「家族との時間を」 リリースに関わる人達の生活を改善したい
Copadoのホームページでは、創業者たちは事業立ち上げのきっかけを「世界を変えようとしたわけではなく、ただ家族との時間を増やしたかっただけでした」と記す。
2013年、2人のリリースエンジニア、Federico Larsen氏とPhilipp Rackwitz氏は深夜や週末を問わず多忙な業務と、過労に悩まされるチームの状況を改善するために、統合CRMプラットフォームであるSalesforce向け初のエンドツーエンドのネイティブDevOpsプラットフォームを構築し、Copadoを創業した。
共同創業者で最高戦略責任者(CSO)を務めるRackwitz氏は長らく、Salesforceのエコシステムに携わってきた。マニュアルのリリース管理などに悩まされていたRackwitz氏は、Salesforceプラットフォーム上で複雑なマニュアルリリースを効率化する必要性を感じていた。同僚のLarsen氏(現CTO)と共に、リリース管理を改善するためのプラットフォームを構築したことが事業のきっかけとなった。
「Larsen氏と私は、Salesforce関係ですでに多くの経験を培ってきましたが、リリースや顧客のために仕事を成し遂げることに関しては、引き続き苦労がありました。通常、リリース日は週末に長いプロセスが行われ、複雑でストレスの多いものとなります」
「我々は、リリースマネージャーや開発者、管理者といったリリースに関わっている人たちが、リリース日に家に帰って家族と夕食を共にすること、個人的な時間を持つことができることといった、自分たちを含めた同じような経験をしている人たちの生活を楽にするために、Copadoを創業しました」とRackwitz氏は語る。
Copadoの最初の顧客は、米アトランタに本社を置くグローバル企業、Coca-Cola社だった。当時、Copadoが提供するDevOpsソリューションを求めていたCoca-Cola社を顧客に持ったことで、一気に欧州及び北南米の顧客にソリューションを提供するようになった。さらに、2017年にInsight VenturesとSalesforceからの投資決定を受けて、事業拡大とともに本社をシカゴに移した。
顧客中心型のアプローチでDevOpsプラットフォームを拡張、強化していく
Copadoは、アジャイル計画、継続的デリバリー、自動テスト、セキュリティ、コンプライアンスなど、DevOpsプロセスのあらゆる部分をカバーするSalesforceネイティブの統合プラットフォームを企業に提供している。1,200社以上の企業がCopadoを利用し、毎月5,000万件以上のDevOpsトランザクションを処理する。
Copadoによると、Fortune 500の90%を含む15万社以上の企業がデジタルビジネスの構築にSalesforceを利用しているが、Salesforceプラットフォーム上に構築されたアプリケーションはますます高度化・複雑化しているという。
Salesforceチームの84%が、いまだにマニュアルテストに頼っていると報告しており、ほとんどのSalesforceチームでは、デプロイ前にすべての変更をテストするリソースが不足しているという。同時に、リリースサイクルの後半に品質問題を発見すると、更なるコストがかかるとしている。
これに対し、Copadoは2022年9月、DevOpsプラットフォーム内にAI駆動型テスト機能とCI/CDを統合するQuality Integration Frameworkを発表した。エンドツーエンドのテスト、セキュリティ、コンプライアンスをCI/CDパイプラインに組み込むことで継続的な品質を実現する。
また、2022年12月には、エンタープライズSaaSソリューションのためのDevOpsのマーケットプレイスとなるDevOps Exchangeの立ち上げを発表するなど、DevOpsプラットフォームの機能を拡張、強化する取り組みを次々と展開している。Forrester Consultingによる委託調査では、Copadoを使用する顧客はリードタイムや回復時間が短縮、変更失敗率は削減、生産性を向上させたことが明らかになっている。
Copadoは、DevOpsプラットフォームを介して、企業に対してより迅速で高品質なリリースを提供し、デジタル変革プロジェクトにおける信頼を高めるための顧客中心型のアプローチをとっている。
効率を高め、イノベーションを起こしたいと考えている全ての企業が対象
Copadoの主要顧客は、Salesforceを使用している全ての企業であり、必ずしも規模に左右されるわけではないとRackwitz氏は語る。規模に関係なく、Salesforceを使用してチームの効率を上げ、製品にイノベーションを起こしたいと考えている全企業が対象となる。
アルゼンチンの通信企業がその良い例だ。2,900万人以上の顧客に安全な高速固定・モバイル接続とライブ・オンデマンド・コンテンツ・プラットフォームを提供するTelecom Argentinaは、Salesforceを活用してデジタル変革を推進しており、デプロイメント時のダウンタイムを抑えるために、スケーラブルでエンタープライズレベルのソリューションが必要であることに気づいたという。
年に1回しか大規模なリリースに対応できなかったTelecom Argentinaは、Copadoの導入により、現在では、CI/CDの成熟と恒常的なデプロイメントを達成し、最終顧客に悪影響を与えることなく、毎日10数個のデプロイメントをリリースしている。
「Telecom Argentinaは社内で複雑なプロセスを抱えていて、より安全にデプロイメントの速度を上げたいと考えていました。我々は、彼らのチームと協力して、確実なスキルアップを図り、ベストプラクティスやCopadoの仕組みについて教え、彼らが望むペースで速度を上げていく自信を持てるようにお手伝いしました」とRackwitz氏は語る。
Image:Copado
Salesforceの最大市場が米国であることから、Copadoの顧客ベースも米国が中心となっているが、欧州、アジア太平洋地域にも拡大している。また、日本市場にも参入し始めたばかりだ。
「私たちは、これまでインプリメンテーション・パートナーのネットワークを構築してきました。人材やオフィスなどのインフラがまだ確保されていない新市場への参入には、パートナーのネットワークを通じて行っています。日本市場での拡大には、このインプリメンテーション・パートナーとリセーラーパートナーが非常に重要です」
「また、言語や文化の違いに対して、日本でのプレゼンスを持つことが大事です。日本のお客様が何を求めているか把握をするために、将来的には日本でのオフィス設置と、人材確保の拡大に取り組んでいきたいと考えています」
技術的には会社の業種は関係ないが、金融サービス、製造業、自動車、保険といった分野は、規制がより複雑になる傾向があり、リスク軽減につながるCopadoのDevOpsプラットフォームの需要が高いという。
Image:Copado
「Salesforceの達人」として、深い知識を有するCopadoの強み
Copadoは、過去4回のラウンドで累計2億7,080万ドルを調達している。投資家には、SoftBank Vision Fund、Salesforce Ventures、Insight Partners、IBM Ventures等が名を連ねる。資金の使途は、人材確保が大部分を占め、一部はM&Aに充てているという。Copadoが、2021年に買収したフィンランドのQentinel社は、現在では同社のクラウドベースの自動化及び分析を提供するロボットテスティングを担う。
Copadoの強みは、Salesforceに関する深い知識を有する点にあるという。「競合他社を見ると、すべてをカバーしようとしてプラットフォームが汎用的になる傾向があります。我々は『Salesforceの達人』としてスタートしました。今後は、他のプラットフォームでも成功し、マスターシップを拡大することができるようにフォーカスを広げていきます」
今後のビジョンに関して、Rackwitz氏は以下のように語る。
「我々のビジョンは、リリースに関する『多忙さ』を時代遅れなものにすることですが、企業のリリースを止めるという意味ではありません。企業が安全な方法でイノベーションを続けていき、ストレスなく、好きな時にリリースすることを可能にし、リリースに関わる人達の生活が改善されることを望んでいます」
「イノベーションはお客様の要望によって推進されると思います。Salesforce上、あるいは他のテクノロジー上か、お客様が成功するための手助けをしてほしいと言われたら、それが実現可能であれば、どうすれば実現できるかを考えます」
顧客の立場に立ち、要望をかなえていくことで企業の働き方をはじめ、イノベーション方法を革新していくCopado。今後は、拡大戦略の中で日本市場が重要な役割を果たすことを期待する。