「テールスペンド」(別名:非計画購買)とは、少額・小ロットまたは一回きりのベンダーとの取引を指す。大企業の購買・調達部門は、これの大量の処理・管理に頭を悩ませることが多い。Candex(本社:米国ニューヨーク)は、この課題を解消するべく、企業とベンダーの間に立ち、請求や決済を代行するサービスを提供している。現在、日本を含む48カ国でビジネスを展開する同社CEOのJeremy Lappin氏に、事業概要やグローバル市場でのビジネス拡大戦略について話を聞いた。

目次
「非計画購買」の課題に着目した理由
Candexが築いた大きな強みとは
日本市場向けのプロダクト強化

「非計画購買」の課題に着目した理由

 Candexは2011年にLappin氏とShani Vaza-Wahrmann氏(R&D担当VP)によって創業された。企業の調達、特にベンダー管理と決済プロセスの簡素化を目指す企業だ。当初は採用ベンダーからの購入プロセスを支援するソフトウェアを開発していたが、2017年にはその領域を拡大し、任意のベンダーと支出カテゴリーからの購入をカバーするようになった。

 Lappin氏は連続起業家でCandexは3社目だ。ウォール街の企業で勤務した経験から投資や企業買収に関する知見を備えており、多国籍企業の国際的な決済に関する課題も目の当たりにしてきた。

「世界各地で決済方法がかなり異なっていたため、その問題に取り組むために時間を費やしていました。特に大企業は世界中で決済を行う必要があると感じたため、グローバルに通用する決済方法を開発することにしました。初期の頃は多くの困難に直面しましたが、始めてから約6年後には、徐々に成果が出始めました」

 Lappin氏が着目したテールスペンドの問題を整理しよう。特に大企業は、多数の小規模ベンダーと取引をしている。例えば、5万社のベンダーと取引しているなら、その8割〜9割は小規模で、年間取引額が10万ドル以下という規模だ。購買・調達部門は、これらの小規模ベンダーに対しても、オンボーディング、各種スクリーニング、税務情報や銀行関連情報の取得といった業務が発生する。さらに、これらのプロセスは国や地域で異なるため、事態はもっと複雑になる。

 Candexは、各国ごとにクライアント企業のベンダーとなり、小規模ベンダーに代わって請求や決済を代行する。これにより、企業の購買・調達部門は大口ベンダーの管理のみに専念できるため、業務がシンプルになり、負担も大きく減らせる。

Jeremy Lappin
Co-Founder and CEO
1998年に大学生向けソフトウェアを提供するVersityを創業。2002年にCR BardでCEO特別補佐として企業買収を担当。2003年にYork Capital Managementで投資アナリストとして勤務。2004年にStanch Capitalのマネージングディレクターとして健康志向のレストラン「KnowFat」を運営。2006年にBountyJobs, Incを創業し、企業とヘッドハンターのマーケットプレイスを運営。2011年にShani Vaza-Wahrmann氏とともCandexを創業し、CEOに就任。

image: Candex

Candexが築いた大きな強みとは

 異なる国と地域に対応するため、Candexでは48カ国に現地法人を設立している。現地でVAT番号(納税者番号)を取得しているため、常に現地での取引が可能で、税金の処理も問題ない。ベンダーに支払う際も税金の扱いが明確になるため、非常に効率的に税金処理を行うことができる。これにより、クライアントに対して優れたサービスを提供できる。さらに、国からお金が出る場合にも、源泉徴収や必要な書類の収集などを適切に行っている。

 Lappin氏は「(英金融大手の)HSBCは、私たちの最大のクライアントの1社であり、すでに1万以上のベンダー取引を実質的になくしました。また、他のクライアントでは災害発生時においても私たちのサービスを利用して、重要な決済を24時間以内に行うことができました。多くの国で、何万ものベンダーに対して効率的なサービスを提供してきたことが私たちの大きな強みです」と語った。

 Candexにはどんな競合がいるのだろうか。Lappin氏は「最大の競争相手はクレジットカード」と述べた。クレジットカードは、システムに登録せずに迅速に決済ができる。それに対し、Candexはクレジットカードよりも徹底したPtoP(ピア・ツー・ピア)プロセスを提供している。そのプロセスではまず、発注書を発行し、それがベンダーに受け入れられる。次に、ベンダーがサービスを提供し、その発注書に対して請求書を発行する。その後、Candexがその発注書に基づいてバイヤーに請求を行い、バイヤーがCandexの請求書を承認した後に決済が行われる。

 Lappin氏は「このプロセスはクレジットカードよりもはるかにコンプライアンスに適合しています。また、税金に関しても、クレジットカードではVATの処理が難しくなりますが、私たちのプロダクトでは自動的に処理されます」と説明した。

 現在、Forbes Global 2000に名を連ねる企業のうち100社がCandexを利用しているという。その数は急速に増加しており、過去4年間は毎年収益を倍増させてきた。2023年11月行ったGoldman SachsがリードしたシリーズBラウンドでの調達の際には、収益が前年の700万ドルから約2000万ドルに成長したことを公表している。

「私たちのレベニューモデルは従量課金制で、サービスは使った分のみお支払いをいただいています。まず試してみて、気に入らなければすぐに利用を辞められますのでリスクも低いです。サービスを気に入っていただければ、国や規模を拡大するのも簡単です。この手軽さが成長を後押ししています」

日本市場向けのプロダクト強化

 2023年はアジア市場への進出を果たし、日本、中国、台湾、韓国に拠点を新設した。今後1〜2年での重要なマイルストーンは、成長を続け、顧客満足度を高く維持することだ。Lappin氏は「日本は非常に重要な市場であり、特別な投資を行っています。私たちは日本市場向けに製品強化を行い、チームを設置しました。私たちのサービスを必要としている素晴らしいグローバル企業が多く存在していると信じています」と語った。

 日本市場に注力するCandexでは、パートナーシップを歓迎している。これまでも、電子調達関連システムや調達コンサルティングサービスを提供する企業とのパートナーシップで成功を収めてきた。Lappin氏は「企業の運営方法に関するコンサルティングを行う企業や、クライアントの財務システムに関与しているシステムインテグレーターも興味深いパートナーです。認知度を高めて市場での影響力を強め、当社のサービスに関心を持つ層を増やしていきたいです」とコメントした。

 Candexが着目・開発したソリューションは、企業間決済の摩擦をなくすものだ。Lappin氏は同社のソリューションが企業間決済の標準になると信じているとし「企業はコンプライアンスを維持しつつ、迅速に動くことができるようになります。だからこそ、この市場をしっかりと掌握し、重要なブランドになろうとしています。これから成長するにつれて、品質を保ってサービスを提供し続ける方法や、規模が大きくなることで生じる運営上の複雑さが課題となりますが、優秀な人材を採用し、社内の文化を維持することでこれらの課題に取り組んでいきます」とビジョンを語った。



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