シンガポールのbolttechは「組込型保険」(Embedded Insurance)を手掛けており、デジタル完結型の保険を提供するインシュアテック企業だ。特に、スマートフォンなどのデバイス購入時に、修理や交換などを含むデバイス保護に関するプロダクトに注力している。東京海上ホールディングスも資本参加しており、今年に入って日本国内で初の商用サービス提供も開始した。bolttechのCEOであるRob Schimek氏に、ビジネスの特徴や日本でのビジネス戦略などを聞いた。

目次
保険業界で感じた、保険へのアクセスのしにくさ
ライフスタイルの中心にあるデバイス保護に注力
日本でのパートナーシップ拡大に意欲

保険業界で感じた、保険へのアクセスのしにくさ

―経歴とbolttechを創業した経緯を教えてください。

 私は金融サービス業界で30年以上の経験を持っています。1998年にDeloitte & Toucheのパートナーとなり、MetLife、Prudential、Merrill Lynchなどの世界的な保険会社や金融機関に関わりました。2005年には、AIGに勤務し、商業保険ビジネスのグローバル責任者などを務めました。

 2018年にシンガポールに移住し、bolttechを創業したのは2020年のことです。私たちは顧客目線で保険を見直し、顧客にとって保険がよりアクセスしやすく便利なものにする方法、そして保険会社や保険代理店が顧客のニーズに合った適切な商品を提供できるための方法について自問しました。

 従来の保険業界で働いていたときに直面した課題が、私たちのモチベーションとなりました。デジタル進歩の遅れ、透明性、パーソナライゼーション、選択肢に関する顧客の期待の変化、そして非常に大きなグローバルな保護ギャップを解決しようと考えたのです。

―どのようなビジネスモデルですか。

 私たちの主なビジネスモデルはBtoBtoCで、保険会社、保険ブローカー、保険代理店、そして通信会社、電子商取引(EC)事業者、小売業者、デバイスメーカー、電子ウォレットなど保険業界以外のビジネスも支援します。販売パートナーには新しい収益源の確保と顧客ロイヤルティの向上を、サービス提供者には低コストでの配布拡大を図ります。エンドユーザーである消費者に対しては、必要な時に即座に便利に保険や保証にアクセスできる利点を提供します。

Rob Schimek
CEO
1998年にDeloitte & Toucheのパートナーとなり、MetLife、Prudential、Merrill Lynchなどの世界最大級の金融機関と関わる。2005年にはAIGに移り、商業保険ビジネスの社長兼最高経営責任者として、日本を含むいくつかのビジネスを監督した。2018年にシンガポールに移住し、2020年にbolttech創業、CEOとなる。

ライフスタイルの中心にあるデバイス保護に注力

―主なプロダクトや提供サービスについてお教えください。

 私たちのフラッグシップ製品の1つがデバイス保護です。通信会社、小売業者、デバイスメーカー、EC事業者、金融サービス事業者などとパートナーシップを結び、スマートフォンなどデバイス本体やデータなどを保護するものです。通信事業者についつては、タイのAIS、台湾のTaiwan Mobile、香港のHong Kong Telecom、韓国のLG U Plus、家電量販店のLOTTE Hi-Martなどと提携しています。デバイスメーカーではSamsungと「Sumsung Care+」で独占契約を締結していますし、Appleともパートナーシップを結んでいます。そして日本では中古デバイスマーケットプレイスであるBack Marketとの事業をスタートしました。

 私たちは、事業を展開する国の法律や規制に従ってサービスを提供しています。時には保険商品として、時には国によっては保険とは見なされない場合がある延長保証(Extended Warranty)の形で提供することもあります。パートナーがエンドユーザーに提供したいさまざまな選択肢を用意しています。たとえば、エンドユーザーのスマートフォンや携帯電話が壊れた場合の修理、新しい製品あるいは中古品との交換などです。デバイスを紛失したり壊したりして、次世代のデバイスにアップグレードしたいというニーズにも対応します。

―デバイス保護は需要が高いのでしょうか。現在の業況についてお教えください。

 私たちはデバイス保護を非常に重視しています。これは、世界中の人々のライフスタイルの中心に位置するからです。私のように、異なる国を行き来する人は1台ではなく2台の電話を持つことも多いでしょう。また、スマートフォンなどだけでなく、聴覚補助用デバイスなど人々にとって重要なアイテムの保護も提供しています。

 私たちを非常にシンプルに説明するならば、私たちは北米、アジア、欧州、アフリカの4大陸で活動する、急成長している国際的な保険テクノロジー企業であると言えます。2020年に創業したときは2カ国のみでしたが、2024年には35カ国へと拡大しています。市場シェアの観点から言えば、私たちが最も大きなシェアを持っているのはアジアですが、欧州でも一定のシェアを持っています。売上に関する詳細な数字をお伝えすることはできませんが、特に過去2年間は売上をオーガニック成長で倍増を続けています。

日本でのパートナーシップ拡大に意欲

―日本市場にも参入しました。日本でのビジネス戦略やパートナーシップについて教えてください。

 日本のエンドユーザー保護の重要性を認識しています。私はAIG時代に日本事業の一部を長年担当していたため、日本の保険市場が洗練されていることを知っています。日本には素晴らしいパートナーシップの機会があるでしょう。

 私たちのシリーズBの資金調達ラウンドでは、リード投資家が東京海上ホールディングスであり、同社をパートナーとして持てることを非常に光栄に思っています。また、東京海上をはじめ、日本には海外でも大きな影響力を持つ企業が多数存在しています。私たちは、日本国内外でそうしたパートナーと協力する機会を非常に楽しみにしています。

 私たちはパートナーシップのためのコミュニケーションを強く望んでいます。日本のデバイス保護市場には、私たちの能力がフィットする企業がいるでしょう。bolttechのビジネスモデルの素晴らしい点は、デバイス保護で始まり終わるわけではないことです。旅行保険や個人向けサイバー保護、家財、自動車なども保護の私たちのプラットフォームの対象となります。

―御社の長期ビジョンを教えてください。

 私たちは、人々の大切にしているものを守るために、保護と保険のエコシステムを構築することを目指しています。その可能性は無限大であると信じており、一人一人が大事にするすべてのものを守るサポートをしたいと考えています。そのために、最先端のテクノロジーを駆使したデジタルネイティブのソリューションを提供しています。

 私たちは、パートナー企業を通じてサービス提供者へアクセスし、エンドユーザーが求める商品を手に入れられるよう支援しています。エンドユーザーがbolttechという名前を知らなくても構いません。大切なのは、私たちの持つ能力が多様な事業を実現し、パートナー企業が大きな成功を収められるようサポートすることだと考えています。



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