Image: Apollo Fusion
2016年に設立されたApollo Fusionは、小型化が進む宇宙衛星向けの電気推進ロケットエンジンを製造するスタートアップ。今回はCo-Founder&CEOのMike Cassidy氏にインタビューした。

Mike Cassidy
Apollo Fusion
Co-Founder&CEO
マサチューセッツ工科大学で航空宇宙工学の修士号を取得。複数のスタートアップの創立に携わり、うち1社がGoogleの傘下に入ったことで、自らも同社のプロジェクトリーダーとして活躍。2016年にApollo Fusionを設立し、CEOに就任。

人工衛星の開発が進む宇宙産業界に、小型で安価な電気推進エンジンを提供

―まず宇宙産業の現状と御社の企業ミッションを教えてください。

 今、宇宙産業は人工衛星ブームといえるほど、盛り上がりを見せています。国家も企業も、これからはより安価で小型の宇宙衛星を作っていく方向で動いており、この先2〜3年のうちに数千単位の衛星が打ち上げられると見込まれています。当社では、そういった小型衛星向けの推進エンジンを製造しています。

―大型衛星用のエンジンと、何が違うのでしょうか?

 従来の衛星に使われていたものは、ほとんどがヒトラジンという化学燃料をもとにした化学推進エンジンです。ヒトラジンはジェット燃料の一種で、燃焼で発生するガスを推進力にするものです。電気推進はそれに代わり、燃料をプラズマ化させてイオンを発生させ、それを加速させることでエネルギーを生むタイプのエンジンです。

 具体的にいえば、1秒間に約1万メートルという勢いでイオンを放射します。一つひとつのエネルギーは大きくありませんが、それを大量に放出することで、非常に効率よく衛星を動かすことができます。

 効率性でいえば、従来エンジンの3倍になります。3倍ということは、同じレベルの推進力を、3分の1の大きさのエンジンで生み出せるので、サイズの小さい衛星にも十分対応できるというわけです。

 電気推進の唯一の欠点は電力供給源が必要、という点ですが、たいていの人工衛星にはイオン式の電気推進に十分なソーラー発電やバッテリーが装備されているので、問題はありません。

Image: Apollo Fusion

自社研究所で開発するエンジンで、人工衛星の可能性を広げる

―他社と比べた、御社のエンジンの特徴を教えてください。

 とにかくコンパクトです。稼働パーツは一切ありません。陰極ヒーターもありませんから、安全性も高いですし、今までにない磁場を作り出すことでレーザービームのように集中的にイオンを放出し、効率的にエネルギーを生み出すことができるのです。その技術が認められ、今は政府や企業から注目していただいています。

―御社にはエンジン製造用の研究所がありますか?

 設備の充実した、素晴らしい研究所があります。高さ6メートル、幅2メートルの真空室は世界有数の規模です。ここで1万2000回を超える試験を行い、製品の性能や安全性を確保しているのです。

―御社のエンジンが人工衛星業界に与えるインパクトについてどのようにお考えですか?

 他のシステムと比べても、非常に効率性が高いため、衛星の小型化・軽量化に貢献しています。これまで、1つのロケットに搭載できる人工衛星の数はせいぜい6機まででしたが、当社のシステムを使ったものであれば、18機程度は積めるようになるでしょう。また、従来のものより低コストなので、通信衛星製造のハードルが下がります。

 たとえば、地上の画像撮影するための観測衛星を製造する場合、当社のエンジンなら従来システムよりも高度の低い衛星を飛ばすことができます。実は高度が低くなるほど大気抵抗が大きくなり、衛星を飛ばすのにエネルギーが必要になります。我々のシステムは効率よくエネルギー生成するので、従来500メートルだった高度を250メートルにまで下げることが可能です。2倍地上に近ければ、2倍正確な画像撮影ができますから。

起業のきっかけはGoogle時代のバルーンプロジェクト

―このビジネスを始めた経緯は何でしたか。

 今の会社を設立する以前、私は4社のスタートアップを手がけてきました。そのうち最後の1社はGoogleの傘下に入りました。Googleの一員になってから、私は「プロジェクトLoon」というものに携わりました。これはバルーンを20キロの上空に飛ばし、世界中にインターネットを提供する、というプロジェクトでした。

 たとえば、今ケニヤでは20キロ上空にあるバルーンと接続した携帯電話経由でインターネットを使っています。この経験から、次は宇宙航空工学にかかわるスタートアップを立ち上げることにしました。もともと私は大学で航空宇宙工学を専攻していたので、もといた世界に立ち返ることにしたのです。

Image: Apollo Fusion

次世代人工衛星ブームの機会を逃さず、世界的な宇宙航空企業へ

―2016年設立ということで、御社は短期間で大きく成長されましたが、その要因は何だと考えていますか。

 タイミングもあると思います。今、業界の人工衛星メーカーが小型衛星の開発で盛り上がっています。彼らは効率的でパワフルなエンジンを求めているので、我々はタイミングよく、そこに参入したと言えます。

 また、当社には非常にフットワークの軽いメンバーがそろっていた、という点も強みです。アイデアを形にして、技術を市場に持ち込むまでがとてもスピーディであることも、成長の理由だと思います。

―今後、世界展開も視野に入っていますか?日本の企業と提携する可能性もあるのでしょうか。

 日本は昔から高品質の衛星や周辺機器を作ってきた国ですね。宇宙産業でも、日本のテクノロジーは高く評価されています。今、日本には月や火星に到達する宇宙船製造に意欲を見せる企業や、高性能カメラを搭載した地上観測衛星開発などに興味を持った会社もいます。

 今後、そういった企業からの依頼もあるでしょうから、日本には注目しています。互いに切磋琢磨するためのブレインストーミングなんかもしてみたいですね。

―最後に、将来的なビジョンを教えてください。

 私たちの夢は、今後5年間に打ち上げられる人工衛星のうち、半数に当社エンジンを搭載してもらうということです。なかなか野心的な目標だとは思いますが、十分成功するチャンスがあると確信しています。

 スプートニクが打ち上げられて以来、これまで6000機もの衛星が飛ばされました。しかし、人工衛星の需要が高まって参入企業が増えたこともあり、今後5年間に打ち上げられる人工衛星は2万機に上ると言われています。それらを当社のエンジンで支えていくことが、私の夢です。



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