腎臓病の予防・進行抑止に重きを置いた支援サービス
―まずは御社のサービス内容を教えてください。
我々は、腎臓病患者の負担軽減をミッションとしています。もちろん、患者本人だけでなく、その家族や保険会社、医療提供者など、病気と向き合うすべての人の力になりたいと考えています。当社では主に腎不全予備軍の方、あるいはすでに腎不全の診断を受けた方を対象にしています。
今は、腎臓病が発見された時点で、多くの場合は腎不全を防ぐことができない状況です。また、腎不全まで至っていない方の場合でも、今の医療システムでは治療の施しようがない、ということも少なくありません。過去50年間、アメリカでは腎不全を予防するのではなく、腎不全になってから初めて支援を受けられる、というケースがとても多いのです。
当社ではそんな現状を打開すべく、できるだけ早く慢性の腎臓病を発見し、その進行を抑えるための支援を実施しています。今の医療界は、病状が悪化した患者の治療費で成立している傾向がありますが、我々は腎不全を予防することに重きを置いています。
もちろん、病状が進行した場合でも、可能な限り自宅で普段通りの生活を送るため、病状がコントロールできるようサポートしていきます。腎移植や透析を選択肢として考えなければならないケースも含め、我々はあらゆる患者様に対して総合的なケアを提供します。
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―具体的にどのようなサービスを提供しているのでしょうか。
まずは患者が腎臓の専門医の診察を受けられるよう手配します。ただ、専門医と会うのは多くても月に1回程度で、それ以外の期間は看護師やソーシャルワーカー、薬剤師など、多方面の医療関係者でサポート体制を組みます。彼らが連携して腎臓疾患の進行抑制に努めます。
また、メンタル面での支援として、腎臓病の経験者とコミュニケーションをとる機会も提供します。中には移植や透析を経験されている方もいらっしゃいますから、色々話を聞くことで、恐怖心や不安感を軽減できます。もちろんオンラインコミュニティも整備しています。
透析が必要になった段階で、専門機関での治療プログラムを構築し、自宅での治療を実現するための基盤づくりをサポートします。つまり、我々はあらゆる角度から腎臓病と向き合う方々に最適な医療サービスを提供しているのです。
専門機関との連携、豊富なエビデンス、高度なテクノロジーが強み
―適切な医療を提供するには、患者さんの医療データ分析が不可欠だと思いますが、どこかの機関に依頼しているのでしょうか。
当社のチーフメディカルオフィサーを務めているのは、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のカルメン・ペラルタ医師です。カルメン氏は腎臓専門の調査機関を自ら立ち上げ、世界中の腎臓病治療に貢献しており、当社のプログラムで腎不全の危険性を判断する際も、彼女が構築してきたモデルがベースになっています。
具体的には、血清クレアチン濃度・尿たんぱく値・システインCという3要素を測定することで、腎不全の危険性を判断しています。その結果、リスクが低い患者には外科医による治療を受けるようすすめ、高リスク患者には我々のプログラムに則って対応することになります。
―専門的な業界だと思いますが、競合他社にはない御社の強みを教えてください。
第一に、我々と同じ立ち位置にいる企業自体が少ないと思います。たいていは透析など、病状がすすんでしまった患者向けのサービスが多数派になっていますから。いくつかのスタートアップが当社と似たようなことをやろうとしていますが、当社と比較してエビデンスや経験値が足りません。
また、当社が構築したプラットフォームは素晴らしい技術を誇っており、そのスケーラビリティのおかげで一人ひとりに心の通ったサービスを提供できるのです。私たちのように栄養士やソーシャルワーカー、薬剤師、患者コミュニティ、オンラインコミュニケーションなど、多角的なサービスを提供している同業者もいますが、当社ほど大規模展開している会社はありません。大勢の人を対象に、それぞれに合った親身なサービスを提供することが当社の強みです。
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CEOの体験から、「世界中の患者の健康維持に注力する」と誓うCricket Health
―画期的な事業ですが、どのような経緯でこの事業を立ち上げることになったのですか。
私がこの会社を立ち上げたのは、今から約4年前です。それ以前は、長年LinkedInの経営陣として、グローバル展開に尽力してきました。2014年に同社を離れてから、私は「何か人々の生活に大きくかかわる問題と闘いたい」という思いを抱くようになりました。そこで、多くの資金がつぎ込まれているにも関わらず、実りの少ない事業を探し始めました。そんな時、腎臓病患者の現状を知ったのです。
腎臓病というのは病状がある程度進まないと自覚症状が出にくく、特に糖尿病や高血圧の人は発見が遅れる傾向があるというのです。私は、祖父が腎臓病で苦しんでいる姿を見た経験もあるので、これこそ自分がやるべきことだと思いました。
システムやソフトウェアのスタートアップと違い、医療関連の会社は人の命に関わる仕事ですから、そう簡単に進むものではありません。何度も調査を重ね、データやエビデンスを集めなければなりませんでした。今は大きな結果が出せるようになってきたので、今後どのように拡大していくのか、わくわくしています。
―拡大していく、ということは海外展開も視野に入っているのでしょうか?
ゆくゆくはそうしたいですね。インドや中国など、医療ケアが足りていない国はたくさんありますから。ただ、しばらくはアメリカに注力したいと思っています。医療は国の制度や法律など、いろいろと考えなければならないことがたくさんありますから。世界進出について考え始めるのは、早くても3年から5年後といった感じです。
―最後に御社の今後のビジョンを聞かせてください。
私たちの使命は腎臓病患者の負担を軽減することです。10年後、透析治療ではなく腎不全の予防がビジネスの大部分を占めるようになり、「患者さんの健康を維持することに注力したい」という約束を果たすことができたらいいですね。その時は世界中の何千、何万人規模の人たちの支えになりたいと思います。