MITの研究から始まった、画期的な医療データのアノテーションサービス
――サービスの概要を教えてください
私たちの会社では、医療分野でのデータアノテーションサービスを提供しています。中でも、AIアルゴリズムを開発する企業を支援しています。
皆さんが最もなじみがあるのは、ウェブサイトにログインするときに「あなたがロボットではない」と確認するキャプチャでしょう。様々な画像が表示され、その中で適切な画像を選択することで、自分が人間であることを証明します。
ただ、あのようなシステムは、同時にAIがよりよくデータの仕分けをできるよう、ラーニングアルゴリズムとしての役割も果たしています。人工知能が何かを学ぶには、適切にアノテーションされた何千、何万ものデータが必要になります。
例えば、医療分野では、AIに肺のCTスキャンから癌を見つけ出すよう学ばせるには、一般の人にインターネットで適切な画像を選ばせる方法では対応できません。EKG、EEGといった検査や、超音波検査の結果も同様です。私たちは、そのようなアルゴリズムを開発している企業を自社のデータアノテーションサービスで支援しています。
――起業のきっかけは何でしたか。
もともと私はMITのコレクティブインテリジェンス研究所で博士号取得に向けて、人工知能やクラウドソーシングの研究を行っていました。例えば、セカンドオピニオンの場面では、1人目の意見を信頼するか、それとも2人目の意見を信頼するか、たくさんのオピニオンが存在する場合、どのように集約するかといった内容です。
私は、人々の意見を効率的に集約して、個をしのぐことはできるか、研究を始めました。つまり、プロではなくても意見を集約すれば、その業界のプロをしのぐことはできるか、ということです。
私は、妻も、母も医者なので、昔から医者同士はいつも意見が対立することをよく知っていました。なので、このようなテクノロジーは、非常に役に立つだろうと思ったのです。このようなことを博士号取得の最中に行い、在学中から知っていた友達を、仕事を辞めて一緒に会社を起こそうと説得しました。
その後、MITのアクセラレータープログラムに申し込み、プロトタイプを設計し、2018年後半にエンジニアリングのVPとなるもう一人の友人を誘いました。2019年にはY Combinatorに参画し、シードラウンドで資金調達を行いました。
「図書館で作業」から、ボストン中心部にオフィスを構える
――医療に携わる企業として、コロナ禍の2020年を含むこれまでの道のりはどうでしたか。
思い返せば、起業する前の2017年私たちは、お金がなく無料で使える図書館でリサーチをしたものでした。私は自身の貯金からもう1人の共同創業者であるZach Rausnitz氏に給与を払っていました。
今では、チームも15人の従業員で構成されており、オフィスも構えるまでに成長しました。来年までには、今の倍までに従業員が増えるでしょう。毎日、毎週仕事していると、あまり成長を実感しませんが、この6ヶ月を振り返ると、どれほど早く拡大したか分かります。
Image: Agenturfotografin / Shutterstock
コロナ禍に関して言うと、医療分野に携わる私たちにとっては、興味深い時期であると言えるでしょう。ただ、長期的に見ると、ヘルスケア分野でのAI導入が進んでいるのは不幸中の幸いと言えます。4年前は、遠隔医療を持ち出すと医者は毛嫌いしたものでしたが、今ではその実用性が浸透し不安も少なくなったと思います。
匿名データだけでなく患者一人一人に対応できるようにしたい
――サービスを開発する上でどのようなチャレンジがありましたか。
まず何千人もの人々が現在私たちの無料アプリでアノテーションを行っています。アプリは拡張的で、1週間で100万件ものケースがアノテーションを通ります。1日で100万件の時もあるのです。そしてこの数は、急激に増えています。
Image: Centaur Labs
次に、私たちと提携する医療AI、医療デバイス企業がいて、多種多様な医療データを扱っています。そこでの課題は、もし扱った経験のないデータだとプロジェクトの規模が把握できないことがあります。なので、新規顧客のオンボーディングや、データの移転をなるべくシームレスに行えるように注力しています。
もう1つは、今現在は匿名化したデータを取り扱っていますが、患者の情報が分かるデータを扱うようになっても強固なセキュリティで守られるよう保証することです。今は、匿名化してデータを送ってもらっていますが、将来的にはその必要性をなくしたいと考えています。
――調達した資金の使い道や今後の目標を教えてください。
短期的な目標は、新規顧客のオンボーディングをスムーズにすること。中期的な目標は、セキュリティに投資しより強固に安全にデータの取り扱いを可能にすること。長期的な目標は、医療データアノテーションの先進的な大手企業となることです。
資金に関しては、従業員、特にエンジニアの雇用に充てます。また、オペレーションにも一部充てる予定です。
将来的には、人々とコンピュータを共に集め、様々な医療データを分析できるようになることを目指しています。
――日本での展開も予定していますか。
ヘルスケア業界用の人工知能を開発している日本企業があれば、ぜひ話をしたいと思います。データアノテーションは、正確でなければいけません。そしてそれを拡張的に行う必要があります。読者の企業の皆様が私たちの最初の提携企業となれれば非常に嬉しく思います。
また、それとは別に私たちは無料のアプリ「DiagnosUs」も提供していて、今現在医者ではなくても、知識を得たり、スキルアップを図ることができます。現にたくさんの医学部生にも利用されています。現在アプリの利用者は半分は米国ユーザーですが、残りの半分は世界にまたがっています。 日本国内の医学部生にもぜひ試してほしいです。