マイクロモビリティとは、自動車よりコンパクトで機動性が高く、1人または2人乗り程度の車両を指す。小型で小回りが利き、ラストワンマイルを補うこの乗り物の普及で、交通渋滞緩和や過疎地における交通インフラ不足解消などが期待されている。Beam(本社:シンガポール)は、APACの5カ国・35都市で、マイクロモビリティ事業を展開する。アプリで簡単に電動キックボードなどをレンタルできるペイ・パー・ユース(pay-per-use)のビジネスモデルで、日本展開も近く計画している。Beam共同創業者でCEOのAlan Jiang氏に、同業他社との違いや日本進出の戦略について聞いた。

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設備投資がいらない「バーチャルドッキング」

 CEOのJiang氏は、これまでライドシェアサービス大手のUber、中国のシェアサイクル大手のofo(小黄車)に勤めた経験がある。Uberではインドネシア法人のカントリーマネージャーも務めた。現在、Beamはマレーシアやタイ、韓国、オーストラリア、ニュージーランドの5カ国で電動キックボードと電動アシスト自転車のレンタルサービスを展開し、数百万人の利用者がいるという。これはアジア太平洋地域では最大規模という。2018年にBeamを立ち上げた理由をJiang氏は次のように述べた。

「モビリティはどの都市にとっても重要なものです。交通インフラが効率的であればあるほど、人々はスムーズに移動できるようになりますが、その環境を整えるためには多額の資金が必要です。しかしマイクロモビリティなら何十億ドルという投資をしなくても、その夢を叶えることができます。しかも大量のCO2を排出することもなく、車の交通量を減らし、渋滞も緩和できるのです」

Alan Jiang
Co-Founder & CEO
イェール大学卒。2012年よりUberで中国、マレーシア、ベトナムでの事業立ち上げを担い、インドネシア法人のカントリーマネージャーを務める。2017年、中国の自転車シェアリングビジネス大手「ofo(小黄車)」の東南アジア責任者を経て、2018年にマイクロモビリティのBeamを共同創業し、CEOを務める。

 前職時代、移動にとって最も重要な要素は「低コスト」と「利便性」であることを発見したJiang氏は、Beamのマイクロモビリティ・ソリューションに、IoTの技術を使って利便性を高めることに工夫を凝らした。

「Beamの電動車両には全てIoTデバイスが装着されています。ユーザーはアプリをダウンロードすれば、どこに車両があるか確認できますし、車両を停めてあるスポットまでアプリが道案内もしてくれます。使う時は車体についているQRコードを読み取ってロックを解除したらサービス開始です。サービスは分単位で計測され、目的の駐車スポットに着いたらアプリ操作するだけで、支払いまで完了できます。車両はいつもインターネット制御されてデータが集まるので、利用時間を報告する必要もありません。アプリ上ですべてリアルタイムに完結できます」

 さらにBeamのビジネスモデルで特徴的なのは、車両を停めておくための独自の駐車設備を必要としないところだ。例えば、従来の自転車シェアリングサービスは、指定の駐輪場に自転車を停める必要があり、駐輪場設置のための設備投資が必要となる。一方、BeamのサービスはGPS信号を使って、車両を適切に駐車できる場所まで利用者を案内するのだ。

「私たちがバーチャルドッキングと呼んでいるのは、アプリに表示されるバーチャルな駐車場です。アプリとIoT技術、GPS信号によって駐車できる場所が分かり、適切な駐車方法を利用者に案内します」

地域経済へのの貢献と、歩行者と共存できる安全技術

 アプリ操作だけで完結でき、駐車施設の設備投資が必要ないBeamのマイクロモビリティサービスは、どの都市にとっても魅力的なサービスに違いない。だが、日本のライドシェアリングビジネスの普及が世界に比べて遅れていることから分かるように、各国の道路交通に関する規制や商慣習は大きな壁だ。Beamはこうした課題に対し、次のように取り組む。

「マイクロモビリティは新しいサービスですから、政府や地域社会などステークホルダーとのパートナーシップを重視しています。私たちは地域経済の活性化のためにBeam Boosterというプログラムを用意しました。これは、地域のお店や事業者の近くにバーチャルな駐車場を設定し、利用者が電動キックボードや電動自転車を駐車できるようにすることで、集客を促したり、アプリ内で無料の広告を配信したりします」

「BeamのGPS精度は非常に正確で、きちんと駐車されているか確認できます。地域経済がBeam Booster プログラムと連携することで、地域の店舗や事業者へ多くのトラフィックを促すことができると共に、適切に駐車ができる仕組みです」

 またBeamは、安全技術の開発にも力を入れており、車両にはMARS(Micromobility Augmented Riding Safety)と呼ばれる最先端安全技術も搭載している。これは歩行者を検知してスピードを落としたり、歩行者道路を見分けるゾーニング制御が可能となる技術だ。こうしてライダーと歩行者双方が、同じ空間で安全に共存できるよう注意を払っている。

Image: Beam

APAC最大のモビリティ企業を目指す

 Jiang氏はBeamのマイクロモビリティは普及が急速に進んでおり、この2年足らずのうちに業績は15倍にも成長したと説明する。2022年2月には、シリーズBラウンドでAffirma Capital、Sequoia Capital Indiaなどから9300万ドル(約124億円)を調達した。資金は資産購入と技術開発にあてていく考えだ。

 とくにバーチャル駐車場の重要な技術であるGPS精度の開発には力を入れており、センチメートル単位にこだわって精度の向上に力を注いでいく。世界各国にR&Dチームや提携するOEM生産工場があり、現地ニーズに合わせた開発も行っているという。

 次に狙いたいマーケットとして日本とインドネシアを挙げたJiang氏は、次のようなパートナーシップを日本企業に求めた。

「とくに駐車ステーションの確保について、あらゆるレベルの都市でパートナーを求めています。私たちのサービスを利用しているのは、人口2600万人もの大都市もあれば、人口5万人の小さな町まであります。日本でも同じように、すべてのエリアに進出したいと考えています」

 将来的なビジョンについて、Jiang氏は「BeamはAPACで最大のモビリティ企業になることが夢です。そのために人々が場所から場所へと移動する時、最も低コストで便利に使えるサービスとなれるよう努力していきます」と述べてインタビューを終えた。

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