モバイルアプリ開発に特化したCIツールを携えCircleCIに
―まずはCEOの経歴と、CircleCIに参画された経緯を教えていただけますか。
私は90年代後半から現在まで、20年以上スタートアップに携わり、ドットコム・バブルやその後の様々な波を経験してきました。最初はB2Bから始め、その後は主に消費者向けのプロダクトを提供するスタートアップを設立し、2011年にFacebookやTwitterなどのSNS上に構築するソーシャルマーケットプレイス「Copious」を設立しました。そして、「Copious」をモバイルアプリとして展開する過程で、既存の開発ツールでは足りず、自分たちでモバイル用のツールを開発するようになりました。これをきっかけに、iOSおよびAndroidアプリの開発で使えるCIツールを作り、2014年1月にDistillerという会社を設立しました。
同年8月にDistillerがCircleCIに買収され、私はCircleCIに移籍しCOOに就任しました。CircleCIは設立当初は、Webファーストで、Webソフトウェア開発を自動化するプラットフォームを提供していたのですが、市場がモバイルファーストになり、モバイルに対応する技術獲得を目的とした買収でした。
イノベーションの迅速な開発と提供が求められ、プレッシャーを受ける企業
―開発プロセスの自動化とモバイルファーストという市場のニーズに沿ったプラットフォームですね。どういった企業がCircleCIを利用していますか。またCOVID-19の影響はあるのでしょうか。
ソフトウェアの提供プロセスはかなり複雑です。WindowsとOfficeの時代には、Office97、Office99やWindows2000のように、年ごとにわけて名前がつけられていました。これは、ソフトウェアのリリースプロセスが遅かったからです。しかし過去10年、市場ではイノベーションを迅速に提供すること、バグやセキュリティの問題に素早く対処することが強く求められてきました。数ヶ月、数年かかっていたことを、数秒、数分、数時間、数日で実現しなければならない。こうした中で、スタートアップを含めた多くの企業がサービスを早く提供するよう、信じられないほどのプレッシャーを受けていました。
そして、COVID-19によりシャットダウンが続く今、自動化や再現性を確保する必要性がより重要になっています。リモートで働くようになり、ある意味強制的にプロセスを自動化した企業が多くあります。こうした企業も、一度CircleCIを使い始めると、活用方法がどんどん洗練されます。コードを新しくするたびに組み立てを実施でき、テストが自動で行われ、直ぐにフィードバックできるため、直ぐに修正でき、より早く頻繁に改善を行える「ポジティブなフィードバックサイクル」が回り始めます。当社は使い始めたばかりの顧客が、この「ポジティブなフィードバックサイクル」を回せるように、利用者に寄り添ったサポートを提供すると同時に、高度な使い方をしている顧客の、「5分を3分半に、そして35秒に短縮したい」という要望に応えています。
品質を重視する日本でプロダクトマーケットフィット
―数年前に東京に事務所を設けられました。日本市場のご感想があれば教えていただけますか。
当社は、創業からずっとフリーミアムモデルで、グローバルプラットフォームとして世界中の開発者にサービスを提供してきました。そして、最初の7年間は、利用者の所在地や、利用者をどうサポートするか、と言ったことは考慮していませんでした。しかし、2017年の終わりに、日本で開催されたAWS主催のベンチャーカンファレンスで講演する機会があり、多くの日本のスタートアップがCircleCIを使っていることを知りました。そのカンファレンスで複数の日本のスタートアップが発表を行っていたのですが、皆CircleCIの利用者だったのです。
アメリカではスピードが最重視され、プロセスをより速く行うことが求められてきました。しかし、日本では品質の向上に重点が置かれています。テストを速く何回も行うことで品質を向上できるプラットフォームとしてCircleCIが使われていたのです。日本市場には、世界的に見ても、洗練されスピーディに活動している企業が多く、こうした利用者をサポートするために2018年に東京にオフィスを設立しました。設立以来、ゲーム、エンターテイメントや金融サービス業界などで、スタートアップだけでなく大手企業にもご利用いただいています。
東京市場で多くの成功を収めたので、今は大阪や福岡など他の都市でもテクノロジーコミュニティを構築しています。
―最後に日本の読者にメッセージをお願いいたします。
日本市場は驚異的なペースで動いています。日本市場における開発手法の洗練度は他のどこにも引けを取りません。そして、特に品質を重視する日本において、最先端企業にも当社のプラットフォームが利用されるようになったことが興味深いです。
シリコンバレーでは、常にスピード重視で、速く作り、壊して、また次を作るアプローチが取られていますが、日本は違いました。スピーディに動きながらも、全てが確実に動作するまで確認を行うアプローチです。日本の開発手法は、非常に理にかなっていると思います。