世界中で旅行者数が急増する中、「重い手荷物を近くの店舗に預けられる」サービスが好評を博している。Bounce(本社:米カルフォルニア州サンフランシスコ)は、空きスペースを持つオフィスや小売店などの提携先に1日4ドル程度で荷物を保管できるアプリを開発。すでに世界4,000以上の都市で、1万5,000以上の店舗と提携しており、日本でも東京や大阪、京都で利用が進んでいる。「インバウンドが加熱する日本市場は最重要」と語る、同社の創業者でCEOのCody Candee氏に話を聞いた。

目次
店舗負担は「ゼロ」、逆に月1万ドル以上の収入も
こんな使い方もある、旅行者のBounce活用例
ミニマリストへの転身が創業のきっかけ
ヤマトとも提携、インバウンド加熱する日本に熱視線

店舗負担は「ゼロ」、逆に月1万ドル以上の収入も

―Bounceはどのような課題を解決するスタートアップなのでしょうか。

 Bounceは、世界規模で荷物預かりサービスを展開するスタートアップです。北米、ヨーロッパ、アジア、オセアニアなど世界の4,000以上の都市の1万5,000以上の場所で、数時間から数日間、荷物を預けることができます。日本でもヤマトホールディングスやKDDI、ビッグエコーを運営する第一興商などと提携し、東京や大阪、京都などの都市で展開しています。

 私たちが解決する最大の問題は「旅行者を荷物から解放すること」にあります。今日、観光産業がこれだけ発達した中でも人々は依然として旅行先で荷物を抱えています。それはバックパックかもしれませんし、大きなスーツケースかもしれません。いずれにせよ、これらの荷物をどこかに置かないと、一日の計画がまるで違ったものになります。

 当社が契約するのは、中小企業のオフィス、小売店舗やホテルの空きスペースです。スペースを提供する側はBounceに1ドルも支払う必要がなく、逆に荷物を保管することで収入を得ることができます。これらの店の中には、月数千ドルから1万ドル以上稼ぐところもあります。利用者側の料金体系は、都度払いで4ドル、月額契約で25〜70ドルです。

 当社は急速なペースで成長しており、2020年はパンデミックの影響で大幅にビジネスに影響が出ましたが、2021年の売上高は前年比38%増を記録し、2022年以降も毎年成長しています。これまで約1,000万点の荷物を保管してきた実績もあり、日本を最重要市場として位置付けています。

Cody Candee
Co-Founder & President
米ウィスコンシン大学マディソン校で学士号を取得。GoodMateやBadger Innovationsを創業後、IntuitでProduct Lead、Profuct Managerを務める。同社を退職後、2年間世界を旅する。ニューヨークに帰国後、2018年にBounceを創業、CEOに就任。

こんな使い方もある、旅行者のBounce活用例

―Bounceを利用する顧客層に、特徴はあるのですか。

 若いカップル、年配のご夫妻、出張者、ファミリー、一人旅とあらゆる旅行者を対象としています。ただ、アプリベースのサービスなので若い人が比較的多いという傾向はあります。

 利用者の事例としてよく見られるのが、「日本への旅行中、基本的には東京のホテルを利用するけれど、日帰りや数日間の日程で大阪や静岡、福岡に行く」というもの。ホテルに連泊すれば荷物を部屋に置いて置けますが、チェックアウトすると荷物を持っていかなければなりません。Bounceを使えば、東京に大きな荷物を置いたまま、地方への旅行を楽しめます。旅行最終日に荷物をBounceで預けたまま、観光するといった使い方も人気です。

 また、Bounceで荷物を預ける際には1万ドルの補償がかけられています。もし盗難のような騒動に巻き込まれた場合は、Bounceが積極的に仲介します。

 これまでいただいたカスタマーレビューの中にはユニークなものもあり、「Bounceが私の結婚生活を維持した」というものまでありました。新婚旅行の時、荷物をどこに置くかで喧嘩することは避けたいですよね。

image : Bounce

ミニマリストへの転身が創業のきっかけ

―Candeeさんは、2018年にBounceを創業しました。創業のきっかけは?

 そもそも、私は20代の頃から世界の色々なところで住んでいました。大体、3カ国、10都市くらいになるでしょうか。これだけ引越しが多いと、引越しの際の持ち物の処分が大変になるのですが、あるとき思い切ってスーツケース2個とバックパック1つだけで完結するミニマリストになったのです。

 このライフスタイルの変更が私に与えた幸福感は強烈なものでした。ミニマリストになれば、どこでも行けますし、束縛されることもありません。逆に、いかに人々が「モノ」に縛られているかもよく目につくようになりました。

 そんなある日、金曜日の夕方に同僚とハッピーアワーでお酒を飲んでいたとき、彼が「一晩中、かばんを持っていたくないんだ」とつぶやいたのです。そこで私は、人々が荷物を預けられる巨大な店舗ネットワークを構想できないか、と思い付きました。

image : Bounce

ヤマトとも提携、インバウンド加熱する日本に熱視線

―資金調達についてお伺いします。Bounceは累計3,420万ドルを調達しています。資金の使い道は?

 アジア市場の拡大がメインです。特に日本を最重要と位置付けています。日本は国内外を問わず観光客が多く、大きなチャンスがあります。また、駅のロッカーなど荷物の一時保管に関して進んでいる市場でもありますが、問題はいつも満杯なことです。

 今年半ばまでには、提携店舗数を現在の5倍に増やしていく予定です。

 東京のスペース提供者によく言われるのは、「私たちの店舗は本当に狭いですよ」ということ。ただ、私たちはニューヨークのマンハッタンという都市でビジネスを始めています。狭い店舗での保管は慣れていますし、何より店舗に合わせて荷物数の上限を明確に決めています。

image : Bounce

―日本でもパートナーを増やしていく狙いですか?

 はい。Bounceが事業所に売り込みに行くと、「金銭的負担は発生しないの?」いつも驚かれます。荷物を保管する際に発生する収入だけでなく、事業所にとっては(旅行客が訪れるという意味から)新たなビジネスチャンスが生まれることも意味します。

 アメリカとは違い、日本は「荷物の一時保管」というコンセプトに慣れていますよね。アメリカでビジネスを行う際は、顧客に逐一説明する必要があったのですが、日本ではすでに文化として根付いています。ヤマトホールディングスが当社に出資しているという事実が、日本とBounceの親和性の高さを示しています。

 特に関心があるのは、営業時間が一定で、荷物を保管する「ほんの少しのスペース」が余っている小売店です。荷物の保管は本当に簡単で、ただ置いていくだけですし、お客さまは荷物をピックアップするときに店舗に立ち寄るだけです。

 先ほどお話しした小売店だけでなく、世界各地では美術館や博物館、ヨガスタジオとも契約しています。日本でも幅広い業態と話をしてみたいですね。

―日本企業とのパートナーシップを考えたとき、理想とする形態はありますか。

 直接提携する店舗だけでなく、市場の認知度も重要でしょう。例えば、旅行会社と共同でブランディングするようなチャンスは面白いと考えています。また、鉄道会社など、旅行客と直接接点があるような会社も面白そうですね。

 日本では今年、大阪万博の開催を控えていますし、Boucneが求められる機会も増えていくのではないでしょうか。

―最後に、今後の目標を教えてください。

 今年の目標は東京、大阪、京都以外の地域での契約を増やすことです。箱根などの小さな都市も視野に入れています。日本での拠点数を年半ばまでに1,000カ所に増やしたいと考えています。



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