暗号化により高いセキュリティを確保
―御社の事業内容を教えてください。
「DocuSign」はいつでも、どこでも、どのデバイスからも書類の署名・送付・管理を可能にするクラウドサービスです。これまで一般的だった書類の印刷・ファックス・スキャン・配達をする必要がなくなり、安全かつ効率的に業務を進められるようになります。現在、世界188ヵ国、8500万人を超えるユーザーと22万5千社超の企業に利用していただいています。
Image: DocuSign
―セキュリティ面を気にする企業も多いと思いますが、その点についてはどうでしょうか。
書類のデータを暗号化しており、社内外を問わず、書類に記入されている情報は安全かつ堅固に保管されます。そのセキュリティレベルは非常に高く、銀行でのそれと同程度です。実際、「DocuSign」上では数多くの金融取引が行われており、そのセキュリティの高さが証明されています。
また、これまで紙に印刷してペンやハンコで処理していたものをオンラインで行うことで、書類が外部に流出することを物理的に防ぐことができます。
デジタルを使ったビジネス・組織の変革に貢献
―どうやって8500万人を超えるユーザーを獲得してきたのでしょうか。
アメリカで最初に着手したのは、不動産分野でした。不動産分野はDocuSignにとって、うってつけのマーケットでした。なぜなら不動産取引には、とても時間がかかる上に、非常に多くの手続きが必要だったからです。そのためDocuSignの導入によって、オンライン上で取引できるようになり、非常に業務を効率化することができたのです。そして不動産分野において顧客満足度が高まり評判が広まっていくと、SalesforceやMicrosoft、Googleなどのビジネスサービスとも連携され、知名度が格段に高まりました。
次に着手した分野は、小規模な銀行、続いてBank of America、Morgan Stanley、Goldman Sachsなど大手金融機関でした。金融機関に導入されると、金融機関の顧客である企業も利用を始めました。そういった一つ一つの取引が広がり、8500万名以上のユーザー開拓につながっていったのです。
―グローバルでの成長理由は何だと考えていますか。
現在、世界各国のCEOにとって共通の重要課題は「デジタル・トランスフォーメーション」、つまりデジタルを使ったビジネス・組織の変革です。そして私たちのサービスは、デジタル・トランスフォーメーションに大きく関わるサービスを提供できており、世界中でその意義を認められているのです。だからこそ世界に広がっているのだと思います。
もちろん、われわれがグローバルにサービスを提供していく中では、各国独自の取引様式、文化の違いに対応しなければなりません。各国のCEOとディスカッションする中で、どのような取引形態の違いがあるのか、どのように対応しなくてはいけないのかを理解し、成長してきたと言えます。
日本の“ハンコ文化”と融合
―2015年に日本に進出しています。日本進出における課題は何ですか。
日本企業特有の文化を踏まえて、サービスを適応させることです。トヨタ、ソニーなど、海外に出ている日系企業と接点を持つ中で、私たちはさまざまな違いを学んできました。また、NTTファイナンスや三井物産、三井情報、リクルートホールディングスなどの投資家からも協力を得て、日本社会になじむサービスにしようと考えています。
その取り組みのひとつが、シヤチハタとの業務提携です。日本はサイン文化ではなく印鑑文化です。DocuSignにてシヤチハタの電子印鑑による認証ができるようにしています。電子署名とアナログな捺印を融合させることで、日本の文化に合わせたビジネスを構築しようとしているわけです。
イノベーションを起こすために必要なこと
―御社は会社設立から13年が経ち、5億ドルもの資金調達をしています。一般的に「スタートアップ」と呼ばれる企業規模を超えているかもしれませんが、自社をスタートアップと捉えていますか?
私にとって「スタートアップ」の定義は、企業規模ではありません。チャレンジとイノベーションを繰り返すこと、それがスタートアップの定義だと思います。そういう意味では、当社は依然としてスタートアップです。
イノベーションとは、何もないところから何かを生み出し、そしてたゆまぬ実行によって世界を変えることです。世界基準の商品、チーム、投資家によって、世界を変えていきます。そのために必要なのは、まずさまざまな企業とのパートナーシップ。パートナーシップは、ビジネスにおいて一番パワフルなテクノロジーアドバンテージだと考えています。そして何より大事なのは、サービスへの愛熱意。私たちだけでなく、DocuSignを使う皆様に愛されるサービスをつくっていきたいと思います。