電子機器のリサイクルが敬遠される2つの理由
Larauze氏は大学卒業後、フランスのNetevenという企業に就職。この会社はeBayの元ディレクターらがつくったEコマース企業向けのプラットフォームである。同社の営業担当として2年間、メーカーや小売業者が世界中のマーケットプレイスとつながる支援をしてきた。
「私の仕事はEコマースでビジネスを最大化したいと願う企業を手伝うことでした。顧客はワインの小売り、スマートフォンの販売会社など本当にさまざまでしたが、中にはリファービッシュの会社もありました。私は中古品を修理する彼らの仕事を見て、『なんて革命的なんだろう』と衝撃を受けたのです。なにしろ地球の資源は限られているのに、消費者の購買欲は際限なく高まる一方ですから。世界が進むべき道はここにあると思いました」
電化製品の使い捨てによる環境への悪影響を減らし、循環型経済を実現するために、リファービッシュに可能性を見出したLarauze氏は、どうしたら中古品を広く流通させることができるか検討を始めた。着目したのは、リファービッシュ品の流通を妨げている要因を取り除くことだった。
「人々が中古品を懸念する理由は、価格の問題と、中古品が動かないかもしれないという不安の2つです。われわれの取り扱う商品には新品と同じように保証がついています。しかも新品より手頃な価格で買えます。品質の不安さえ取り除けば、受け入れられると確信しました。しかも当時、誰もそのことに気がついていませんでした」
こうして2014年、Larauze氏はリファービッシュ品を手頃な値段で買えるマーケットプレイスBack Marketを立ち上げた。人々が新品を買い続け、捨て続ける流れの代わりに、リファービッシュ品を流通させ、持続可能な社会を実現するためだ。
「私たちの事業は1500社余のプロの業者が再生した商品を販売するウェブプラットフォームを運営することです。私たち自身が製品を再生するのではなく、出品者から手数料を取ることで、ビジネスを成り立たせています」とLarauze氏は語る。
Image: Back Market
「品質の不安」をアルゴリズムで解消した4つの工夫
Back Marketはリファービッシュ品の信頼性を、どのように消費者に保証しているのだろうか。その仕組みは、大きく分けて4つの段階で構成されている。最初のステップは、プラットフォームに参入したい出品者の約30%しか通過しないという厳しい品質チェックだ。
「品質チェックは、主にリファービッシュの技術的な部分を対象としています。改修方法や、使用する部品、動作確認のためのソフトウェア、テスト方法などあらゆることを質問します。製品の不良率を低くするために必要だからです。そのほか、お客さまの問い合わせに素早く対応できるか、スピーディに配送できるかなどB2Cの基本的な能力も評価します」
もし品質チェックで不足する点があれば、それを補うサービスもBack Marketは提供している。
第2ステップでは、専任マネージャーがついて、ユーザーエクスペリエンスを向上させる施策を打っていく。
第3ステップは、Back Market独自のアルゴリズムを使って在庫の中から最も品質スコアの高い製品を選び出してレコメンドすることだ。
「リファービッシュ品同士の競争は価格ではなく、品質で行われるようにアルゴリズムを使って工夫しています。例えば、全く同じ製品を売る業者が複数いた場合、Back Marketのアルゴリズムは、ウェブサイト上で最も品質スコアの高いものだけを表示します。この品質スコアは、お客さまの満足度や、不良品率など20ものKPIによって評価されます。こうした技術的特徴はBack Marketならではのもので、他のマーケットプレイスでは見られません」
出品後もBack Marketのミステリーショッパーがランダムで商品を購入し、すべてのパーツを調べて100%信頼できるかどうかをチェックする仕組みだ。
ここまで徹底する背景には、Larauze氏の「本当に重要なのは価格ではなく、品質である」という信念に基づいている。こうして、2020年夏には150万だったユーザー数は、約1年半で4倍の600万を超え、世界有数のマーケットプレイスへと急成長させたのだ。
取り扱うのは、スマートフォンからパソコン、ゲーム機、テレビ、家電まで幅広く、現在、約10万点の製品が流通し、16カ国のユーザーがBack Marketのマーケットプレイスを利用する。
Image: Back Market
循環型経済の構築には多くのチャンスが広がっている
Back Marketは2022年1月、シリーズEでSprints Capital、General Atlanticなどから5億1000万ドル(約650億円)を調達し、時価総額は57億ドルとなった。調達資金でエンジニアの採用を中心に進めていく。ドイツやスペイン、イギリス、アメリカ、日本などでの採用を進め、従業員数は現在の約650人から、年内に850人まで増やしたいという。
同社はこれまで欧米を中心に展開してきたが、2021年に日本にも参入。今後は韓国にも進出したいと考えている。
日本では、整備業者20社とつながっているという。Larauze氏は日本で今後、次のようなパートナーシップを求めている。
「日本の整備業者はとても優秀です。それだけでなく私たちは、小売業者やメーカーとも会いたいと思っています。なぜなら、彼らの製品を拡大するためのパートナーになりたいからです。日本の有力な通信事業者とつながって、エコシステムを築くことができれば、とても面白いものとなるでしょう」
新しい構想として、中古品の「買取サービス」を考えているLarauze氏。現在の下取りの仕組みは、あまりにも手間が多く、人々が敬遠する結果となっているといい、Back Marketはアプリを使い、クリックするだけで下取りとお金が簡単に手に入るような仕組みをつくりたいと語った。循環型経済の構築に向けたゲームチェンジャーになるだろうとLarauze氏は説明する。
Larauze氏はより多くの若い起業家に、循環型ビジネスにチャレンジしてほしいと呼びかけた。
「循環型経済は、全ての人にとって必要なことです。もしあなたが起業したいと思うのであれば、事業の成功だけでなく、パーパス(目的)という観点から事業を立ち上げることを強くお勧めします。循環型経済の構築には、チャンスがたくさんあります。ぜひ一度、自分の目で見てみてください。そして無駄な物を作る会社ではなく、人々のためになる会社をつくりましょう。世界はみんなの役に立つ起業家をもっと必要としています」
「だからビジネスを始めようと思ったときに、自分自身にじっくり問いかけてください。そのビジネスは本当に問題を解決するものなのかと」