バイオテクノロジーを工業分野でもっと活用できるチャンスを
―これまでの経歴を教えて下さい。
コロラド大学ボルダー校で化学工学の博士号を取得後、製薬向けのバイオテクノロジーを扱う会社で勤めました。その後、コロラド大学発のスタートアップ企業であるOPX Bio Technologiesにて最初の社員となりました。私にとって、そこから工業用バイオテクノロジー、つまり治療薬とは対照的に化学品に近いものを作るためのバイオテクノロジー分野でのキャリアがスタートしたのです。
そして2014年に、デューク大学の医用生体工学の教授で私の長年の友人でもあるMike Lynchと共に、DMC Biotechnologiesを立ち上げました。
―会社を設立した経緯を教えて下さい。
私たちは、バイオテクノロジーで成し遂げられることはもっとあると感じていました。バイオテクノロジーが製薬分野でどのように成功するかは既に実証されています。そして近年、バイオテクノロジーの活用方法は目覚ましい進歩を遂げており、工業分野でもっと活用できるチャンスがあるのです。つまり、化学品や素材、他の化学物質では得られないような種類の製品を作ることが可能です。
ただ、以前の会社では、バイオプロセスが抱える問題点やスケール化に対する能力などの課題に日々直面し、フラストレーションを感じる経験をしていました。そうした課題に取り組むことを目的として、DMCという技術を開発したのです。
主力商品はL-アラニン。製品やスケールを問わない標準的な発酵プロセスを確立
―DMCという技術について詳しく説明していただけますか?
当社の登録商標でもあるDMC技術は、標準化された2段階の発酵プロセスを組み合わせた技術プラットフォームです。まず、微生物の増殖と代謝産物の生産を切り離し、さらに、遺伝子抑制と標的タンパク質分解を動的に採用することで代謝物の生合成を最適化する遺伝子ネットワークを作り出します。
従来の発酵プロセスで用いられる微生物は、発酵プロセスを取り巻く各種条件に対して敏感でしたし、新たな菌株や新たなスケールごとに数多くの発酵プロセスサイクルを必要とするのが一般的でした。これに対して、DMC技術は環境要因に対する微生物の反応を制限することで、現実世界の環境におけるバイオプロセスを非常に安定的なものにできるのです。
標準化されたプロセスであると同時に、工業的なスケールで見られるような条件に耐えることができるプロセスを持つことで、予測可能性というアイデアが生まれたのです。
技術開発に当たっては、「工業的発酵プロセスとはどのようなものであるべきか?」という最終的な形を念頭に置いてスタートしました。それはつまり、温度、pH、溶存酸素、その他の環境要因をどう設定するかを考えるということです。そこから逆算する形で、どのような遺伝子工学や代謝工学のツールを構築する必要があるのかという課題に取り組みました。
―御社の主力製品はアミノ酸ですね?
私たちの主力製品は、アミノ酸の一種であるL-アラニンです。L-アラニンは天然アミノ酸で、ホームケア製品や医薬品、サプリメントなどの生産に使用されています。L-アラニンを得るには、発酵に基づくルートがあるのです。
現在、L-アラニンを製造している会社のほとんどは中国にあります。ある地域に限定して供給することは、最善の策とは言えません。ですので、サプライチェーンを多様化させることに本当の価値があるのです。また、より持続可能で二酸化炭素(CO2)排出量の少ない方法で生産できることも、当社の製品の大きな価値と言えます。
―競合相手と比較して御社の強み、違いはどこでしょうか?
私たちは競合他社について、2つのレベルで考えています。例えば、L-アラニンの場合、2つの異なる生産手法があり、石油製品からスタートする化学的な手法、もうひとつはバイオベース、つまり発酵による手法です。まず、化学的な手法と比較すると、コスト面でも脱炭素の観点からも圧倒的に優位にあります。また、他のバイオベースの手法と比較してもコスト面で競争力があり、ライフサイクルアセスメント(LCA)の面でも私たちは優れています。
合成生物学や代謝工学に関しては、確かに多くの活動やプレーヤーが存在しますが、私たちと同じような方法でこの問題に取り組んでいるところはありません。つまり、生物学のエンジニアリングを試みている競合他社のほとんどは、非常に狭い範囲に焦点を絞った技術しか持っていないのに対し、私たちは生物学をエンジニアリングするためには何が必要かという全体的な視点を持ち、「コンセプトから商業化までをより早く実現するためのシステム全体をどのように構築するか」ということに取り組んでいる、この分野では唯一と言っても過言ではない企業なのです。
image: DMC Biotechnologies HP
東洋紡、Cibus Fundなどから資金調達 日本市場での可能性も視野
―2021年のシリーズBまでの過去5回のラウンドで、合計5,300万ドルの資金調達に成功しています。投資家を引き付ける御社の魅力についてどう思われますか?
シリーズBの資金調達では、複数の戦略的投資家が新たに参加しました。日本の東洋紡からも出資を得ています。資金調達が成功したのは、バイオテクノロジーの課題に取り組んでいる私たちのメッセージが、彼らの心に響いたからだと思います。
20年前とは異なる大きなトレンドとして、現在多くの化学品、特に顧客に対応している化学品会社が脱炭素化に真に取り組んでいます。私たちに投資してくれている大手企業などは、将来的にCO2排出のネットゼロを実現すると公言していますが、単に目標を掲げるだけでなく、それを実現するために実際に私たちに資金を投入しているのでしょう。大手の化学会社から支持を得ることは、業界にとっても追い風になると思います。
―資金調達の使い道について教えて下さい。
優秀な人材の確保は重要なことです。シリーズB以前の従業員数は12人ほどでしたが、ここ半年で3倍の規模になり、現在は40人弱です。人を雇うことにより、より多くのプロジェクトを引き受けることができるようになりました。
現在2つのプロジェクトがあり、1つは消費者向けの広範な商品群に使用される新規材料、もうひとつは、香料化合物です。この化合物は、皆さんもご存知の化合物です。私たちはパイプラインを拡大し、様々な製品に取り組み、戦略的パートナーとの提携を拡大しています。また、L-アラニンの商業化も進めています。
―前述のとおり、日本企業の東洋紡も2021年12月のシリーズBに参加しています。また、日本政府もバイオエコノミー戦略を立てていることも鑑みて、日本市場に期待することや、今後の進出の予定などはありますか?
以前、栄養学や発酵化学において有名な日本の大企業とのプロジェクトがありました。その企業とのパートナーシップは、間違いなくこれまでで最高のものでした。彼らはその科学的知見と、仕事の透明性や仕事の進め方において非常に優れた存在でした。残念なことに、そのプロジェクトでは戦略的な方向性が変わってしまいましたが、関係構築と技術の面では非常に成功しました。また彼らや他の日本企業と仕事をする機会があればとても嬉しく思います。
日本企業は非常に透明性の高い仕事をします。日本において戦略的に私たちの技術を展開する大きなチャンスを期待できると同時に、私たちのような米国の小さな企業にとって、日本企業の誰に話をすればいいのかを見極めることはとても難しい事でもありますが、日本で仕事をするよいチャンスはたくさんあると思っています。
―最後に御社の長期的なビジョンをお聞かせください。
私たちはバイオテクノロジーでより良いものを作ろうとしています。バイオテクノロジーには、日常的な化学物質や素材の製造方法を変える大きな可能性があると思います。そして、私たちはそれを今後数年のうちに現実のものにしようとしています。これは非常に大きなチャンスであると同時に、大きな挑戦でもあります。そして、それを実現するための最善の方法は、パートナーシップを組み合わせることだと思います。私たちの技術に興味のある企業と協力しながら、私たちが独自に開発した技術をさらに前進させることです。