「非IT企業」でもイノベーティブなアプリの構築が可能に
―ー御社はどのような事業を展開しているのでしょうか?
Crowdboticsは、事業者向けのアプリ構築を支援する、プラットフォームを構築しています。当社のミッションは「アイデアを、コードに落とし込む」ことです。
今日、金融機関や製造業、医療関係、政府機関でさえも「ソフトウェア・カンパニー」になる必要があると言われるほど、ソフトウェアの重要性が増すばかりです。エンドユーザーに対する自社のサービスの拡大、利便性の向上はもちろん、社内のマーケティングチームなどさまざまな自社部門に対しても、ソフトウェアを導入する必要が出てきています。
しかし、ITを事業の主な領域にしていない企業にとっては、自前のエンジニアが少なく、ノウハウも不足しているため、ソフトウェア構築は容易なものではありません。
Crowdboticsは、そんな「非IT企業」、中でも金融機関や物流業界、ヘルスケア業界、製造業に軸足を置く大企業に向けて「簡単に」「速く」「10倍安く」ソフトウェアをつくるサービスを展開しています。
さて、それではCrowdboticsがどのようにソフトウェアの構築支援をしているのかご説明します。その仕組みを一言で表現すると「実際に使用されているコードを『再利用』することで、ソフトウェア発展のライフサイクルを加速させる」ことになります。Crowdboticsでは、ノーコードやローコードとは違う、実際のコードを再利用しています。
例えばカメラのインターフェイスやカスタマーデータベース、ヘルスケアシステムのデータベースなど、既存のアプリケーションのほとんどが、異なるコードをもとに構築されていると思われがちですが、実は多くは類似した、あるいは同じコードを用いてつくられているのです。
Crowdboticsは、これらの普遍性のあるコードを「モジュール」と呼び、顧客に提供します。顧客はこれまで自前のエンジニアがイチからコードを書いていたところを、当社のプラットフォームを使うことで、平均約70%「モジュール」からのコードでアプリを作成できるようになっています。つまり、彼らはより速くアプリをローンチすることができるようになった上に、エンジニアの組織力(人員数)に縛られず、イノベーティブなアプリの構築が可能になったのです。
「コード」にこだわる理由 これまで2万以上のアプリがローンチ
―ーノーコードやローコードではなく、コードの「再利用」を採用した理由を教えてください。
顧客企業のエンジニアが実際にコードを書くように、Crowdboticsを使用できるようにするためです。ローコードプラットフォームも多くありますが、実際にソフトウェアをつくるとなると、ローコードでは自由度や透明性が低いのが問題となる場合が多いのが現実です。
Crowdboticsの戦略は「コード・ファースト」です。実際のコードを使い、視覚的に編集できるので、エンジニアにとっては、インターフェイスが使いやすいですし、編集などもしやすいのです。
Crowdboticsでは、顧客やオープンソースから集めた、膨大な量のコードモジュールを集積しています。また、このモジュールはAWSなどのクラウドアプリケーションをはじめ、Salesforce、CRMなどのAPIなど、フロント・エンドにかかわらず応用ができる点と、汎用性の高さも強みになっています。
―ーCrowdboticsにはどの程度の需要があるのでしょうか。
当社のプラットフォームを使い、これまで2万以上のアプリがローンチされています。アプリは、病院で使用するものから日々の銀行送金、フライトの管理など、非常に高度なものから日常的なものまで、幅広い領域で活用されています。
売上高も毎年、前年比で3倍増を記録するなど好調です。
米空軍もアプリに使用 調達した資金で規模拡大へ
―ーCrowdboticsを使用した成功事例を教えてください。
アメリカ政府(米空軍)も、当社のプラットフォームを利用していますので、その例をお伝えしましょう。彼らはCrowdboticsを使い、パイロットに向けた、安全な航空機操縦のアプリを作りました。具体的には、すべてのフライトを記録・追跡し、それをAIを使って分析した上で、パイロットに共有し、より安全なフライトを実現するためのアプリです。
これは一見とても高度で複雑なアプリに見えますし、実際、複雑ではあるのですが、Crowdbotics内ではエンジニアでない人間がこうしたアプリを計画し、実際につくることができるのです。このアプリ作成時に、当社はフライトのデータやビジュアライゼーション、AIによる分析に使われる「モジュール」を提供しました。
それ以外にも、銀行も多くのアプリを立ち上げています。例えば、銀行のAPIに、仮想通貨関連のサービスや新たな機能を統合したアプリなどです。
―ー御社はシリコンバレーのVC、New Enterprise Associatesなどから累計5,690万ドルの資金調達に成功しています。資金の使い道を教えてください。
資金は主に以下3つの領域に投入していきます。1つ目は、会社の規模拡大。当社はすでに多くの多国籍企業を顧客に抱えていて、彼らは素早いソリューションの提供を求めています。そうしたニーズに応えるために、人員の拡大を含め、Crowdboticsを大きくしていきます。
2つ目は、日本とヨーロッパ市場への本格的な進出です。現在、当社の顧客の大部分がアメリカ企業ですが、今後は国外に進出していきます。日本とヨーロッパへの営業体制の強化にも、資金を投じていきます。
最後に、新たなテクノロジーをCrowdboticsに統合させます。特に、AIに対する当社の興味は大きく、AIを使って新たな機能を追加させていく予定です。
Image:Crowdbotics
日本市場は「魅力的」 共同開発などパートナーシップにも前向き
―ー日本市場をどのように見ていますか?
当社にはすでに日本の多国籍企業(製造業)などのクライアントがいます。日本市場は当社にとって重要な市場だと考えています。なぜなら、第一に、彼らは伝統的に効率性とイノベーションを好むからです。Crowdboticsのモジュールを使った標準化と最適化という強みは、日本企業に対する大きなアピールとなるでしょう。
第二に、日本市場も他国同様、ソフトウェアエンジニアの不足という問題に悩まされているからです。アプリをはじめとしたソフトウェアに対する需要が年々大きくなっているなか、それを開発する人材の希少性も高まり、人件費も高騰しています。そうした中では、ソフトウェアエンジニアを助け、エンジニアでない人間でもアプリを作成できる当社のプラットフォームに対する期待は今後も大きくなっていくでしょう。
業界としては、アメリカ市場同様、製造業や金融業、ヘルスケアで事業を展開している日本企業に関心があるほか、自動車業界や航空業界なども重要な見込み客だと考えています。
―ー日本の大企業との協業において、求めている形態を教えてください。
共同開発が最も興味深い形態です。アメリカ以外の当社の顧客、特にヨーロッパではこの形態が最も多く、成果を残しているからです。日本市場への本格参入の仕方としては、少数のライトハウスカスタマーとまずは協業し、それからその顧客が属する業界に入り込んでいく、という戦術が適当だと考えています。