大企業のような保険をフリーランスにも
―Decentのサービスはどのようなものですか。
個人事業主や零細企業が一緒になってヘルスケア費用を節約できるようにしています。既存のヘルスケア業界は、もちろん誰とでも契約はしてくれますが、リスクが高いと判断されれば保険料が高くなってしまいます。
大企業はスケールができるのでリスクを負うことができるのですが、小規模事業者だとこれができないので、それを一緒になってやろうというわけです。私たちは保険会社ではなく、事務代行会社にあたります。私たちは直接リスクを負いませんし、多額の料金を課金することもしません。
―これまでは同じような枠組みはなかったのでしょうか。
最近、米国でAssociation Health Plan Lawという新しい法制度ができ、フリーランスや個人事業主、独立した契約主体が共同でこうしたことができるようになったのです。一方で保険に全く加入しないと税金が課されるようにもなりました。フリーで働く人たちはどんどん増えていて、特に盛り上がっているテキサス州オースティンでサービスをはじめました。
―スケールさせるメリットは何でしょうか。
大きなネットワークを作ることで、リスクが分散されます。私たちはデータも集めていて、どこの病院ではいくらかかったのか、同じ地域の別の病院ではいくらだったのかといった情報の共有もしています。救急搬送など緊急性を要する場合はとにかく近くの受け入れ可能なところに行くしかありませんが、たとえばMRIで検査する必要があるけれど数百メートル離れた病院に行ったら同じ検査でも価格が1000ドル違うということも起こりえます。
情報の透明性を上げることで、費用節約ができます。決済や手続きはすべて技術によって自動化しており、ここの費用も抑えることでユーザーに利益をもたらすことができます。
Image: Decent
米国ヘルスケアの歪んだインセンティブ構造
―どうしてこのようなサービスが必要だと思ったのですか。
私自身、医者の家庭で育ちました。私の家族はGroup Health Cooperativeと呼ばれる65万人の加入者がいるHMOで働いていたのですが、小さいころから、父が家に帰ってきては「保険会社側は本当に患者のためのことを考えていない」と言うのを聞いていました。ヘルスケアというのは米国だけで3兆ドルの市場で、そこからさまざまな方法で儲けている人がいるわけですがここには歪んだインセンティブ構造が働いています。
―どのように歪んでいるのでしょうか。
Medical loss ratioと呼ばれるものがあって、実際のケアにかかるコストの15〜20%は手続きに消えていきます。人々が病気になったり医療費が上がったりすればするほど、儲かる人たちがいるわけです。私たちはこのロスを減らしたいと思っています。
医師に「患者を治す」インセンティブを働かせる
―インセンティブ構造はどう変えることができますか。
Direct Primary Careというケアモデルがあります。これは医師が月額で無制限にプライマリーケアを提供するものです。診療のたびに料金が発生する仕組みだと、医療費の増大につながります。でも、Direct Primary Careでは、医師は患者にはできるだけ早く治ってもらって、頻繁に来ないでほしいというインセンティブが働きます。私たちはパートナーの医師たちに、この枠組みで支払いをしています。
―今後海外展開の可能性はありますか。
米国だけではなく国際的に展開していきたいと思います。米国の外には、そもそもこうした小規模事業者が組合を作ることに規制がない国もありますから、そうした国ではやりやすいと思います。技術面で他国展開もできるように対応していくつもりです。