目次
・債権回収の手法にデータを活用
・インド経済の成長とともに需要も拡大
・デジタル化が難しいと思われていた分野に革新を
債権回収の手法にデータを活用
―これまでの経歴と創業の経緯を教えてください。
私はインドのIndian Institute of Technology Delhiという大学を卒業し、そこで主にエンジニアリングを学びました。卒業後は、ドイツ銀行で働き、オプション取引業務などに従事しました。その後、さらに知識を深めるために、金融リスク管理(FRM)や投資業界で重要な資格であるCFA(チャータード・ファイナンシャル・アナリスト)を取得しました。
ドイツ銀行での経験を経て、ニューヨークに本社を置く投資会社のBlackRockに移りました。こうして、エンジニアリングの専門知識と金融機関での経験が重なり、フィンテック分野に関心を持つようになったのです。インドでは信用供与に大きな問題があり、信用を深く根付かせることで大きな可能性が開かれると感じました。政府も経済成長を促進するために、この問題に注目しています。
しかし、与信後の債権回収に関しては、債権者の自宅へ出向いて回収するような、旧来の方法が用いられていました。データを用いたアンダーライティング(リスクを評価し、そのリスクに基づいてローンの条件や保険料を決定するプロセス)やリスク管理のような手法が、債権回収にはあまり用いられていませんでした。私たちは、債権回収の効率が良くなれば、さらなる融資につながると考えました。2019年に起業し、2020年9月にサービスを開始しました。これまでにインドで100以上の企業や団体がこのプラットフォームを利用しています。
―どのようなサービスを提供していますか。
私たちが提供しているのは、純粋なSaaSプラットフォームです。貸し手がプラットフォームに参加し、コール業務などのチームを統合して、戦略を定義して実行を支援します。具体的には、債権回収に関する督促のルールを定義し、どの債務者にどんなメッセージを送るか、どのような手段なら債務者が反応するかを自動的に判断するロジックをプラットフォーム上で構築できます。従来は手動で行っていた督促の判断を自動化できます。債務者がどんな基準を満たしているかについては、応答手段の種類、地理的な条件などを考慮に入れた22の属性を元に、最適なロジックを定義できます。
また、プレディクティブ・ダイアル機能も内蔵されていて、必要に応じて、いつ・誰に・どの頻度で電話をかけるを決定し、会話を始めることができます。さらに、法的手続きの開始や通知の送信など、プラットフォーム自体で行うことができる法的モジュールも備えています。最終段階として、訪問が必要な場合は、フィールドアプリケーションと統合し、コンプライアンス関連の監視も行います。
このプラットフォームは、Eメール、SMS、WhatsApp、音声サポートなどを通じての通知などの送信から、顧客レベルでどの戦略が効果的かをスコアリングし、ダイヤリングや法的手続きなどの戦略を実行するまで、債権回収の全プロセスをカバーしています。また、債務者の反応を知るための強力なフィードバックループも提供しており、複数のチームが債務者を追跡する場合でも、一貫した経験を提供します。
債務者の状況をチーム全体で共有できるため、異なるメンバーが債務者と同じ会話を繰り返す必要がなくなります。これらの機能がプラットフォーム上で完結し、効率的な債権回収プロセスをサポートします。料金モデルは、アカウントごとの手数料、成功報酬、またはユーザーごとの手数料を基本としています。
image: Credgenics HP
インド経済の成長とともに需要も拡大
―債権回収の効率化についてのロジックはどのような考え方で実現していますか。
債権回収の成果測定は比較的単純で、例えば、1ドルを使って10ドルを回収するケースでは、コストと回収額の2つの変数を最適化することができます。コストの最適化では、回収額10ドルを固定したまま、SMSやEメール、現地でのコールなどデジタル手法を導入して費用を減らすことを目指します。この方法では、回収額10ドルは変わりませんが、かかる費用を1ドルから0.5ドルなどへと削減することを目標に実行します。
もう一つのアプローチは、支出を増やして回収額を増加させることです。かける費用を1.5ドルに増やした場合、回収できる金額が10ドルから14ドルや15ドルに上がる可能性があります。追加の50セントの支出で、以前には達成できなかった金額の追加回収が実現することもあるのです。
どちらのアプローチを採用するかは、コストの削減を重視するか、全体的な回収額を最大化するかに依存します。私たちは複数の貸し手とのケーススタディを通じて、コスト削減や解決率の向上を常に行っています。
―事業の成長性を示すデータなどはありますか。
顧客数に関しては、インドとインドネシアで100社以上と契約しています。現在、私たちのプラットフォームで取り扱っているアクティブなローンアカウントの数は月間で約1,000万件から1,100万件です。2023年におけるローン総額は約600億ドルで、月間では約50億ドルの規模です。
資金調達に関しては、これまでに3回のラウンドで合計約7500万ドルを調達し、直近のラウンドでは評価額が約3億4000万ドルでした。
インドでは、貸し出しの成長率が最大20%に達している一方、債権回収に関する問題の解決策が十分でないため、私たちは急速に成長しています。私たちは多機能モジュールを開発しており、各モジュールには異なる競合が存在します。例えば、ある機能ではSalesforceのような大手企業と競合することもありますし、通信部門ではSMSやEメールサービスを提供する企業が競合となります。法的手続きのモジュールには競合がいないといった具合です。しかし、システム全体としては特定の競合はいないと考えています。同じようなサービスを個別にカスタムメイドするようなITサービス会社がある程度でしょう。
デジタル化が難しいと思われていた分野に革新を
―次のステップを教えてください。また、日本企業とのパートナーシップについてはどうお考えですか。
私たちはまず、調達資金をどう効果的に活用するかを模索しています。隣接分野の企業、特にリスクスコアリングに役立つような企業を探し、銀行に提供可能な新サービスを開発することに集中しています。成長を促進するために、顧客向けのオファリングを拡大できる買収先候補を探しています。また、インド以外の地域、特にインドネシア市場に進出し、すでにいくつかの収益を上げています。インドネシアでは7人のチームと国内マネージャーが配置されており、この地域での拡大に注力しています。
現在、私たちの技術は進化しており、多様な要件に基づく包括的なプロダクトロードマップを展開しています。特に、債権回収の全プロセスを完遂する方法に焦点を当てています。これには法的側面や担保付き資産のオークションや購入サポートが含まれ、名目上の損失を減少させるのに重要です。
また、債権回収データを基にアンダーライティングに活用する方法を模索しています。例えば、インドの特定地域で回収成績が低い場合、そのデータを新しい市場セグメントや地域でのローン承認や条件設定に使用できます。このアプローチにより、全サイクルを完結させることが可能です。さらに、製品主導の開発とともに、顧客のニーズに合わせた新機能の開発にも取り組んでいます。必要な機能と不要な機能を見極め、開発計画を進めています。
現在、日本企業からの追加の資金調達は行っていませんが、シナジーを生むような機会についてはオープンです。また、日本のテクノロジー関連会社との提携の可能性もありますが、今のところ自社の約200人の技術チームでプラットフォームを開発していますので、アウトソーシングは考えていません。
―長期ビジョンと、将来のパートナーや顧客へのメッセージをお願いします。
私たちの長期的な目標は、あらゆるお金の回収が私たちのプラットフォームを通じて行われるようにすることです。この目標を達成するために、貸し手が十分な流動性を持ってお金を貸し出すことが鍵となります。
現在、政府や民間銀行が直面している主な課題は、コストを削減しつつ効率的に債権回収する方法を見つけることです。この方法により、少額ローンの提供も可能になる可能性があります。現在、顧客獲得コストや回収コストが高いため、小額ローンの提供は経済的に意味がないと考えられています。データを活用してこれらのコストを削減できれば、信用供与の浸透が速まり、貸し手はより安心して積極的に貸し出しを行うことができるでしょう。
私たちのビジョンは、このイノベーションをより速く、広く浸透させることです。そのためには、新しい技術とともに進化し、協力を通じてお互いの成長を支援することが重要だと考えています。これまでデジタル化が難しいと思われていた分野、特に、汚れ仕事とみなされていた業務であっても、ITやソフトウェアによって解決可能だと考えています。