国ごとで異なる保険制度。日本のように国民保険制度に加入していれば医療サービスを問題なく受け入れられる国もあれば、米国のように国民全員を対象とする公的医療保険がなく、自己責任で民間の医療保険に加入する必要がある国もある。今回は、医療サービス購買プラットフォームを提供するSesameのCEOで、日本にも縁のあるJohn Fontein氏に話を聞いた。

150万円の診療費の請求に驚き、起業を決意

――どうしてSesameのサービスを立ち上げようと思ったのですか?

 多くの創業者がそうであるように、私も個人的な経験がきっかけでした。妻が幼い長女を病院に定期検診に連れて行った際、私たちが定期検診だと思った診療に対して、あとで1万4000ドル(約150万円)の請求が来たのです。どう考えても1万4000ドルの価値があるほどの診療ではないと思いましたが、請求はその後も数ヶ月経ってから3000ドル、5000ドルと追加で来続けました。これはアメリカの医療システムではよくあることですが、私は最悪の消費者体験だと思いました。どのようなサービスを受けても、あとから用途不明の請求が来るということは、保険業界以外で存在しません。

 そこで私は、Sesameのもう1人の共同創設者である大学時代からの親友とこの問題を解決したいと思い立ったのです。ヘルスケア業界での職務経験はありませんでしたが、結局もう1人共同創設者を交えて3人で起業する方法を考え、何ヶ月も熟考し、計画を立て最終的にSesameを始動させました。

医療サービスも買う時代に。好きな時間に好きな医師を選んで前払い決済

――さまざまな民間の保険が存在しますが、どのように差別化を図っていますか?

 一般的に、診療受ける際に、どの医療機関や医師が保険の対象かわざわざ調べなくてはいけません。しかも、いくらかかるかも前もって知る術がないのです。

 Sesameは、患者である消費者が医師とのアポを前払いで直接予約できるサービスを提供しています。定期検診からX線検査、MRI、なんと手術までオンラインで前払いして予約できます。米国のどこにいようとSesameのウェブサイトを訪問すれば医療サービスを受けられるようになっていて、他のどのショッピング体験同様、医療サービスを「購入」できるという仕組みです。このような購買型のモデルは現在存在しません。

Image: Sesame

 一方、医療サービスを提供する側も需要の大きさや、患者の払いたい金額が見えるので、自身のサービスを多様化したり、的確な価格設定を行うことができます。自分たちの医療サービスをプラットフォームに掲載し、患者と直接関係を持つことができるのです。

 また、これまで自分のビジネスを立ち上げたことのない医療プロバイダーは、Sesameでワンストップでビジネスを立ち上げることができます。私たちは自分たちのことを、Shopifyのようなものだと考えています。ドクターのためのShopify、あるいはSquareのようなものですね。

 総合的にSesameは保険というものから離脱を図り、ユニークで新しいスペースを確立しようとしています。保険制度というのは、医療従事者や医療機関と非常に深くつながっているので、私たちは、従来の保険の代わりとなり革新をもたらすようなものを作ることに専念しています。

 普段だったら1回の診療がいくらかかるか、単価や平均価格が分かりません。そのような不透明性をなくし、Amazonで物を購入する際同様、消費者自身がオプションを比較してサービスを選択できるような存在でいたいのです。そのような意味では、私たちは保険とは全く異なる存在と言えるでしょう。

――2021年4月の投資ラウンドで2400万ドルの資金調達を行ったそうですね。資金の使い道を教えてください。

 1つ目は、技術投資で、強固なプラットフォームを作り続けることです。2020年はバーチャル医療にかなり投資を行いました。今後は人々が直接人と対面するライフスタイルに戻ることを想定して、予約をシームレスに行ったり、専門家に簡単に紹介を行えるようプラットフォームを開発していきたいと思います。

 2つ目は、処方箋を持つ患者がSesameを使って薬を受け取れるようにするサービスを開発することです。そして最後に、米国内で患者が直接対面できる医療機関や医師を全50州に広げることです。現在オンライン・対面共にサービスを提供していますが、対面が全米に広がるよう地域的に拡大していくことが目標です。

消費者に選択の余地を増やすために日本展開も検討

――国際展開、日本国内での展開予定はありますか。

 私たちの解決しようとしている問題は、米国が中心です。しかし、だからといって他の国に展開しないということはありません。民間保険はどこの国でも提供されていますし、そのような保険に加入している人は多数存在します。行きたい医療機関や医師が既に決まっているような民間のスペースであれば、参入する余地があります。Sesameのようなプラットフォームがあると、提供するサービスやその価格を多様化できます。受付時間外でのサービス等を提供することも可能です。

 また米国を訪れる観光客等も利用できます。保険を持っていなくても、サービスのみを受けることが可能なので、面倒な保険選びが不要です。このように、日本に限って言えば、旅行会社などとの提携も視野に入れています。企業に限ると、社内のフリーランサー等がSesameを使用できるよう法人提携に興味がある企業や、社員に保険等の福利厚生を保証できない小さな企業等も提携の余地があると思います。

――Fonteinさんは日本にも関わりがあるそうですね。読者の皆さんにメッセージをいただけますか。

 私は日本に家族がいるので、日本は非常に特別な場所です。もともと音楽活動をしていて、ヘルスケア業界に縁はなかったのですが、医療サービスに対しての高額な請求は起業を決意するほどに大きな問題だと身近に感じました。私たちのようなユニークなモデルのプラットフォームは、業界で唯一無二です。業界を刷新していくものとなることを確信しています。これからも、オンラインで物を購入するように、医療サービスも購入する時代に突入していくでしょう。

John Fontein
Sesame
Co-Founder
2008年にプリンストン大学卒業後、Goldman Sachsに勤務。傍で日本で音楽活動を行うも、個人的な経験をきっかけにヘルスケアのスタートアップ立ち上げを決意。2018年にSesameを共同創設する。




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