事故で命を落としているという問題を重く見たからです。交通事故による死者を減らす何らかの手だてが必要だと感じ、今後10年間という長いスパンで見たとき、自動運転がその解決策になるだとうと思いました。
ただ、自動運転はシステムに欠陥があった場合、人を傷付けてしまうという大きな代償が発生します。自動運転には安全性の確立という重要な課題があるのです。そこで、私たちがこれまで取り組んできた半導体の検証手法のアプローチが、自動運転システムという分野に活かせるのではないかと思い至ったのが創業の理由です。当社の製品には、半導体業界で広く採用されているカバレッジドリブン検証手法を取り入れています。
当初は共同創業者の3人でスタートしましたが、従業員数は現在150人へと拡大し、約半数がイスラエルに在籍しています。主要オフィスおよび研究開発部門の大部分はイスラエルにありますが、米国はシリコンバレーとデトロイト、欧州ではドイツ、スウェーデン、アジアでは上海および東京に拠点があります。
人間が予測しないバグやエッジケースを可視化
―製品の特徴や強みはどのような点ですか。
主要製品の「Foretify Platform」の基本的な機能は、プラットフォーム上で自動運転システムの検証テストを自動的に生成することです。現実世界で起きうるケースはもちろん、開発者が意図しないような動作を行う「エッジケース」や完全に未知のケースなどを含む、数百万パターンの検証テストの生成ができます。これらは単に数が稼いでいるわけではなく、全てが意味のある、有効なシナリオです。
自動運転システムにおける問題の多くは、人間が予測できるような問題ではなく、むしろ予測できなかったことであることが分かっています。当社のシステムはそうしたシナリオを得られるよう設計されています。
こうしたテストやシナリオの定義には、自動化システムと測定システムの国際標準化団体(Association for Standardization of Automation and Measuring Systems、ASAM)が定めた標準化言語が用いられますが、当社は現在の業界標準である「OpenSCENARIO2.0」(オープンシナリオ2.0)の開発にも深く貢献しました。
また、当社のプラットフォーム上で活用できるライブラリも提供しており、「レベル2のADAS用」「レベル3の高速道路試験用」「レベル4のトラック用」「レベル4の鉱山機械用」などのパッケージをすぐに利用できる形で用意しています。国によって規制が異なるため、ライブラリにセットされた内容は完全に標準化されたものではありませんが、普遍的な内容も多いので、自動車メーカーが必要とするテストに役立てられています。
さらに、これらの全てのシミュレーションの結果を収集・分析し、「Foretigy Manager」という情報管理ツールで自動運転車の性能を精査することが可能です。
image: Foretellix HP
トヨタ傘下のWoven Capitalなどから4,300万ドルを調達
―主要な顧客企業はどのような分野ですか。
当社が顧客とする分野は自動車、トラック、鉱山機械です。商用車大手Daimler Truckの子会社であるTorc Roboticsとはレベル4の自動運転トラックの安全性の検証・妥当性確認に関して戦略的提携を結んでおり、Volvo Groupの子会社であるVolvo Autonomous Solutionsとも公道および鉱山で稼働する自動運転車両の検証ソリューション開発で提携しています。
2023年5月には、トヨタ傘下の投資ファンドであるWoven Capital、NVIDAが参加したシリーズC資金調達ラウンドで、4,300万ドルを調達しました。
提携企業は、システム開発に当社のソリューションを利用していて、すでに何社かは開発した製品を実用化しています。システム開発の大部分は複数年にわたるプロジェクトであり、当社は初期段階から開発サイクル全体を通して参加しています。
われわれのソリューションの展開に終わりはありません。次世代自動車はソフトウェアで定義されており、ベンダーによっては数カ月ごとにソフトウェアのアップデートが行われます。ソフトウェアをアップデートする度に不備がないことを確認するために、徹底的な検証をフルサイクルで行われなければなりません。
私たちは、安全性確保とパフォーマンスや快適性の向上、ユーザーインターフェースの改善を行うため、何らかの変更が加えられた場合、アップデートをリリースする前に徹底的なテストを行います。こうした点が、顧客が当社を利用する理由の1つでもあります。
―日本市場をどのように見ていますか。今後の目標についても教えてください。
日本では多くの需要があり、顧客も増え、事業は確実に拡大しています。とてもエキサイティングな時期にあります。日本では、人口の高齢化に伴い自動運転の必要性が高まっていくと思います。すでに自動運転シャトルなどの分野において日本のイニシアチブが見られます。日本は、着実に自動運転の方向に動いています。市場が展開していくのを見ることはとても嬉しいことです。
日本企業との協業に関して、主な焦点は自動車メーカー、トラックメーカーですが、将来的には保険業界との提携にも興味を持っており、日本の保険会社と対話を重ねています。
また今後、規制当局とも協議の場を設けることになるかもしれません。保険は民間、規制は行政ですが、両者の間には興味深い関係や類似点があります。どちらもリスクを評価し、路上に投入するものが安全であることを確認するための指標を必要とします。われわれが使っているデータ志向の指標は、これら全てのニーズに役立つと信じています。
自動運転以外にも、自律性を必要とするアプリケーションや市場セグメントは多く存在します。港湾、海洋、ドローン、農業、工場自動化、ラストワンマイル配送などを視野に入れています。私たちはまだ新興企業ですが、目標はこれらの市場セグメントの検証を可能にするプラットフォームを提供できるよう成長することです。