株式会社コークッキング(本社:東京都中央区)は、事業者側と消費者(ユーザー)をつないで食品ロスを削減するフードシェアアプリ「TABETE」を展開するスタートアップだ。店舗などで売り切るのが難しいパンや惣菜などをアプリで出品すると、ユーザー側はお得な価格で購入できるという仕組みだ。「まだ安全に食べられるのに、捨てられてしまう食品」をマッチングして救うことで、事業者の売り上げにもつながり、廃棄コストを減らして環境負荷の軽減にもつながる。学生時代から「食」に関わり、「食と社会の多様性」「生産と消費の持続可能性」などを社のビジョンに掲げる、同社の創業者で代表取締役CEOの川越一磨氏に業況や将来展望を聞いた。

学生時代から食に関わる事業に着目し、「地域×食」を考える

――川越様の経歴と、コークッキング創業からTABETEを展開するに至った経緯をお聞かせください。

 大学在学中から和食料理店で料理の基礎を学び、大学の研究テーマとして山梨県富士吉田市でまちづくりの研究をしながら、「地域×食」という文脈で何かできないかと考えていました。<料理する側だけではできる領域が少ないと思い、卒業後は飲食店経営を学ぶために、銀座ライオンというビアホールで1年半ぐらい社員として働きました。

 その後、学生時代の研究フィールドだった富士吉田市に移住して、空き家をリノベーションしたコミュニティカフェレストランの経営をしました。

地域に根差した食のあり方や飲食店とは何かという観点からさまざまな活動をしながら、2015年12月にコークッキングを立ち上げました。この会社自体はもともとは料理を使って企業向けの研修やワークショップを行う、料理の可能性を最大化するというところをテーマに立ち上げた会社です。

川越 一磨
代表取締役CEO
2014年、慶應義塾大学総合政策学部卒業。在学中に和食料理店で料理人修行をし、卒業後は株式会社サッポロライオンで飲食店の店舗運営の経験を積む。その後学生時代にゆかりのあった富士吉田市に移住し、コミュニティカフェやこども食堂の立ち上げなどを行いながら2015年12月に株式会社コークッキングを創業。

2017年から日本初のフードロスに特化したシェアリングサービス「TABETE」の事業化を本格化。2019年4月には一般社団法人日本スローフード協会の理事に就任し、SDGs関連トピック、フードビジネスに関するスピーチや講演なども積極的に行っている。

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 実は当初の事業は、課題解決というイメージはありませんでした。何かできることを考えたときに、実体験として食品ロスがあり、社会的にもその課題を解消しなければならないと考えるようになりました。創業して2年経った2017年に、「フードシェア」に関するヨーロッパの事例を見つけました。調べてみると、日本やアジアで展開する企業がなかったので、TABETEを始めました。

 学生時代から、飲食店で働いていると毎日ゴミ箱に残った食べ物を捨てていました。食べ残しもとても多かったですし、お客さまのご要望で作った料理を提供しても、手つかずのまま戻ってくることもありました。ただ、飲食店も資本主義の上で、たくさん注文された分だけ提供すれば儲かります。環境のことなどは気にせず、売り上げを上げることだけ考えると、そうなるのは仕方のない世界ではあります。

食品ロスを削減することで、より積極的な店舗経営を支援

――TABETEは、まだおいしく食べられるのに売れ残ってしまった食品をお得な形で提供し、消費者に届けるマッチングサービスですね。サービス内容やビジネスモデルなどについてお聞かせください。

 スマートフォンのアプリ上で店舗が食品を出品して、一般ユーザーがアプリで事前決済を済ませてお店に取りにいく仕組みです。モバイルオーダーの食品ロス特化版のようなものです。

 食品ロスという性質上、出品者側としては特に中食や外食、小売のお客様が多く、調理済みの足が短いものが多いです。消費期限のある食品を基本的には扱っています。これらの食べ物は、販売してから長くても1日、短ければ3時間後に消費期限が切れるものが多いので、それらを救うためには即座に出品して誰かにつないでいくことが重要です。

 出品する食品は、割引を必須条件としているわけではないですが、結果的にお得な価格になっている場合が多いです。例えば、パンなどは2〜3割安くなる場合があります。ホテルビュッフェで余った食材をお弁当という形で出品するなど、元の価格がわからないものもあります。「今日のおまかせパンセット」「おまかせスイーツセット」といったような福袋形式がほとんどです。

 出品者からは初期費用として店舗当たり1万円をいただいています。それ以外は1品売れるごとに手数料をいただきます。手数料は販売する価格帯ごとに決まっていて、例えば351円から680円までの出品であれば一律150円というような形です。

Image: コークッキング

――すごく便利なサービスだと思いますが、業況はいかがですか。

 ヨーロッパにはかなり大きなフードシェアリングのサービスがあります。アジアでも同じようなプレーヤーが増えています。私たちは2017年から動き始めて、同年9月にβ版を出し、2018年4月に本サービスのローンチをしています。

 以降、着実に取扱高や登録店舗も右肩上がりに増えています。コロナ禍の影響もありませんでした。当初は飲食店やレストラン向けにサービスを提供したいと思っていましたが、毎日販売できるような食品ロスが生まれるわけではないので、2020年ごろにターゲットを中食・小売にシフトしました。そこからはかなり安定的に伸びてきています。

 売上ベースでは、毎年だいたい2〜3倍ずつ伸びています。利用店舗数についても2021年7月と比較した場合、2022年7月は倍になっています。極力無駄を省いた仕組みにしており、シンプルで、これ以上使い勝手のよいサービスは生まれてこないようなプロダクト開発をしていると思います。

――TABETEを利用する店舗はどのようなメリットを感じていますか。

 TABETEの利用店舗が享受する効果は店舗によって変わりますが、一例を紹介します。

 あるスイーツのチェーン店では、月額12万円ほど廃棄コストがかかっていましたが、TABETEを導入してから、毎月1万6000円程度に減少しました。毎月10万円の廃棄コストが減り、単純に売上として、プラスになっています。

 ほかにも、廃棄率が10%ぐらいだったところが、2〜3%削減できている事例はよくありますので、ロス率を下げるという観点でかなり貢献しています。

 食品ロスの削減は、経営的にも効果があります。これまで余らないようにするために、リスクを取らない生産をしていたところが、TABETEがあるのでチャレンジングな生産、品揃えをして売上全体を底上げしつつ、ロス率を減らすこともできているというケースもあります。

Image: コークッキング

さまざまな企業、自治体と連携し、SDGsの推進にも

――現状のTABETEの事業規模や、店舗を増やす、エンドユーザーを増やすための取り組みについて教えてください。

 対象となる店舗のエリアは絞っておりませんので全国です。北海道から九州、沖縄でも使われています。ただ割合として、店舗数が多くなるのは東京や大阪などの主要都市が中心になっています。

 全国で約2130店舗の登録があり、ユーザー数は53万人(2022年8月取材時点)と、圧倒的にユーザー過多な状態ではあります。お店に取りに行くという性質上、生活圏の近くにお店が増えるのを待っているというユーザーがかなり多いという状況です。

 エンドユーザーを増やすという点については何の取り組みもしていません。53万人のユーザーは全て自然流入です。マーケティングコスト、広告費は一切かけていません。

 店舗に関しては圧倒的な営業努力が必要で、営業活動をしています。パン屋、洋菓子店、ホテルなどにも徹底的に営業していますので、向こう1年にかけてはここを伸ばしていくことに注力します。

 店舗単体でなく、商業施設デベロッパーとの連携も考えられます。持続可能な開発目標(SDGs)の取り組みの推進や、買い物客の皆様に対する啓蒙啓発も同時進行でやるべきだと思っています。

 鉄道なども駅中に店舗を増やしていますので、拡充していきたいです。商業施設だけでなく、例えばスマート冷蔵庫やスマートロッカーという技術は、商品引き取り場所の1つになるかもしれないですし、さまざまなコラボレーションの仕方があると考えています。

――食品業界にとって、食品ロスは深刻な問題と考えられているのでしょうか。

 業界として食品ロスに対する意識が高まってきていると思います。ただ、非常に意識が高いというわけではなく、ようやく「何とかしなければならない」という気運が出てきた段階だと思います。

 事業者さんの認識には地域差があると思っていて、東京や大阪などに関しては比較的意識は高くなっていると思います。

 一方で、パンなどの中食や外食、スーパー・小売も含めて、地場の企業はすごく重要です。その地域に根付いたフードビジネスのエコシステムを作っている企業が多いからです。これからフードロスという概念を導入していかなければならない会社さんも多いと思いますので、当社が先陣を切って、自治体連携も含め、啓蒙啓発にも取り組もうと考えています。

 自治体にとっては、食品ロスはゴミの焼却コストなので減らしたいという考えは当然あります。加えて、2019年に成立した「食品ロスの削減の推進に関する法律」があり、法律に基づいて、各自治体には食品ロス削減のための基本方針を策定することが義務付けられています。

 基本方針の策定において、事業者側から一般消費者側までのできること、推進すべき点についてのガイドラインを国が出していますので、それに沿って各自治体の基本方針を作るという形になっています。フードシェアについては明確に良いとされていますので、気運は高まっています。

 現在、当社は18自治体と連携協定を結んでいます。予算をつけてもらって、店舗獲得に動いている地域もあります。連携協定の中で、地域での食品ロス削減の気運醸成はお互いの責任として持つことになっています。

 当社は事業者向けのセミナーや消費者・市民向けのセミナーを開催することで、店舗やユーザーの増加に取り組んでいます。

 自治体との取り組みでうまくいっている例として、金沢市の事例があります。

 4年ほど前にTABETEを導入したいと相談を受け、地域の事業者さんに市からTABETEの店舗獲得とユーザー獲得を委託して、我々が営業などのバックアップをしながら、金沢市内に加入店舗を広げていきました。当時の副市長がトップダウンで進めてくれました。

Image: コークッキング

食の未来を作るため、「食の作り手」を支援する事業へと拡大していく

――現在感じている課題とその解消法や将来展望など、長期的なビジョンをお聞かせください。

 4〜5年以内にIPOを目指して動いています。事業としてはTABETEのサービスの中で、余ってしまった食べ物や余りそうな食べ物をどうにかするという領域を、徹底的にインフラ化していこうと考えています。つまり、このインフラが社会にとって必要不可欠な存在にしていきたいです。

 また、今よりも早い段階でロスになりそうなところを察知することもできると考えています。ここはいわゆるテックドリブンの部分になってきますが、すでに実証実験に取り組んでいます。

 そして、未来の中食のあり方を考えていかなければならないと思っています。

「たくさん並べてたくさん売る」世界からどう脱却するか。脱却しないのであれば、「どうやってフードロスを最小化して売り上げを最大化できるか」。この点に対しては今の仕組みのままでは実現が難しいので、もっと当社にできることがないかと検証を始めているところです。

 中食の場合、数%の余剰在庫を織り込まなくてはいけないので、需要予測をしてもあまり意味がありません。

 例えば、現在は、閉店まであと2時間のタイミングで、この量だと余ってしまうというものをTABETEに出品してもらっていますが、今よりももっと前の段階でわかるかもしれません。

 早い段階で余りそうな品物がわかればレスキューされる確率も高まります。よりシステマチックに考えられるよう、AIを使って余りそうな食品を察知して自動的にTABETEに出品する仕組みを作っていきたいのです。

 海外展開については、アジアのプレイヤーとの連携やM&Aという形も視野に巻き込んでいきたいです。

――SDGsでは2030年のゴールが設定されています。御社はIPOを4〜5年後に考えているとのことですが、その先の2030年ごろにどのような存在になっていたいと考えていますか。

 当社は食品ロスを解決することをゴールとしているわけではありません。「食の持続可能性」や「食の未来をどうつくるか」を考えている会社で、その切り口の一つとして今、食品ロスに取り組んでいるという形です。

 食の未来は「作り手がいなくならない社会をどうつくるか」ということだと考えています。

 作り手がいなくならないためには、買い手、食べ手側の変容が重要です。ですから、作り手と買い手・食べ手の関係性をどのように健全に持っていくかをテーマとして取り組みたいと思っています。特に上場後は、それに関連する事業を増やしていかなければならないと考えています。

 食のサプライチェーンの最下流のところだけをやるわけではありませんので、もっと上流にさかのぼってもいいですし、家庭の領域にリーチしてもいいと考えています。まだまだできることはたくさんあります。

――コラボレーションの可能性のある方々にメッセージをお願いします。

 食品ロスの問題は少々わかりづらいと思われる方もいらっしゃいますが、わかりやすく言うとカーボンニュートラルです。

 食品ロスに起因する二酸化炭素(CO2)の排出量は非常に大きいです。カーボンニュートラルという観点でも、食品ロス削減というのはかなり大きな効果があると思っていますので、そこをどうやってテクノロジーを含めて解決するのか。

 このムーブメントをどう大きくしていくのかという点は、上場企業をはじめとする事業者の経営にとって相当大きな意味合いを持つはずです。もし連携できることがありましたら、ぜひご一緒させていただきたいと考えています。

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