スモールビジネスは最大の強みを失っている
――まずはFivestarsを設立した経緯を教えてもらえますか。
私は、Fivestarsを設立する前は、マッキンゼーで大企業のLTV(顧客生涯価値)を最大化するプロジェクトに数多く携わりました。そして、自分はビジネスを通じて社会にインパクトを与えることが得意だと気づき、大企業のために行っていたことを「民主化」し、スモールビジネスの成功を支援することにしたのです。
しかし、今の米国のスモールビジネスは顧客との接点を失っています。地元のカフェに行っても、支払いの時ですらアイコンタクトを取る機会がないような関係性では、価格、品揃え、スピード、何においても優位にある、Amazonや大手チェーン店に競合することはできません。
より多くの消費者が、AmazonやオンデマンドフードデリバリーサービスのDoorDashなどを通じて、買い物をするようになりました。そして、DoorDashなどに対するロイヤリティは上がりましたが、実際に商品や料理を提供している地元の中小企業へのロイヤリティは上がりません。
さらに、例えばDoorDashは売上の30%を手数料として取ります。中小企業は、高い手数料だけでなく、手数料にかかる税金も払わなければなりません。私と共同創業者は、こうした状況を変えるためにFivestarsを設立したのです。
Image: Fivestars Fivestars共同創業者の二人。CEOのVictor Ho(右)、CTOのMatt Doka(左)
Fivestarsを使ったダイレクトコンタクトがスモールビジネスを救う
――具体的にどういったサービスを提供しているのでしょうか?
当社は、それぞれの加盟店が持つネットワークをまとめ、全体で6000万人規模の消費者ネットワークを持っています。そのネットワークを対象とした顧客獲得や、決済代行と顧客データベースの自動構築、他には、ロイヤリティとリテンション機能や、ターゲットを絞ったキャンペーンオファーなどの販売促進キャンペーン、そしてマーケティング業務を自動化し可視化するマーケティングオートメーションを持ったプラットフォームを提供しています。
現在は、カフェ、レストラン、サロン、スパや小規模なブティックなどの個人経営の実店舗など、米国とカナダにある1万4000件のスモールビジネスが当社の顧客です。そしてその顧客の先には6000万人のアメリカ人の消費者が当社のサービスを使っており、6人に1人のアメリカ人が登録しています。
――競合はいますか?
2011年頃は、資金調達に成功、あるいは、サービスをローンチしたスタートアップは100社近くいました。しかし、それらの多くは、ポイントプラグラムの構築やスタンプカードのデジタル化でした。当社の目標は当初から、スモールビジネスが自分の客のデータベースを構築し、直接コミュニケーションを取れるよう支援することですので、他社とは違います。結果的に、現在は当社が最大手です。
当社は、2年前から決済代行サービスを始めました。例えば、通常の決済代行サービスは手数料がかかりますが、大きな見返りはありません。Fivestarsの決済代行サービスは、通常のサービスと同じかそれ以下の手数料で、決済と同時にデータベースも構築でき、消費者に対してはポイントサービスなど様々な特典を提供できます。そして、個々の消費者にカスタマイズしたコミュニケーションが取れます。
たとえば、Fivestarsに加盟した店舗でクレジットカードで支払いをすると、「おかえりなさい、◯◯さん」と表示されて、ポイントや特典がもらえるようにです。
Image: Fivestars 「Fivestars Pay」クレジットカードで支払うと、お客様の名前が表示。
コロナ禍で、無料クレジット提供や政府融資プログラムの申請支援も
――特に新型コロナウイルスによって制限がある今の状況では、スモールビジネスにとって御社のサービスは重要ですね。
そうですね、パンデミック中に当社のサービス利用数は記録的に増えました。今の状況では、顧客と直接コミュニケーションが取れるかが死活問題になります。
私たちは、この厳しい時期をより多くのスモールビジネスが乗り切れるよう、彼らが顧客とより良いコミュニケーションが取れるように、有料機能の無料提供や、毎月100万ドル以上の無料クレジットの提供など、独自の取り組みを行っています。他にも、政府の融資プログラムへの申請を支援するチームを立ち上げ、補助金を得るための支援も行っています。
――今後の目標として日本やアジアでの展開も視野に入っていますか?
アジア市場は、ロイヤリティやキャンペーンなどが特に重視されている市場ですので、アジアへの進出は興味があります。また、私の両親はアジア出身ですし、当社の主要投資家であるDCMベンチャーズは中国と日本における最大手VCですので、日本市場も将来的に進出したい市場です。
しかしまずは、既存の加盟店への支援を深め、より多くの価値を提供することが目標です。そして、米国内での事業を拡大し、米国市場における地位をより強固なものにしたいと考えています。海外における事業展開はその次です。