Image: Enable
サプライチェーンはデジタル化が進みにくい領域の1つだ。関連企業が多く、1ヵ所に情報をまとめきれないハードルもあり、紙ベースで業務を行うのが常となってしまっている。今回取り上げるのは、リベートやキックバックなど、小売業界でよく見る会計上の処理をクラウドで行うEnable。英国発の同社は米国に本社を移し、急速にその存在感を強めている。創業者でCEOのAndrew Butt氏に、業界についての詳細を聞いた。

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リベートマネジメントを行うSaaSプラットフォーム

――御社のサービスについて、また立ち上げの経緯を教えてください

 Enableは、リベートマネジメントを行うSaaSプラットフォームで、社内の取引先、サプライヤー、クライアントとの契約や明細等を効率よく管理します。

  私のキャリアは、コンピューターがまだ出現し始めた90年代までに遡ります。当時は、PC向けアプリ開発に携わっていました。Enableの共同創設者となるDennis Shortとは、私の趣味であるヘリ飛行を通して知り合ったのですが、彼はP&G、Unileverといった小売ブランドと提携する英国最大手の物流会社で勤務していました。彼は業務上多数の同意書や契約書を扱う必要がありましたが、その多くがスプレッドシート上で管理されることが多く、構造的に管理できるソフトウェアがありませんでした。私たちは市場のギャップを発見し、それを埋めるべくソフトウェアを開発したのです。

Andrew Butt
Enable
Founder & CEO
2001年、企業のアセットやプロジェクト、コンプライアンスなどの管理を行えるソフトウェアを提供するEnable Infomatrixを共同創業しのちに売却。その後、Eコマースを展開するDCS Group (UK) を共同創業し同社の成長を牽引。2016年、Enableを創設しCEOに就任した。

――どうしてこのようなプラットフォームが必要とされているのでしょうか

 日用品、車のパーツ、建設資材、どのようなものでも世界に流通する多くのモノが、世界貿易のサプライチェーンを通して流通します。サプライチェーンには、製造者、小売業者、顧客がいます。それぞれの関連する企業が工場からお客様のもとに製品を届けるため、協力し合わなくてはいけません。分かっていても、現実では連携がうまくいっていない場合が多くあります。情報をうまくシェアできなかったりと、サプライチェーンに摩擦が生まれます。また、紙ベースで作業をすることが多く非常にマニュアルな業界であると言えるでしょう。

 そこで今サプライチェーンが必要としているのはデジタル化です。全ての関連する企業が共に協働し合い、コストを抑え、顧客に寄り添うことができるよう現代の技術を使う必要があるのです。

ペーパーレスのクラウドソリューションでコストカット

――どのような点で競合他社と差別化していますか。

 私たちはクラウドでサービスを提供したパイオニア的存在です。サプライチェーンは長らく無視されてきた歴史があり、他にこのようなサービスを提供する企業がいないので、それ自体が私たちの強みです。

 また、特に現地に赴いて何かセットアップしたりする必要もなく、登録さえすればすぐにサービスを利用することができるので、低コストでもあります。業界に新風を巻き起こしたという意味では、私たち以外に競合他社はいません。

――2015年の立ち上げからこれまでの道のりはどうでしたか。

 立ち上げた当初は、とにかく製品開発に従事し、最初のカスタマーにテストをしてもらい、そのプロセスに長い時間がかかりました。また、最初のカスタマー、出資者を見つけるのも簡単ではありませんでした。初めて製品を使用してくれる企業を見つけた時は、感動の瞬間でした。そこからは、とにかく使用してくれる企業のフィードバックを組み込みながら、製品を改善していくことに時間を費やしました。

 20社ほど顧客が増えたあとは、自分たちの製品の重要性をより感じることができたので、より多くの出資金を集め会社を成長させることに尽力しました。出資をしてくれる投資家に売り込むのも至難の業で、ジェットコースターに乗っているような日々でした。そもそも相手にしてくれないですし、プレゼンテーションを行って良い返事を得たと思っても、結局連絡が来なくなるということもありました。

 最終的に英国から米国に本拠地を移しましたが、米国で少しずつ顧客が増え始めたこと以外に、投資家の多くがシリコンバレーに集中していたことも理由の1つです。そこからコネクションを増やし始め、最終的に出資者を集めることができた時は感慨深かったですね。

――どのような企業と提携していますか。

 ​​ERPを扱う企業と主に提携しています。例えばOracle SAPやMicrosoft Dynamicsを使用している場合、私たちのサービスを追加することができます。また、コンサルティング会社、会計処理を行う企業とも提携しています。

――これまでに約60億円調達していますが、使い道はどのようにお考えですか。

 R&Dとマーケティング・営業の2つです。私たちは既に強い製品を持っています。フィードバックも素晴らしいですし、リテンションも100%近くと非常に高いです。

 ここからはその素晴らしい製品をあらゆる市場に持ち込むことが目標です。たった18ヶ月前までは、英国にしかいませんでしたが、今ではカナダ、欧州全域、そしてシリーズBでオーストラリアから出資を得たので、オーストラリアでも展開中です。私たちのサービスは、世界の物流を変える力がありますが、マーケティングが重要な側面となります。

APACに進出し世界全域をカバー、ゆくゆくはIPOも視野に

――今後の目標や日本進出の可能性について教えてください

 私たちが行うリベート処理や会計処理などの業務は、どの業種、どの会社、どの地域でも共通する業務です。日本でもそれは同じです。現在オーストラリアで展開中なので、アジア地域に少しずつ近づいています。一度進出すれば、ヨーロッパ、アメリカ、そしてアジアと24時間カバーできるようになりますので、日本まであと少しといったところです。

 8月にシリーズBを終えましたが、2022年の目標としては売上増加を目指してより多くのパートナーシップを提携することを目標としています。また、2つ目の製品をラインナップに加える予定です。そして、南半球に進出することで24時間のカスタマーサービスを提供できるようになるので、オペレーションの効率が上がる予定です。

 最終的な目標はIPOですが、もう3年ほどかかるでしょう。いずれにしろ、来年は大きく前進する見込みです。

――最後に読者の皆様へメッセージをお願いします。

 サプライチェーンは本当に長い間放っておかれていました。そして製造元から直接顧客の手に商品を届ける企業がごくわずかです。パートナー同士協力し合わなくてはいけません。顧客のニーズが増え、求めるものもどんどん洗練されてきています。サプライチェーンの問題や在庫不足が取り沙汰される中、今がまさにテクノロジーの力を利用すべき時です。サプライチェーンというより、「デマンドチェーン」と呼ぶ方が正しいかもしれません。デマンドチェーンがダイナミックになる上で、テクノロジーは欠かせないのです。

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