image: Frame Stock Footage / Shutterstock
Apex.AI(本社:米カリフォルニア州パロアルト)は、次世代車両のOS(基本ソフト)「Apex.Grace」などのプラットフォームを提供する企業。日本の車両メーカーからのSDV(Software-Defined Vehicle:ソフトウェア定義車両)需要の高まりからApex.AI Japan合同会社を設立し、2023年4月より本格的に事業を開始している。訪日した同社創業者でCEOのJan Becker氏と、同社のコーポレート開発担当SVPであり日本暫定カントリーマネージャーにも就任したTavis Szeto氏に、プロダクトの概要や日本事業での展開を聞いた。

自動車もソフトウェアをアップデートして機能を向上できる時代へ

 SDVとは、スマートフォンやパソコンのように、ソフトウェアをアップデートすることで機能を追加・改善できる車両のことだ。従来の車両は、空調制御、インフォテインメント、エンジン制御、クルーズコントロールなど機能別にそれぞれソフトウェアが搭載されており、出荷後にそれらが変更されることはなかった。SDVの場合はコンピューターとセンサー、各種機能などがそれぞれ関連するように設計・構築され、ソフトウェアの更新によって機能を追加・改善することができる。

 Becker氏は25年以上にわたり、車両向けソフトウェアや自律走行を開発してきた経歴を持つ。2010年からはスタンフォード大学で自律走行や運転支援に関する講義を行っており、2017年にApex.AIを共同創業した。TECHBLITZ編集部では、2019年にBecker氏を取材している。当時はスタンフォード大学発のオープンソースソフトウェアRobot Operating System(ROS)を、自動運転車に適用する企業として紹介した。現在ではそれが発展し、SDV向けに安全なアプリケーションを実装できるプラットフォームとなっているのだ。

 AppleやGoogleが、スマートデバイスのアプリ開発者にSDK(Software Development Kit:ソフトウェア開発キット)を提供するのと同じように、Apex.AIもSDV向けのSDKを自動車関連企業に提供している。Becker氏は「これは、非常に複雑なロボットや自動車のシステム開発に必要な、すべての基本ソフトウェア機能を含めたビルディングブロック・ライブラリのセットです。機能とは、プロセスの開始方法、プロセス間の通信方法、リアルタイムのデータ交換方法などを指します。すなわち、車両やロボットを効率よく動かすための基本ソフトウェアがすべて含まれているのです」と説明した。

Jan Becker
Apex.AI
Co-Founder & CEO
ブラウンシュヴァイク工科大学にて2001年に博士号取得(Control Engineering)。2002年から12年以上Boschで勤務し、2010年からはスタンフォード大学にて自律走行や運転支援に関する講義を行う。自動運転に関するベンチャー企業を経て、2017年にApex.AIを共同創業し、CEOとなる。

Tavis Szeto
Apex.AI
コーポレート開発担当SVP 兼
日本暫定カントリーマネージャー
カリフォルニア大学デービス校で経営経済学を専攻。コンサルティング企業やIT企業を経て、2012年、EV向けインフラ企業のChargePointにてビジネス開発に従事。2017年からはパナソニックの米国関連会社にて自動車関連業務を手がけたのち、2021年よりApex.AIに参画。

SDVの実現にはコラボレーションによるエコシステム形成が重要

 Szeto氏は、EV充電インフラ企業であるChargePointやPanasonic Industrial Devices Sales Company of Americaなどの自動車業界の企業にて、Tier1企業とのビジネス管理や、EV分野の新規OEM・モビリティ企業に対するEV・ADAS/AD技術提供などに従事しキャリアを重ねてきた。その中でBecker氏らと知り合い、2021年にApex.AIに参画している。その理由についてSzeto氏は「自動車産業において、ソフトウェアが重要な鍵を握っていることに気づいたのです。Becker氏のことやApex.AIで起きていることも知っていましたので参加を決めました」と語る。

 SDVにおけるOSの重要さについてBecker氏は「数年前は誰もが単独で自動運転レベル4の車を開発しようとしていましたが、非現実的だということがわかりました。現在、各企業はコラボレーションの必要性を理解しています。弊社がOSを提供し、各社が特定の機能を提供することでエコシステムが形成されます」と説明した。

 コラボレーションの一例に、2023年3月に発表された、ドイツの自動車向け半導体メーカーInfineon Technologiesが提供する「AURIX™ TC3x マイクロコントローラー」とApex.Graceの統合がある。これによって従来の多くのエンジニアと時間を必要としていた車両用ソフトウェア開発を大幅に加速できるという。

image:Apex.AI

自動車だけでなく、建機やロボットなど多様な産業の自動化への貢献を目指す

 Apex.AIは、トヨタ・ベンチャーズ、ボルボグループ・ベンチャー・キャピタル、エアバス・ベンチャーズ、ダイムラートラックなど、自動車業界のさまざまな企業が投資家として名を連ねている。そのテクノロジーは自動車用機能安全規格であるISO 26262の最高レベル認証を取得し、すでにいくつかの自動車やトラクターなどに採用されている。現在は、より広い採用を目指してグローバル・ファースト戦略をとり、アメリカ以外にもドイツ3ヶ所、スウェーデンに1ヶ所のオフィスを構え、2023年4月には東京のオフィスも本格稼働した。同年5月には韓国にも事務所を設立している。

 日本支社の開設の理由ついてSzeto氏は「日本には、世界最大級の自動車メーカーがあり、それを支えるサプライヤーのエコシステムもあります。また自動車だけでなく、建設機械などのメーカーもあります。SDVや車両の自動化といったソリューションを求めている企業がたくさんいるのです。日本のお客様からソフトウェアに関する多くの質問をいただくようになったこともあり、よりお客様の近くで仕事をする段階となったと判断したのです」と説明した。

image: Apex.AI HP

 今後は、自動車や建機メーカー、OEMだけでなく、さまざまな業界への販売チャネル・パートナーやソフトウェアを開発する企業とのパートナーシップも強化していく。Becker氏は、次の2〜3年で同社の技術を搭載したSDV車両の量産を推し進め、5年後には、ヨーロッパ、北米、日本、韓国、すべての地域、すべての主要なOEMを顧客とし、さらにその後は他の産業に進出するという事業構想を明かした。日本市場における顧客やパートナーとなる企業に向け、2人は次のようにコメントした。

「私たちがここにいる理由のひとつは、オープンなコラボレーションを実現するためです。世界は一人の人間や一企業よりも多くの想像力を持っています。潜在的なパートナーから生まれるアイデアが、新しいイノベーションにつながると期待しています」(Szeto氏)

「私たちはSDVへの移行を強力に支援します。自動車などハードウェア企業がソフトウェア領域に移行する必要がある場合、大幅に加速させることができるのです」(Becker氏)



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