Photo: Antonio Guillem / Shuttersock
Empathyは、愛する家族を亡くした遺族の心理的、法的、経済的な手助けをするデジタルサービスを提供する、イスラエル発のスタートアップ。死は、人生において必ず起きる出来事であるにもかかわらず、ソフトウェアによるイノベーションが展開されていない分野の1つ。そこに目を背けず、人的支援事業を開拓する道を選んだ、共同創業者兼CEOのRon Gura氏に、創業のきっかけや事業内容や今後の事業展開について聞いた。

「愛する人の喪失」。誰もが目を背けてきた市場にイノベーションを

 540時間――EmpathyのWebサイトには、多くのアメリカ人が、愛する人を亡くし、その問題を解決するために費やす時間としてこの数値を上げている。また、悲しみの中にある遺族の68%が身体的な症状に苦しんでいるとも記されている。

 Gura氏は「愛する人の喪失という分野の産業がイノベーションの影響を受けていない理由は、規制や文化、技術によるものでなく、人の本性にあります。皆この避けられない真実を話そうとしないのです。一方で、ほとんどのアメリカ人は、遺言書を持たず、弁護士や会計士を雇う余裕もなく、悲しみの下にさまざまな手続きに追われます。Empathyでは、テクノロジーと人的サポートによって、遺族に安心を提供し、負担を軽減するデジタルコンパニオンを提供しています」と語る。

Ron Gura
Empathy
Co-Founder & CEO
イスラエル出身。2009年にソーシャルコマースのスタートアップであるThe Gifts Projectをテルアビブで起業し2011年eBayに売却。eBayのイノベーションセンターに勤務した後は、ベンチャーキャピタルなどで起業支援をおこなうなどしてきた。The Gifts Project時代から共に仕事をしてきた共同創業者でCTOのYonatan Bergman氏とともに2020年7月にEmpathyを創業する。

 Gura氏は、イスラエル出身で、2009年にグループギフトやグループ決済を行うスタートアップを起業し2011年eBayに売却した経歴を持つ。その後はテルアビブのベンチャーキャピタルなどで起業支援を行うなどしてきた。イスラエルから渡米したスタッフの身内に不幸があり、悲しみのなかで行うさまざまな手続きの困難さに直面したことを知り、Empathyの事業を着想し、2020年の7月に創業した。

 Empathyのサービスは、まずはアメリカ市場向けに展開されている。スマートフォンのアプリで消費者に提供され、個人的な悲しみを癒す術や、財産、遺言の手続き、遺言書がない場合の手続き、年金や生命保険、社会保障などさまざまな手続きについてナビゲートしていく。

 デジタルテクノロジーを活用し、情報の構造化や財務情報の取り扱い、手数料や税金、債務、受益者の管理、仕事を割り当てたい家族間の調整、重要書類のデジタル化などの管理ツールが提供される。Gura氏は「遺族のためのGPSのようなもので、次に何をするべきかを示し、導きます」と説明した。

Image: Empathy

ソフトウェアへの投資で、アメリカ市場での顧客基盤を構築

 ユーザー登録から30日は無料で利用でき、その後も継続的に使いたい場合は、65ドルの支払いで永続的にサービスを受けることができる。追加の料金は発生しない。

 エンドユーザー以外からの収入源は、今後検証を行う予定で、葬儀会社や病院、生命保険、従業員の福利厚生などの分野で米国をリードする企業との話し合いを行っている。Gura氏は「基本的で合理的なプロセスでご家族をサポートできるよう、さまざまなパートナーのサービスを統合します。BtoBサービスやパートナーについては、今後数ヶ月のうちに発表する予定です」と述べた。

 シードラウンドで調達した金額は、1300万ドル。この使途は、サービスの中核となるソフトウェア開発に投資する。Gura氏は「大手の生命保険会社や葬儀社でさえ、手続きの手間やお金を節約し、ストレスを軽減するためのソフトウェアエンジニアリングにこれほどの投資をしたところはないと思います。私たちが今やるべきことは、1セント残らず技術開発に投資して市場に投入し、Empathyを必要とする人たちに、その負担を軽減する存在であることを示すことです」と語った。

ユーザーの時間やお金の節約、ストレスの軽減を事業の指標とする

 創業したばかりとあって、当初2年ほどはアメリカ市場に専念する。だが、愛する人の喪失は世界中どの人にも訪れる。アメリカ市場で成功したあとは、グローバル市場への展開も視野に入れている。日本をはじめ、アメリカ以外でのビジネス展開については、文化や法的手続き、物流なども異なるため、さまざまな調整が必要だ。

 Gura氏によると、既に日本の生命保険会社からコンタクトがあったという。将来日本市場への展開ができる時期が来れば、介護施設や葬儀関連企業の福利厚生などを展開するプレイヤーなどとも話し合いをしていくとしている。

 Empathyの今後数ヶ月の目標やビジョンについて、Gura氏は次のようにコメントした。「私たちは営利団体です。ですから、達成すべき主な指標について、責任を持つ必要があります。どんな製品や機能、コンテンツであっても、それが家族にとって価値のあるものであると確信できるものでなければなりません。遺族の方々の時間、お金の節約や、ストレスの軽減が自分たちを評価する指標になるのです。(ユーザー数や売上高など)具体的な目標については今の段階でお伝えできませんが、2022年の第一四半期までには、かなりの市場シェアを獲得する計画があることはお伝えしておきます」



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